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今回はリツキ視点です!
・お知らせ
☆連続投稿始めます☆
※ただ、作者は書くのがおっそいので、いつまで続くかは不明です。
「リツキさん。もう、大丈夫です。」
そろそろ一人で押し切るのが難しくなってきたタイミングで、後ろからシルフィードさんの声が聞こえた。
そこで俺は初めて後ろを振り返る。
「シル、フィードさん……?」
「あはは、流石にこの姿は驚きますよね。」
苦笑しているシルフィードさんの体からは、湧き出るように光が溢れ出している。
そして、背中からは白い羽根が生えていて、まるで天使のような風貌をしていた。
……いや、シルフィードさんは吸血鬼と腐乱者のハーフだから、堕天使になるのかな?
…なんて、今は関係ないことを考えてしまうくらいに、俺は混乱していた。
そのせいで、迫ってくる大蜘蛛の鎌に対する警戒が、足りなかった。
その事に気づいたときには、鎌はもうすぐそこまで迫っていて。もうどうしようもない、とやや諦めながらも、どうにか最後の悪あがきをしようと魔法を詠唱しようと―――
「…『天言命:邪魔だ失せろ』。」
え。
邪魔だ失せろ、とシルフィードさんが言ったとたん、黄金のなめらかなドーム状の膜が目の前に現れる。
一見、俺の張った【障壁】よりも薄いように見えるが、あの大蜘蛛の鎌を軽々と受け止めているのがその硬さを物語っている。
「あー……MP消費えっぐ…。
でもこれ、やばいかもしれない…。結構。」
そうつぶやきながら、シルフィードさんはこちらを見る。
「リツキさん、大丈夫ですか?」
「あ、うん……。驚いただけ。」
「よかった。
ええと、あの魔法について詳しく説明する時間はないんですが…。」
と、言いながら、簡単に説明してくれる。
あの魔法の名称は【無辜ノ不死者ノ鎮魂歌】。
半径1km以内にある霊体(もうすでに死んだ人の魔力の残滓のようなもの)を利用し、その霊体を浄化するその見返りに、天使とかいう謎生命から、身体強化+【天言命】というスキルが付与される魔法。
ただ、【天言命】はMP消費が多い。が、さっきのように思ったことを口にするだけで強力で使用者の望みに沿うような魔法を展開してくれるらしい。
確かに、ここは子供の遺体が結構あるし、霊体も多いかもしれない。
……実は、ぶっつけ本番だったそうだ。
勇気あるなぁ、と思う。
「………それで、どうします? まだ、『天言命:邪魔だ失せろ』は耐えれそうですけど…。」
この話をしている際、二人がかりで子蜘蛛たちの殲滅をしていたので、子蜘蛛はかなりの数が減っている。
大蜘蛛はといえば、シルフィードさんと俺が足を使えないようにした(シルフィード三本+リツキ二本=五本で残り前足一本のみ)ので立てておらず、そこからじわじわ魔法で削っていった結果、かなり弱っている。
「その、絶対防御ってやつが無くなる前に子蜘蛛を殲滅しよう。」
「ですね。【優しい風】」
シルフィードさんは、風の初級魔法で子蜘蛛たちを一箇所に集める。
もう優しいとは言い難い、強い風だったが、その場にとどまろうと必死に地面にしがみつく子蜘蛛たち。
その蜘蛛たちの頑張りを無に返してしまうことに少しごめんね、と心のなかで謝罪しつつ、
「【爆発魔球】。」
この戦いで一番使ったと言っても良い魔法でとどめをさした。
頭を子蜘蛛のことから切り替える。
「まだ絶対防御大丈夫?」
「はい。ただ、MP消費がエグいことになってます。
もう強制解除でもしないとMP切れになります。」
うわぁ…。
まだ何レベ上がったか聞いていないけど、結構な量のSPをMPに割り振ったって聞いていたんだけど…。
そのMPをなくすような魔法って…。
「強制解除していいですか?」
「あ、いいよ。というかしてもらわないとこっちがこまるというか…。」
うん。シルフィードさんの魔法については結構助けられているので…。逆にこっちが困っちゃうんだよ。
「強制解除まで1…2…3。」
ぱりん、と軽いガラスが割れたときのような音を立て、割れていく『天言命:邪魔だ失せろ』。
俺とシルフィードさんはそれと同時に大蜘蛛に肉薄する。
俺は魔法で創った氷の剣を。
シルフィードさんは自身の血で創った紅蓮の刀を。
それぞれ持ち、左右から大蜘蛛の頭に振り下ろす。
「ッッッ―――!!!!」
蜘蛛の頭は固く、すんなりとは刃が通らない。
そこで―――魔力強化。
剣に込める魔力の量を一瞬膨れ上がらせる。
スローモーションの世界で、大蜘蛛の頭を剣と刀が切り落とす。
ごろり、と大蜘蛛の頭が転がり、身体が崩れ落ちていく―――
そこで、世界に音が戻ってきた。
「おわっ、た?」
ふ、とシルフィードさんが緊張を解く。
それとともに、【無辜ノ不死者ノ鎮魂歌】が解ける。
俺も、氷の剣を消す。
それと同時に、あの音が響く。
―――ピコンッ
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クエスト:しあわせなこのゆめに
が經ェ駟繼址ィ磨歯橢
伽ンせ褸し磨ス駈?
(はィ・い威ェ)
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「…え?」
クリア、じゃないのか?
「こ、これ…どういうことですか?」
わからない。こんな現象は見たことがない。
「ぁ、あや? あやっ! あやっっっ!!!! まって!?
―――きゃああぁぁあああああ!?!?!?」
向こうから、少女の声が聞こえる。
あや、まって、あや、と、蜘蛛に下半身を食べられていた少女の方を、もうひとりの少女が止めているようだったが、すぐに悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴を聞いた途端、シルフィードさんは走り出していた。
あのうろから遠いここでは、彼女たちの様子が見えなかったからだ。
―――ピコンッ
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変貌クエスト:母親と少女の慟哭
が始まりました。
⚠このクエストは強制クエストです。
キャンセルすることができません!
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変貌クエスト!?
見たことも聞いたこともないクエスト。
おそらく、あの大蜘蛛を倒してしまったことによって発生したクエストなのだろう。
あの大蜘蛛が母親という部分も引っかかる。
「リツキさん!!」
先についていたシルフィードさんの声がする。
たどり着いた先には、ぼう、っと幽霊のように佇む少女の姿があった。




