49
光がなくなっているのを感じ、恐る恐る瞑っていたまぶたを上げる。
「えっ、リツキさ…!?」
と、目の前にリツキさんがいたのでびっくりして飛び退く。
あれ、床が。
「危ない!」
ない。
ひゅう、と風の音がして、今自分が何処かから落ちそうになっているのだと漸く理解する。
リツキさんが手を伸ばして支えてくれなければ、頭から真っ逆さまに落ちていただろう。
「す、すみません……。」
私は体勢を立て直すと、リツキさんに頭を下げる。
「いいよ。…俺の方こそ、勝手に触ってごめんね?」
「あっ、大丈夫です!
……それより、ここは…?」
私はキョロキョロとあたりを見回す。
壁は先程の教会と同じ白色で、目の前には大きな金色の鐘がある。
前後左右には大きなアーチ状にくり抜かれている。
どことなく見覚えがあるな。ここ。
「ここは、多分教会の上にあった鐘のところだね。…あれ、ここなんて言ったっけ? ………まぁ今はそこはどうでもいいや。
さっき起動してもらった魔法陣は此処にワープするためのものだったんだよ。…あ、HP大丈夫?」
見覚えがあると思ったのはそのせいか。
というか、ここ登っていいのかな? 罰当たりになったりしない?
あ、でもとりあえず、ステータスは確認しないとね。
「『ステータス』………大丈夫です!
それで、ここはどういうお話があるんですか?」
「えーっと、ここの鐘をワープしてきた二人が一緒に二回鳴らせば良いらしいんだけど……。」
此処への道は結婚式で神父が立つところに置いてあった紙の文章―――『硝に描かれし暗闇よ 白壁に描かれし光よ その力を解き放てし 頂には神が宿りし荘厳な 鳴らせ鳴らせ 天に届くその音を 二つの絆 わかたれること無く』から察したらしい。
え、すごくない?
硝―――つまり硝子。正面にあったステンドグラスの中から魔法陣を発見、壁にはなかったので外側だと判断。私に助けを求め、ふたりとも魔力を通す。んで、此処に来て二人で鳴らす、と。
凄。
間違いがあったら怖いので(あの鬼畜運営なら暗号が出てくるとかありそう)、暗号も一応見せてもらって、特に仕掛けはなかったと思うので鳴らすことにした。
―――ゴーン…ゴーン……………
音とともに、視界は切り替わった。
***
きらきら、きらきらと。
金色の粉を持って舞い降りてくる二人の幼い天使。
天使は、鐘の上に座ると、その鈴のような美しい声で歌い出す。
それに導かれるようにして現れたのは、銀色の髪に空色の瞳をした、四枚の羽を持つ天使だった。
ふと、四枚の羽の天使がこちらを向く。
そして、私がいつの間にか手に持っていた地図に反応を見せる。
―――ジジジッ
ノイズが走り、暗転する。
ふわ、と浮遊感。
幼い天使の声も聞こえなくなっていて―――
暗転する間際、四枚の羽の天使は、その顔を歪めて私を睨みつけていた。
………。
え、なにこれ。
「C、G?」
呆然と、つぶやく。
「すっごい精巧だった……。というか、最後。天使の羽が黒くなってた、よね?」
困惑したような表情で、リツキさんは言う。
「あ、え、あ…。」
そして、私はといえば、困惑していた。
最後、つき、とばされたような。まだ、体に浮遊感が少し残っている。
「そっか。シルフィ、突き飛ばされて…。」
「あ、やっぱり突き飛ばされてたんだ……………」
…何故?
あの反応からして、この地図がキーに―――って、あれ?
「変わってる……。」
「え?」
と、声を発したリツキさんが覗き込んでくる。
「……本当だ。」
「…『天からの声は地に堕ちて 故に歩むべきは全ての頂』……地に堕ちる…。」
私達は顔を見合わせる。
「「堕天使」」
***
何もなかった、“無”であった世界に、他の世界から七人の神族と呼ばれる者たちが集った。その七人は、まずはじめに星を創り出し、次に太陽を、そして次に月を。最後にフリーダムと呼ばれる惑星を作り出した。そして、それぞれのものたちに特性を与えた。
星には輝きつづける無限の力を。
月には静かなる大きな叡智を。
太陽には燃え盛るような愛を。
そして、最後にフリーダムに、生命を。
それらを作り出した神族たちは、静かにその四つのものたちを見守った。
だが、彼らも何者かによって作られた存在である限り、力の限界があった。
彼らは四つの星を守護する十一人の管理者を作り出し、生命の力を与えたフリーダムにその身を委ね、眠りについた。
光の管理者 ルミエール
闇の管理者 オプスキュリテ
炎の管理者 フラム
水の管理者 オー
風の管理者 ヴォン
土の管理者 ソル
無の管理者 リヤン
生の管理者 ヴィーヴル
死の管理者 モール
空の管理者 ル・シエル
地の管理者 ラ・テール
七つ子である七人のエレメンツの管理者と、二組の双子である生命や力、愛に関連する管理者四人。
合計で十一人の管理者が在った。
―――創世神話 Ⅰ ―――




