#記念日にショートショートをNo.7『それが真実の元号であるならば』(If it is the True Era Name)
2019年4月1日(月)エイプリルフール 公開
【URL】
▶︎(https://ncode.syosetu.com/n6476ic/)
▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/n697c0c26b2e3)
【関連作品】
なし
「おめでとうございます、抽選に当たりました!」
受話器の向こうから無機質な音が告げる。まったく予想していなかった出来事に、思わず「えっ?」と電子音に聞き返す。そんな俺に構わず、電子音が喋る。
「…作成した元号は必ず明日の午前0時までに官庁へファックスで送信してください。…」
聞きながら、置時計の時刻を確認する。タイムリミットまであと14時間。これだけあれば、他の当選者の元号と遜色のないものが作れそうだ。俺はふっ、と息を吐く。やがて電子音が終了し、受話器を元に戻す。テレビの前に置いたままになっていた紙を開き、声に出してもう一度確認する。
「今回の元号は、国民の皆様の中から抽選で選出された10名の方が、1人につき1つ作成することになりました。作成された元号は、官庁職員や皇族を含む全日本国民の投票により、うち1つが選出され、それが新元号として決定します。…」
紙を戻し、机の前に腰を下ろす。さて、どうするかな。べたなところとしては、「和」「安」「平」「久」などを使ったものだろう。でもそれでは面白味がない。何か他の当選者と差をつけられるような、一捻りも二捻りもしたようなものを……。待てよ、形式は確か不問だったよな……。
翌朝、新元号の決定を見るために、俺はテレビのスイッチを入れた。官庁からの手紙に、新元号案提出締切日の正午頃に、決定した新元号をテレビで発表するとの旨が書かれていたのだ。まさか選ばれることはないだろうと思っていたので、コーラを飲みながらテレビを見る。
「…それでは、新元号を発表します。」
その声を合図に、官房長官が伏せていた紙を起こした。
「新元号は、エイプリルフールです。」
手からコップが滑り落ちる。信じられないような気持ちで画面を見つめる。官庁のざわめきがすぐそばにあるように感じる。
「官房長官、下げてください!」
コップを拾おうとした手を止め、画面に視線を向ける。
「失礼しました、只今の新元号は誤りです。」
呆然として、テレビの中の官房長官を見る。
「正しい新元号は、令和です。もう嘘はつきません。」
成和正治は床にこぼれたコーラを黙って拭いた。
【登場人物】
●成和 正治(なりわ しょうじ/Shouji Nariwa)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
◎登場人物の名前について
令和より前の4つの元号(平成・昭和・大正・明治)に使われている2文字目の漢字(成・和・正・治)を組み合わせています。
【原案誕生時期】
公開時