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腐血姫の最強譚 〜自称普通の少女は、VRMMOで無双する、かもしれない〜  作者: おまめあずき
3 世界歴史書(ワールドレコード)クエスト
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『ア、アァ、ア゛、アぁ、あ……。…な、んで………なんで? ノエ、ル…………。』


 言葉がカタコトから戻っていき、目には生気が戻る。

 こぼれ落ちる涙も透明になっていき、透明な涙が溢れ落ちた瞬間、視界が暗転した。


  *


 ……。


 私は、領主の娘だった。


 父は領主として毎日楽しそうに仕事をしており、母はいつも民のためにと言って聞かされていた。


 何時だっただろう。


 ………嗚呼、妹が生まれた日からだ。


 妹は、双子だった。


 可愛いややこ(赤ちゃん)が、私の手を握ってきてくれた感触が懐かしい。


 だが、その幸せも長くは続かなかった。


 津波、地震、干ばつ。


 領地は、度重なる災害によって疲弊した。


 そして、干ばつのせいで我が領地の特産であった葡萄がだめになった。


 余り身体が強い方ではなかった両親は、次々に倒れた。


 母が病によってこの世を去り、父は精神を病んだ。


 突然半狂乱になったり、何処かにいなくなったり。


 平均男性ほどの力しかなかったはずの父の細腕に、すざまじいほどの力がやどり、私たちを襲った。


 双子の姉妹はまだ幼いにも関わらず、両親のぬくもりを知ることは叶わなかったのだ。


 その様な状態であるならば、長子であった私が、領主代行と成るのは当然であった。


 だが、綻びかけていたものは、そう簡単に戻ったりしなかった。


 私に、理不尽も覆すほどの力があれば。


 私に、すべての物事を見通せる目があったならば。


 あの惨劇は、起きなかった。



 ………。


 ノエル…。


 私の、妹。


 貴方は、何故―――


 いえ、それは関係ありませんね。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 願わくば、優しい優しい貴方が―――


  *


 そこで、ムービーは終わった。

 ぶつ、と途切れた。


『やめて…! やだ、やだ、やだ!』

 堕天使の声だ。

 切られた羽根を見て、嫌だ、と何度も叫ぶ。

 羽根は、根本からサラサラと灰のようになって消えていく。

 痛みは感じていないのか、背中の傷を気にするような素振りは見せていない。


 彼女の展開していた酸の海は、ポリゴン体となって弾けとんだ。

 私は一回転して勢いを殺すと、堕天使を通り越して、廃教会の丁度扉の前に降り立った。


『やだ、やだ、やだ、やだぁああああ!』

 ………どこか、違和感。

 先程のムービーの中の主の声とは、何処か違う。

 幼い、子供のような。


 ぐら、と揺れる感覚がして、再び、視界が暗転した。


  *


「なん、で……………。なんで、なんで、なんで! ノエル、なんで!?」

 叫ぶ。

 ありったけの声を上げて。


「塵はお掃除しないとねっ!

 よーし、あと一撃!」

 私の声など聞こえてないとばかりに嗤う、彼女。

「ノエル!!」

 ノエルと呼ばれた少女が、肩までの金髪を揺らしながら、鎌を振り上げる。

 その鎌は死神の鎌に似ていて、ノエルの全身には鮮血が散っている。

 義姉(あね)と、その家族のものだ。


 彼女は、足の腱を切られ、もう動けなくなってしまったお義姉様の身体にその鎌を振り下ろす。

 それを見て、反射的に私の体が動いた。

 ノエルの前に立ちふさがるその少女をみて、ノエルは眉を不機嫌そうにひそめる。

「ちょっと、なにしてるの、ナナ? 私たちは粛清天使。

 これが仕事よ?」

 邪魔しないで頂戴、とさも当たり前かのように、無邪気に笑っている()()()に、吐き気がする。

 そうだ。

 確かに、私たちは粛清天使。

 粛清すべきものを、神の敵を、消す天使。


 だけど。


「だけど、お義姉様は!! お義姉様は、違うでしょう!?」

「ナナ? もしかしてニンゲンなんかに情を移してしまったの?

 ……コレは下等生物。本来ならば我らとは似ても似つかぬ、ただの獣なのよ?」


 なにを。

 なにを、言っている、なんて。

 それは、こちらのセリフだ。

 ()()()は、なにかがおかしい。


 人間が、下等生物?

 ならば、私は、私たちは、何だというのだ。

 何故、私たちは人間の姿かたちをしている?

 何故、何故、何故―――


 ―――罪なき人間を、殺せるのだ?


 主から、罪なき人間を殺せとは、言われていない。

 お義姉様は、違った。

 義父は、ただの畜生に堕ちたが、お義姉様は高潔な貴族だった。

 美しかった。


 何故、何故、何故―――


「おっかしいの。」

 巫山戯るな、オカシイのはオマエだ…!!


 何故、何故、何故。


 私の、片割れ。


 ノエル。


 ―――何故、お義姉様を、罪なき人間を殺した?


 オマエは、外道だ。


 粛清すべき、対象だ。


 ―――粛清、する。


«粛清天使、コード77(ナナ)が禁止事項に触れました。警告します、これ以上の抵抗は堕天対象とします。警告します、これ以上の抵抗は堕天対象とします。»


 知らない。


 オマエ(ノエル)は、オマエ(ノエル)だけは、粛清する。



«エラーコード、××××―――粛清天使、コード77(ナナ)が禁止事項に触れました。堕天対象となります。»


«体組織を組み替えます。思念特定―――特定成功―――思念、『裏切り』―――特殊堕天対象となります。―――種族、×××に体組織を組み替えます。»


 痛みが、襲った。
















 ……。


 ………………。


 ココ、ドコ?


 ネェ、ナニ?


 アレ、ダレ?


 コワイ、コワイコワイコワイ。


 コナイデ、コナイデ、コナイデ?


 ヤダ、クルナ、クルナ、コッチニ、クルナ、アァ……



ノエルは、粛清天使、コード00です。

誤字脱字などがありましたら、遠慮なく誤字報告をお願いいたします。

また、感想なども遠慮なくお願いいたします。

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