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明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いいたします!
今回は三人称視点になります。
では、どうぞ。
―――一方、その頃。
かつて、ナナが娘として暮らしていた貴族家の領地。
その中にある『惑いの森』と呼ばれる森の中には、
「……あははははははははっはははっはははははっっっっっっっっっ!!
シルちゃんは貴方に期待してたみたいだけれど、期待外れねぇ♥」
「ぐ、ぅ…。」
切り飛ばされた片腕をかばいながら立ち上がるボロボロのリツキの姿があった。
対して、空中で楽しそうに笑うチャコには、目立ったような傷はない。
所々に切られたような跡があるだけで、リツキのような致命的な一線は越えていなかった。
「……(これが、世界ランク三位。虎もアスランも大概だけど…。)」
この化け物共め、と小声で悪態をつく。
「ん? んん〜〜?? なんか言った?」
「いや、何でも?」
「あそ。ま、じゃあバイバ〜イ♥」
一瞬。
瞬きの間にこちらまで接近してきたチャコの戦斧が振られる。
(は、やッ!)
何度も何度もこの速さをその身で体感させられて目で追えてはいるが、反射的に防げるかと言ったらそうでもない。
ならばダメージ覚悟で特攻するか?
いや、それは得策ではない。
何故なら――
【障壁】を時間差展開。
ぐわあぁぁあああん、という音がして、【障壁】が壊れかける。
――彼女は戦士系パラメーター爆上げ勢であり、特に腕力、攻撃力に関しては外見を全く当てにしないほうが良いからである。
「ッ、【収納】!」
空間魔術の初歩の初歩である【収納】を時間差発動し、【障壁】をしまう。
(事前にこの魔法を覚えておいてよかった…ッ、本当にシルフィ様々…!)
失われたはずの魔術でも、シルフィ――リツキのパートナーである少女は取得方法を知り得ることができる。
その御蔭で彼は、
時間差発動→【収納】→【収納】した魔法に干渉して魔法の強度を回復→再び再利用
という魔法のことを知り尽くしていないと不可能な芸当をこなしてみせていたのだ。
「……あ゛〜〜〜、しッぶといなぁ゛?」
ただし、このやり取りも数十回目。
チャコがキレるのは順当なことであった。
「ほんっとぉにさぁ……。シルちゃんはいい加減自分が凄いってことを自覚したほうが良いと思うんだよね?
………だって、君みたいな寄生虫を生み出しちゃうんだから。」
ドスの利いた声でこちらを睨めつけるチャコ。
その言葉――寄生虫ということに対して自覚のあるリツキは気まずげな表情をするが、チャコが再び接近してきたのを見て避けようと後退する。
「逃げんなよ寄生虫」
ビキ、と額に青筋を浮かせたチャコは、一度思いきり地を蹴る。
スキルで宙に浮くこともできるし加速もできるが、それよりもこちらの方が加速できるからだ。
そのせいでばごん、と大地が割れるがそれもお構いなし。
彼女の視界が捉えているのは、彼女の愛する親友を害する、排除するべき蛆虫だけだからだ。
だが、地に足をつけるリツキは違う。
大地が割れた影響で少しバランスを崩す。
「ッ!?(まずい―――!)」
大慌てで体勢を修正しようとするも、それよりも早くチャコがリツキのところへ到達する。
右からの大振り。
来る方向も軌道もわかっているが、体勢のせいで避けられない。
急拵えの魔術でも対応し切れない隙。
ならば――…
――ギィィィィン…。
「小癪な。」
そう言って険しい顔をするチャコ。
チャコの目線の先には、
「んなこと言われてもね…。本来こっちがメインだし…。」
可視化できるほどの魔力をまとった右腕で、チャコの戦斧を受け流したリツキがいた。
***
地に落ちた龍
対峙せしは黒き天使
壊れし天使の心内は
生と死を前に覆る
龍の如き強さを得し愛子は
いつしか天使を打ち破ろう
天を回りし幻想の
現し世に現れし追放者
ときはいつかめぐるだろう
幻想の箱庭に終わりは来ない
いつしかときも忘れし頃
北星の導きを経て
神の寵愛を抱きし輝きが
大地を照らすのであろう
―――Ⅲの予言書―――




