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腐血姫の最強譚 〜自称普通の少女は、VRMMOで無双する、かもしれない〜  作者: おまめあずき
3 世界歴史書(ワールドレコード)クエスト
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 アスランはぐ、っと力を込める。

「ッ!?」

 ……嘘でしょ。


 力を込めた。

 たったそれだけのモーションで私の手から刀を奪ったアスランはそのままポイッと刀を放る。

 カラン、と相当後方に投げられた刀を見捨て、私はインベントリから刀を取り出そうとする。

「……ゔっっっっっっっっっわ。」

「すいませんね、シルフィードさん。」


____________________


 インベントリ使用禁止区域に設定されて

        います


 設定者:敵役(ヴィラン)プレイヤー【アヌビス】

____________________


「もう、使えませんよ?」

 あーもう、こんなの聞いてないって!

 インベントリの使用禁止って何よ!

 運営側しか使えないものをプレイヤーが使えるって可怪しいでしょ……って、そういえば敵役って運営から選ばれたプレイヤーたちなんだっけ。


「ずっこいなぁもう!!」

 取り敢えず再び肉薄してきたアスランを後ろに跳躍して回避した後、【飛翔】で補助する。

「【障壁(ウォール)】!」

 生み出された障壁を足場兼アスランへの牽制にして再び宙を舞う。

 そのままの勢いで一回転し、拡大した障壁を手で押すようにして飛び上がる。

 見事に【障壁(ウォール)】が拡大した反動を受けたアスランは後方に飛ばされる。


 衝撃をなるべく殺しながら飛び上がったおかげで音を立てずに着地することができた私は、詠唱を開始する。

「『愚か者に(ジャグ・)裁きを(フール)

罪深き者に(シィーヴィ)救いを(・セナー) 

開くは(オン・)闇深き(ディーヴァ)審判の(・ジャジ)(ルミュ)!!』」

 古代語で詠われたその詠唱は、地獄の門の門番を喚ぶための言葉。

 彼ら――神の使いに届くように作られた言葉とされる古代語は、彼らが話す言葉と似通っている。


「……裁きを。」

 あの子(先人)にならって、一言添える。

 すると、どぷん、と足下の影が沼地になったような感覚がした。


―――GURURU……。


 出てきていいか、と問われたような気がして、思わず口を開く。

 ……「良いよ、おいで」と。


「「「「GUAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」」


 現れるのは闇の使者。

 全身真っ黒の狼の群れ。

 無限にも思える闇が辺り一帯に広がるのを見て、一階にいるアヌビスが顔をひきつらせたのがわかった。


「よろしくね。」

 そのうちのリーダー的存在であろう一頭の頭を撫でる。

「GURURURURU……」

 リーダー狼が頷いたような感覚がして、私は安心して身を任せる。


「なんだよ、コレ……。」

「古代魔術。凄いでしょ?」

 まぁ、私が使える古代魔術といえばこれだけなのだけれども。


 まずまずこれを習得できたのだって本当に偶然だ。

 あのクエストで氷桜を殺さず従者にして、古代語の解読を手伝ってもらったから習得できたのだ。

 古代魔術って構成式まできっちり理解していないと使えないし。…………その分威力はめっちゃ高いしその割に魔力消費も抑えられるけど。


「古代魔術とは!?」

「言うわけ無いじゃん解ってるでしょ」

 確かに【叡智の書庫】で古代魔術の成り立ちについてはあらかた解っているけれども。

 手札をそうやすやすと見せるもんですか。


「クッソッ……。」

 アスランの悔しそうな声が聞こえる。

 彼の周りは薄っすらと黒い靄が漂い、この短時間で相当な数の狼を倒したのだとわかる。

 なぜなら、その靄は(彼ら)()()であるのだから。


 この狼たちは闇の、恐怖の具現化した姿。

 感情で形どられた獣という皮を剥けば、ただの闇でしか無い。

 だから脆く、倒しやすい。


 だが、闇とは影。

 影は、どこにでもできるものだ。

 ましてや、この館の周りは森であり、二日目が始まってから随分と時間が立っている。

 …もう、日が傾き始め、薄暗くなってきている頃だ。

 闇ができるのは必須とも言える。


 闇と恐怖を元として生まれる狼は、私の影以外からもあちこちの家具の影から出現している。

 全てを防ぐのは難しいだろう。

 月夜の廃神社とかいう闇しか無い場所でなんて、本当に戦いにくかった…。

 無限に湧き出てくる狼の恐怖と言ったらないわー…。


「クッソが!! 無限に湧き出てくるのかよコレ!!」

 そんな叫び声を聞いて、ふと、思い立つ。

 私があの子と戦った時、こんなに勢いが強かっただろうか、と。

 闇と恐怖。恐怖。

「ふ、ふふふ。」

 なんだか無性におかしくなってきた。


 今、このエリアでは敵役である彼らによって一般プレイヤーが()()の坩堝に落とされている。

 彼らはたったの一日半で、一体どれくらいのプレイヤーを狩ったのだろう。


 狼が無限に湧き出てくる?

 恐怖という原料を撒き散らしてしまった貴方達のせいじゃないのか。


「思いっきり自業自得なんじゃ…。」

「【特大超火魔球(エクスプロージョン)】ッ!!!!」

 あ。

 狼たちが爆発で吹き飛ばされ、闇へと還っていく。


「安全圏から、ニヤニヤと……」

「あ。」

 これは…。

「全力で………………叩き潰す。」

 怒りの余り笑みを浮かべるアスランに、私は冷や汗を浮かべたのであった。


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