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何故か当初の予定よりチャコちゃんが狂気に染まっているのですが…?
…ナンデ…?
(絶対に最近読んだ小説がスプラッタな感じだったからですすみません)
―――グシャッ
「…あぁ、ふふふふふ、あはははははっ♥」
血まみれになった森の中で、少女は笑う。
白磁のような頬も、美しい漆黒の羽も、全てを紅に染め上げて。
「…あっはははは……。………あーあ、つまんないの。」
恍惚の笑みを浮かべていた顔が一瞬で無表情になり、無造作に片足を振り下ろす。
「ぐ…ぁ゛あ゛あ゛……―――ッ…」
手足の腱を切られ、無造作に転がされた青年は、わけがわからないままに少女の振り下ろした戦斧によって絶命した。
体の端からポリゴン体となった青年が消えていくのを無表情に見つめ、少女はふと、上を向く。
「シルちゃん…♥待っててね?」
再び恍惚の表情を浮かべ、彼女はその場を去っていった。
***
「ひ、っ…!
こっわぁ………。」
上空。
相変わらず暴れていたチャコが、こちらを見たような気がして、鳥肌が立っていた。
眼前に広がっているのは地獄絵図。
チャコの武器、小柄な彼女には似つかわしくない大きな戦斧によって飛び散る血。それが森の一角を紅に染め上げていた。
チャコのスキル、【魅了】。
それに当てられたプレイヤーたちが自ら引き寄せられるようにしてチャコに近づいていく。
本人は無意識下の行動に気がついていないという所がたちが悪い。
「う、っわぁ………暴れてるねぇ…。」
リツキさんが見ているのはそれとは反対側。
【アヌビス】と〈コントローラー〉のエリアだ。
【アヌビス】が片っ端からボコボコにしたプレイヤーが積み上がり、山のようになっている場所が三つほどできており、また、その間を縫うようにして〈コントローラー〉の魔法によって鋭い氷柱が何本も立っている。
そのせいで軽い迷路のような作りになっているそこは、格好のプレイヤーの狩り場となっていた。
その他にも、いつの間にか精神狂乱を起こして相打ちしあっている【青の道化師】のエリア、
幾人ものプレイヤーが、泥沼と化したフィールドで泥人形に沼に引きずり込まれてしまっている〈人形術師〉のエリア、
プレイヤーが音もなく次々と倒されていく、【死神】のエリア、
彼女たち自身が流した血によって紅に染まった〈N・鏡写し〉のエリア。
半分ほどがシルフィードの知り合い(かそれ以上)である。
「……頭が痛い…。」
あの暴れん坊共が。
「ん? 大丈夫?」
「あ、ハイ。降りますね。」
シルフィードはちょうど真下に来ていた教会に、そろりと降りていく。
(飛んでいる時よりも、降りるときのほうが気を使うのよね……。)
「【優しい風】」
面倒くさい、と心のなかで毒づきながらもゆっくりと、音を立てないように着地する。
教会の扉の前に、シルフィードとリツキが降り立った瞬間、ひゅう、と音が鳴った。
「これ、は……。
光?」
シルフィードが、呆然と呟く。
二人の足が地に降り立った瞬間、リツキとシルフィードの間に金色の光を帯びた風が吹きつけたのだ。
その光の風は、教会の中へと続いている。
「これは…」
「たどる以外の選択肢あります?」
「ないね。入ろう。」
そう言ってリツキさんが木でできた教会の扉を押す。
キィ、と簡単に開いた扉をくぐり、教会の中に入る。
「わ、綺麗…。」
壁も、床も、柱も、全てが真っ白な空間。
正面には、大きな白い十字架。
そして、空色や、薄い緑、淡い橙色など、淡い色で構成されたステンドグラス。
「……あ。…あれ?」
リツキさんが、何かに気がついたようにこちらを見て首を傾げる。
「どうしたんですか? リツキさん。」
「シルフィードさんって、種族……。」
「腐血ですけど…。って、あ。」
アンデッド系種族の弱点。
それは、聖属性である。
もはや定番と言っていいこの設定は、ギブフリーにも適用される。
つまり、アンデッド系種族になった人は教会に入れない。
他の種族でも立ち入り禁止区域などはあるそうだが、アンデッド系種族の立ち入り不可能区域が一番面倒くさい。
ギブフリーにおいて教会とは、特殊な場合を除き、種族を進化させる時と転生するために必要な組織である。
その他にも、特殊クエストを発行してくれて色々なスキルを取得できたり珍しいアイテムをもらえるので非常に重要な建物なのである。
その中に入れない、というのはあまりにも致命的。
救済措置がないか検証班が探っているそうだが、全くと言っていいほど見つかっていないので今は関係ないであろう。
そこでいま一度思い出そう。
私の原点は腐血。
今でこそ、腐血姫という種族に進化しているとはいえ、無傷で教会に入れるとは思えない。
「ステータス、ってあああぁああ!!」
すんごい勢いでHP減ってるうぅぅぅ!!
まっずい!!
お日様ダメージが今……【HP自動回復】と相殺するようになってて、今回復したばっかっぽい。教会ダメージは十秒で五だから一秒0.2だね! いや結構痛いじゃんか。
ってそんなことはどうでもいいんだよ!!
早く出ないと!
「リツキさん、後はよろしくお願いします!!」
「あ、やっぱりダメージが…。わかったよ!」
私は教会の外に出て血で日傘を出し、お日様ダメージを軽減。
大人しくHPが回復するのを待つのであった。




