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「……。」
ちょっとこの状態のアスランとは戦いたくないかなぁ…。
私は苦笑いを浮かべながら後退する。
現在アスランは、ブチギレ状態である。
私、怒らせて判断力を鈍らるか、本気を出させようとはちょっと思ってたけど、ここまで行くのは想定外なのよね?
ブチギレ状態のアスランって、ちょっと冷静さはなくなるけどその分野生の勘ってやつが鋭くなってますます戦いづらく…読みづらくなるから。
何故かは知らないけどアスランって研究者……もとい検証班、考察班がいくら考えても全く原理不明の攻撃をバンバン打ったりとかするし、それで成功しちゃうからなぁ…。
この状態だとさらにその特性が強く出るし…。
これが天才ってやつなのかね?
ま、私は本来近接戦闘専門。
遠距離の攻撃は専門外で、慣れないからブチギレ状態のアスランを相手にするには慣れてる方が逆に助かるけど…。
「あれ? なんで逃げるんですか、[狂眼]さん?」
「逃げてない、よっ!」
どぷん、と狼たちが一斉に闇に還り、私は宙を舞う。
そしてそのまま闇を足場にして再跳躍。
ひらり、とこちらに飛んできた炎の矢を避ける。
「うわずっる!」
それを見たアスランからブーイングが入るものの、私は
「ずるくない!」
と叫び返し、そのまま次の闇を蹴って跳躍。
アスランが間髪入れずに放ってきた魔法の矢を避けていく。
その間、当の本人は階段を駆け上がり、二階から私を狙う。
「チッ…。」
思わず舌打ちをしたのは許してほしい。
下から上への弓攻撃は威力が減衰する。
どうしても実体があるものには重さが加わってしまう。
だから私の取れる攻撃手段は減る。
「いやらしい戦法使うようになったねアスラン!」
「ああ、〈コントローラー〉さんの影響でしょうね!」
〈コントローラー〉。
盤面をコントロールするかのように操って見せることからつけられた異名だ。
そういう戦い方をする人と組んでいたならば、才能もあるし吸収の早いアスランがこういう戦い方を身につけるのは必然とも言えるだろう。
「戦いづらい相手だなぁ本当に!」
闇。
闇とは影。
今ある影を消滅させるには?
簡単だ、光をぶつけてしまえば良い。
私は何もヒントを出してはいないはずなのに、アスランはその弱点にすぐに気がついて実践し、結果を改良して研究していく。
つまりそれは、私の足場がなくなるということを意味する。
「【障壁】」
このまま闇を足場には使えない。
それにMPの消費もちょっと激しい。
なので私は闇を一旦止め、大きく跳躍する。
「ッ――!?」
そのまま無防備に刀を振りかぶって飛びかかってきた私を驚愕の表情で見つめながらも魔法の照準をすぐさまこちらに合わせてくるアスラン。
そう来ると思ったんだよ。
「『暁の盟約を此処に』ッ! 『我希おう、世界を成せし、存在禁術書を』!」
「は、ぁ!?」
私の足下に、幾重にも重なった紅い、紅い魔法陣が現れる。
事前に張っていた【障壁】によって阻まれた魔法の矢の爆発が、視界を鈍く遮る。
コレは、真新しく刻まれた本。
私にうってつけで、誰かが私のために書いたのではないかと思うほど。
著者は、レノトワール。
題名は――
「強化魔法【暁】――出典【鮮血鬼】!」
紅が、爆ぜた。
―――“気づいてくれると思ったわよ。頑張ってね、今代さん?”
これが今年最後の投稿になります。
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