57 間話・配信「【修行】ギブフリー、世界歴史書クエスト一日目【あるのみ】」
シルフィードたちの二日目が始まる前に、普通の冒険者さんの配信です。
【修行】ギブフリー、世界歴史書クエスト一日目【あるのみ】
「ほい、こんちゃ。33歳成人男性酒好き馬鹿、しょぎょーむじょーです。」
ゲーム内だと言うのにスーツ姿である男性がにこやかに挨拶をする。
〈挨拶がww〉
〈こんちゃ〉
〈ほい〉
〈初見です〉
〈世界歴史書クエスト楽しみすぎる(≧∇≦)/〉
「おーおー、集まってくれてありがとな。初見さんのために一応簡単な自己紹介でもするか。
33歳成人男性酒好き馬鹿、本職はプログラマー、副業は配信。一応【五星龍】所属、空手経験者。種族は天使だぞ。」
〈似合わない〉
〈細マッチョのくたびれたスーツ姿のおっさんが天使……〉
〈キツイwww〉
〈似合わねー〉
「まじそれな。似合わねー。羽根が出し入れできるのが幸いかね。」
白い羽を出し入れして見せる。
〈常時出しっぱはキツイ〉
〈俺の腹筋をやる気か〉
〈草〉
「んで、俺が今いるところな。
第一回世界歴史書クエストのフィールドで、天使の天に回る島って書いて、【天回島】って言うらしいぞ。」
そう言って、一度画角から外れ、周りを見せる。
「つっても、森しかねぇけどな。」
苦笑しながら、元の位置に戻る。
〈コレは思った以上に森w〉
〈めちゃめちゃ木生えてる〉
〈抜けるの面倒くさそう〉
〈迷いそう〉
「初期に持たされたのがこの地図だな。」
逆さまの「天」の形をした島の地図を見せるしょぎょーむじょー。
〈なんか厨ニっぽいこと書いてあるw〉
〈あーそれなー。〉
〈名前そのまんまwww「天」が回ってやがるwww〉
〈ホントだw〉
〈草〉
「取り敢えず俺は館を目指す!」
地図を一旦画面から離してサムズアップ。
〈おーおー。〉
〈ポツンってあるボッチ館な。〉
〈ボッチ館www〉
「良いネーミングだな。よし、コイツはこれからボッチ館と呼ぼうじゃないか!」
〈草〉
〈採用するんかい!〉
〈ボッチ館〜。〉
「んじゃ、飛ぼうか。」
ヴァッサァ、と効果音が付きそうな勢いで羽根を出し、羽ばたくしょぎょーむじょー。
〈く⤵さ⤴〉
〈へ?〉
〈恒例w〉
〈草ァ〉
無表情であることと、そのくたびれたスーツから、飛んでいるときはまさに社畜天使であると呼ばれていることを彼はまだ知らない。
カメラは、絶妙なカメラワークでしょぎょーむじょーを映しつつ下の方の惨状も映し出した。
「げぇ……。
何あれ??」
〈あー〉
〈敵役の話?〉
〈やばいよ〜〉
〈おい逃げろ!!〉
〈は?〉
〈今すぐ下におりろ!! 全速力で!!〉
何かに気がついたコメントの住人が、しょぎょーむじょーに警告する。
「へ? あ、うん。」
コメントに従い、羽を仕舞い、自由落下するしょぎょーむじょー。
〈お前w〉
〈降り方……〉
その時、ギュンっっっっとしょぎょーむじょーの目の前を何か黒い影が横切った。
「なぁんだ、ざーんねん♥」
そう言うと、その黒い影は一瞬で飛び去っていった。
「…ッ!」
一瞬遅れで、しょぎょーむじょーの背筋に冷汗が伝う。
「…ウッソだろオイ。」
リスナーのことを一瞬忘れ、ほうけるしょぎょーむじょー。
「あのメンヘラ女が敵役…? オワタやんけ」
〈マジでそれはそう〉
〈だれか、だれかあのメンヘラ女を止めてくれ〉
〈誰?〉
〈めんどくさくなってんじゃねぇか〉
〈やばくね?〉
「【優しい風】。Chacoっつープレイヤー知らん人〜。」
さらっと魔法で着地しつつ、コメント欄に質問を投げかける。
〈知ってる〉
〈知らん〉
〈(^^)/〉
「まじかー。
…【日進月歩】はしってるよな?」
〈勿論〉
〈モチノロン〉
〈知らんやついる〜?〉
〈いねぇよなぁ!!〉
「そこのギルマス。…メンヘラモードになってるけど。」
「厄介ですよね〜。」
「うんうん、って、誰!? 【アヌビス】さん!?」
「はいこんにちは【アヌビス】です。」
ぬっと背後からやってきたのは【アヌビス】。
銀色の髪に金色の瞳の美青年で、軍服のようなものに身を包んでいる。
〈アヌビス〉
〈キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!〉
〈やばくね?〉
〈え?〉
〈コイツも敵役〉
【アヌビス】は、しょぎょーむじょーに問答無用で殴りかかる。
「ちょ、マジすか!!」
「敵役だからねぇ…。」
【アヌビス】は敵役という印である、胸に刺した白い薔薇を指差す。
「うわ……。」
その間も足払いなどを狙ってくる【アヌビス】の攻撃を避けつつ、しょぎょーむじょーはどうしようか考える。
【五星龍】サブマス、【アヌビス】ことアスラン。
肉弾戦を得意とする前衛で、銀髪に金眼、褐色肌に狼の耳を持つ。
しょぎょーむじょーも、【五星龍】内では【アヌビス】派閥と呼ばれる『肉弾戦』に特化した派閥所属であるため、何かとお世話になっている先輩であり、近くでその強さ、凄さを見続けてきた者である。
が、故に。
「すいません離脱しか無いっすね!」
「だよなぁ……。」
少し寂しそうにしながらも、魔法を放つ【アヌビス】。
彼は近接戦の戦闘特化ということもあり、その威力は申し訳程度であったものの、空中でまだ体制が整えられていないしょぎょーむじょーのHPを削る。
「でも、それは悪手だよ。」
「へっ。」
気が抜けるような声を上げて墜落していくしょぎょーむじょー。
その純白の羽を穿つ鈍色の矢が、ギラリと陽の光に当てられて光る。
「ッッッ【障壁】……。あー。終わった。〈コントローラー〉さんもいるなら俺に勝ち目ねーじゃないですか。」
「…そういう、こと。」
ドサッ、と受け身も取れず落ちたしょぎょーむじょーの前に、水色の髪の猫人が現れる。
【五星龍】サブマス、〈コントローラー〉ことみるきあ。
変換のし忘れで、本来「ミルキア」になるはずが「みるきあ」になったという彼女は、魔法特化の猫獣人。
可愛らしいその容姿とは裏腹に、勝利に貪欲。絡め手であろうと勝利のためであれば使う。
場面を見通し、コントロールすることが得意なことから、〈コントローラー〉と呼ばれる五つの星の一つである。
「でも、ちょっと足掻かせてくださいよ? 【特大超火魔球】。」
しょぎょーむじょーはニヤッと笑う。
打開策は無いか、みるきあは考えるが、周りに張られた【障壁】を見てため息を吐く。
「ッッッッッッッ―――…ふぅ、流石、しょぎょーむじょー。諦め…悪い。」
「酷い言い草ですね。」
その言葉を最後に、しょぎょーむじょーは弾けとんだ。
あれっ。
館に行きたかったはずなのに、何故か自爆エンドなんですが…。え?
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