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シルフィード対アスランに戻ります
血に沈む。
視界が紅に、真紅に染められる。
私の中の何かが沸き立つ。
なにかの枷が解き放たれたかのように、私の体が躍動する。
「あ、は、は」
私なのに、私じゃないみたいな力で。
どこか馴染み深い、空気。
ああ、これは。
私の城の空気だ。
城に充満していた、薔薇と血と、封印の匂い。
濃い、深い、血の匂い。
「ッッッ!?!?!?」
あれ、髪の毛……こんなに長かったっけ。
毛先も、赤く染まってる。
私は、遥か向こうに落ちていた刀を操作して手元にもってくると、自分の手首を切った。
どぽどぽどぽ、と鮮血が落ちる。
容赦なく切った私の手は、すぐに再生する。
紅が、まとまり一つの形となる。
「私は、吸血鬼の女王。」
***
シルフィードさんから暴力的なまでの魔力が溢れ出し、その衝撃波によってふっとばされる。
ガンッ、と音を立てて止まったときには、もう全てが変わっていた。
空が変わった。
夕暮れから、明け星の輝く明朝へと。
次に、彼女の姿自体が変わっていた。
腰ほどだった白い髪の毛は伸び、足までに。
その髪の毛の毛先は紅に染まり、美しいグラデーションを描いている。
毒々しいまでに真っ赤に染まった唇からは、鋭い犬歯が見えていて。
「ッッッ!?!?!?」
漸くここで、彼女の種族が吸血鬼であることに気がついた。
そして彼女は、俺が弾き飛ばしたはずの刀を引き寄せ、自身の手首を傷つける。
躊躇いなどなかった。
己を平然と傷つけてみせた。
その傷は、すぐに跡形もなく消えた。
だが、その代わりかのように地で血溜まりを作っていた彼女の血が、ぐにゃりと形を変える。
月型の刃を携えた彼女の、爛々と光る瞳孔の開いた瞳は、赤で。
まるで獣のように獰猛でありながら、美しい芸術品のようで。
―――ピロンっ
雰囲気を吹き飛ばすかのような、そんな電子音でさえありがたい。
彼女の放つプレッシャーに耐えるには、そんなものに出さえすがらなければ、耐えられなかった。
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#&*?&からの介入が確認されました
世界が交わります―――
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「は。」
どういう、ことだよこれ。
「今度は何やらかしてんだあんた…!!」
そう問いかけようとして。
いま、無理だ。
「私は、吸血鬼の女王。」
シルフィードさんの瞳が、俺を、敵を捉えてしまったから。
「私は、生と死を司るもの。」
こちらを、敵と認識してしまっているから。
暴力的なまでの魔力が、襲いかかる。
***
“私は、手遅れだったの。”
“助けられなかったのよ。”
“だから、貴方は――…せめて、貴方だけは。”
“間に合って。私ができなかったことを、成し遂げてみせて。”
“この本は、そのための道標。”
“いつか、私が貴方に会えたなら。”
“全てを話すから。”
“だから今は、ただ”
“前に進んで―――”
―――鮮血鬼―――




