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腐血姫の最強譚 〜自称普通の少女は、VRMMOで無双する、かもしれない〜  作者: おまめあずき
3 世界歴史書(ワールドレコード)クエスト
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―――ジジッ……。


 ネェ、ナンデ。


 ナン、ナン、ナン…で。


 なんで、あの子は、ノエルは。


 私と、違うのだろう。


 ねぇ、なんで?


 ―――ルヴィ様……………。







  *


 ふ、と現実に戻ってくる。


 精巧過ぎるムービーのせいで、私の頭は少しこんがらがっていた。

 数秒ほどして、やっと私の脳は再起動する。


『ねぇ、なんで? 貴方は、わかる?

 ノエルが、なんでオネエサマを殺したのカ。』

 そこへ投げ込まれた質問。

 …さあ、私はこれにどう答えるべきか。

 肯定か、それとも、否定か。


 ……それがわかるほどこの子に関わってないから、わかんないな。

 …………………うん、よし、正直に答えよう。


「………ううん、わかんない。でもね、これだけはわかる。

 あなたのお義姉さんは、貴方に幸せになって欲しいって、言ってた。」

 代行領主をしていた令嬢―――この子の義姉の言葉。

 小さく、か細く、もうすぐ命の火をすり減らしてしまいそうだった令嬢の言葉。

 だが、たしかに私の耳朶を揺らした言葉。


―――『願わくば、優しい優しい貴方(ナナ)が進む道が…幸せでありますように』


「復讐をやめろ、とは……言わない。というか、言えない。

 貴方の気持ちの問題だし、他人である私が干渉しようとは思わない。

 でもね、お義姉さんの願いだけは、覚えていてほしいな、って思う。」

 亡き令嬢の、思い。

 最後の最期に、姉として伝えたかった言葉。

 体を張ってでも、自身を守ろうとしてくれた妹へ、向けた言葉。


『…………………やめろって、言わないんだね。』

「言われるかと思った?」

『えぇ。だって、皆私にそういったもの。

 ………良いと、復讐を止めないと、そう言ってくれたのは貴方で()()()よ。』

 クスリ、と邪気を抜かれたような笑みを見せる堕天使。……いえ、ナナ。

 その表情も、言葉も、動作も。すべてが、堕天使であったときとは大違いで。

 まるで、別人かのような錯覚を起こす。


 ふわ、とナナの輪郭がぼやける。

『そうね、もう私は無理でしょう。…この身体も、もう限界。』

 すっと、目を伏せ、わずかに悲しげな表情を見せるナナ。

 だが、少し満足そうな笑みを浮かべる。

『貴方が、貴方達が居てくれて、よかったわ。

 …おかげで、これを託せる。』


「これ、は?」

 ナナがこちらに差し出してきたものは、(かぎ)だった。

 金でできたシンプルな鍵。

『ふふ、今は秘密。……いつか、貴方も、知るときが来るでしょう。

 この世界に眠った、管理者たちのことを。』

 その時に助けになるはずよ、といって笑うナナ。


『私はね、とっくのとうにノエルを殺しているの。

 ……恐らく、堕天使化したときにね。』

 だが、その時の記憶は混濁していて無いという。そして、堕天使の時の記憶も、薄っすらとしか思い出せない、と。


『だから、私はさまよっていた。

 いるはずもないノエルを探して。』

 ナナはおかしいでしょう、と自嘲する。


『あぁ、そうだ…………これも、渡さないと。』

 リン、という音が鳴る。

 気が付かなかったが、彼女はピアスをしていた。

 その一対のピアスは、白い羽根の形をしている。

 中に鈴が入っているのか、時々リン、と音が鳴る。

『鈴はほぼ壊れてしまっているのだけれどもね。

 ふふふ……。これは、大事なものなの。できれば、壊さないで持っていてもらえると嬉しいわ。』

 ニコニコ、と笑う。

 霞のように空気にとけていくその手から受け取ったピアスは、私の手の中で転がった。


『もうお迎えかしら? もう少し、居たかったけれど……。

 まぁ、ここまでとどまれたことも奇跡のようなものなのだしね。欲を出しても仕方がないわ。

 じゃあね、紅き令嬢さん。』

 そう言って、ナナの姿は消えていく。

 まるで、幻のように。

 キラキラと、金色の光に巻かれて。


 ひゅう、とひときわ強く駆け抜けた風が、ナナの姿をかき消した。

「さようなら、ナナ。」

 ピアスに目線を落とし、そうつぶやく。


“ありがとう”


 薄っすらと、そんな声が風とともに聞こえた気がした。

 見てたのかな。


―――我が子に、祝福を。


 薄っすらと、聞こえる歌声。


―――堕ちつ子に、歓待を。


「賛美歌………。」

 リツキさんの呟きで、漸く私も賛美歌なのだと悟る。


―――全ては我らが解き放せし


 大丈夫よ、というような。


―――歓びを、感謝を、祝福を。


 ナナに似た、だけど何処か違う。


―――全ての子らに、祝福を!


 あ、これ…って。


亡き令嬢(ナナへ)の、鎮魂歌(レクイエム)


 ムービーで聞いた、お義姉さんの、声だ。


ナナちゃんよく喋るなぁ、と作者も思いました。

…………あれ、こんなこと言っちゃなんだけど、あなた死にかけだよね?

…生前はおしゃべりな子だったのかな?


誤字脱字などがありましたら、遠慮なく誤字報告をお願いいたします。

また、感想なども遠慮なくお願いいたします。

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