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先週は投稿できずすみません……。
後半リツキ視点です。
「……………っ……。…………?」
目の前の光が晴れ、恐る恐る、私は目を開ける。
まず、目に飛び込んできたのは白い大理石でできた柱。
直径は、私が両手を広げたくらいあるだろうか? 太い柱だ。
次に、恐らく柱と同じ素材でできているであろう床。
…だが、柱も床も、酷い亀裂が入っており、苔がむしている。
「廃神殿…」
そう、まさに廃神殿。
『アハ、アハハハ!! ニ、ニンゲン、ニンゲンンンンン!』
背後から、狂った様な笑い声が聞こえた。
「…ッ!」
ひゅ、と風をきる音がして、とっさに前に飛ぶ。
そして、着地と同時に振り返ると、そこには―――
「「堕、天使…ッ!」」
黒く染まった一対の羽に壊れた黒い輪を持つ、堕天使。
思った通り、あのムービーに出てきた四枚羽の天使が堕天していた。
周りには、壊れた石像や大理石の破片が浮いている。
先程まで私たちがいた場所には、天使の羽根を模した石像が落ちていた。
「ポルターガイスト…厄介な…ッ!」
休む暇を与えないとばかりに飛んでくる瓦礫。
今は魔法と身体能力だけでどうにかしているけど、きりがない。
どうにかしてインベントリを操作しないといけないけど、極端に動いたら自動的にステータスボードは消えてしまう。
刀を……あ。
私はポケットから出した瓶を天使の方に投げつける。
勿体ないけど、仕方がない!
『アハハ、ムダ、ムダァアハハ!!』
即座にそれも支配しようとするけど、支配できるのは瓶だけ!!
中身の私の血までは、支配できない。何故って、そんなの私が支配しているからだよそりゃそうでしょ!
「行け。」
そのまま中身だけでもあいつにかかれば良い。
私は瓦礫の隙間を縫うようにして距離を詰める。
見れば、リツキさんの方も徐々に調子を取り戻し始め、逆に反撃などもし始めている。
『ジャマァ!』
堕天使がそう言って何かを叩きつける動作をする。
すると、堕天使の周りにひび割れたティーポットとカップが現れ、地面に叩き割られる。
その中身がこぼれた場所からじゅわ、と音がして、とけていく。
「酸!?」
みるみる内にその酸は広がり、あたり一面、酸の緑色に支配されていく。
「【飛翔】!!」
リツキさんは―――
「ええええッッ!?」
*
〈リツキ視点〉
酸がばらまかれる。
じわじわと侵食してきているその緑色の液体は、何処かマグマのようでドロッとしている。
シルフィードさんは飛翔で逃れるだろうし、心配はいらない。
問題は、俺がどうするか。
「まぁ、これしか無いわな。」
その場で飛び跳ね、瓦礫の上に乗っかる。
その瓦礫が奥にいきすぎない内に、次の瓦礫へ。
それを繰り返し、接近する。
横目で確認したシルフィはすぐさま【飛翔】で離脱し、また接近を開始していた。
「ええええッッ!?
何やってるんですかリツキさん!?」
驚いた声が思ったより近くから聞こえ、逆にこちらが驚く。
あのペースだとまだまだ後ろにいるかと思ったんだけど―――
って、ああ。
確認したシルフィードさんの姿は、獲物をきっちりその手に携えている。
昼間に買った刀―――天霧。
十分手になじませたし、結構な腕前のはずのあの双子の弟くんが勝ててないってことから獲物を持ったシルフィが強いっていうことはわかる。
その状態の彼女なら、短時間で此処まで来ることも不可能ではないだろう。
「何してるも無いよ! 飛べないからね、俺!」
どんどんと瓦礫を移っていくと、いつしか乗れる瓦礫が少なくなる。
あの堕天使は頭が悪いみたいで、自分自身で出した酸で瓦礫を溶かしてしまっているからだ。
うわー、マズイ。
タイムリミットが迫ってきている。
「どんな身体ッ能力してるんです、か」
大きな瓦礫を体を捻って避け、次の足場に足をのせる。
がく、と体勢が崩れる。
あ、まず―――
「わ、大丈夫ですか!?」
酸の海に滑り落ちる直前で、がしっと腕を掴まれる。
俺はすぐさま体制を立て直し、他の瓦礫に飛び乗る。
先程まで居た場所に浮遊してきた瓦礫を横目で捕らえつつ、集中力が確実になくなってきていることを悟る。
「ごめん助かった!!」
それだけいうと、俺は再び前を向く。
そして、次の瓦礫に飛び移りつつ、目の前の小さな破片を風で吹き飛ばした。
体感ではもう三十分近くコレを繰り返している気もする。
最初の回避でかなり前まで飛んでしまったし、何回か後退を余儀なくされてもいる。
マズイな。
『キエチャエ! アッッハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
「ッ!?」
目の前にいきなり大きな瓦礫が集中して来る。おそらく、後ろにも同様に集まっているだろう。
さっきまで飛んでくる瓦礫が少なくなっていたのはこの準備のせいか!
確認したが、シルフィの方も同じ様な惨状になっている。
「すみません、リツキさん! ――避けてください!!」
え、と思う暇もなく、目の前に幾筋もの紅蓮が駆ける。それによって瓦礫は粉々に破壊され、それを風で吹き飛ばす。
制御が不安定なのか、紅蓮の筋は時々こちらにも向かって伸びてくる。
俺はそれを避けつつ、被害が少ない場所へ退避する。
『ナンデ!!』
球切れ……というか瓦礫切れ(?)なのか、堕天使はこれ以上瓦礫を放ってこようとしない。
シルフィはその手に血でできた鞭を握っており、先程の筋はこれか、と納得する。
鞭の攻撃で瓦礫も少なくなり、俺はまだ酸の海に浸っていない瓦礫の山に降り立つ。
ただ、ここはかなり狭いので回避行動が制限される上にジュワジュワと足下から音と薄い煙が立ち上り、徐々に低くなっていっている。
改めて見回すと、廃教会内はかなり荒れていた。
堕天使の瓦礫によって壁にはいくつか穴が空き、先程のシルフィの攻撃で亀裂が入っている。
なんというか、もうすぐ倒壊しそうな風貌である。
『ヤメロ、クルナ、クルナアァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
堕天使の白目の部分が赤くなり、充血する。ぶち、という何かを引きちぎるような音が聞こえ、堕天使は血の涙をこぼし始める。
獣のような咆哮の後、足元でごぼり、と不吉な音がした。
「なっ、」
酸が変色し、赤くなっている。
それこそ、マグマのように。
堕天使の怒りに呼応するように。
第二ラウンドだ、と言わんばかりに、堕天使が荒い息を吐きながら睨みつけてきていた。




