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―――カキンッ
蜘蛛はその手の鎌を使い、【障壁】を破壊しようと何度も何度も攻撃を仕掛けてくる。
「…っ! 破壊される!」
さすが特殊個体、【障壁】を破るのが早い。
リツキさんの【障壁】は、ステータスを魔法中心の構成にしているためか、かなり硬い。私でも破るのには早く見積もって30分程度はかかるだろう。それを、この短時間で破るって……。
しかも、攻撃がかなり早く、手の鎌という一つの武器しか使っていない状態でこれなのだ。
もうこれは、攻撃が当たらないように根性でひたすら回避するしかないな…。
ガギン、とひときわ鈍い音が響き、それから半拍ほど遅れてパリンと【障壁】が割れる。
今ッッ!!
「―――ッ!!」
蜘蛛が一瞬止まるその隙を狙い、懐に潜り込む。
狙うは、眼。
「ッ―――!」
今の私が出せる最高速度で斬りかかる。
刀が蜘蛛の眼に届く―――
―――というその時。
私の他の人よりもちょっと良い目は、こちらに向かって来る透明な糸が、提灯の光に反射してきらめくのが見えた。
紅蓮の刀は、蜘蛛の瞳を切り裂くのではなく、その糸を防ぐように私の眼前にかざされる。
思ったよりも重い、糸の攻撃に耐えるため、柄に一層力を込めると、唇の隙間から短く息が漏れる。
「ッッ―――【爆発火球】!!」
叩き切るようにして刀を動かすと同時に、火属性の中級魔法である【爆発火球】を目の前に出現させ、爆発させる。
叩き切った勢いと、爆発を利用し、私はリツキさんのところまで無理やり後退する。
「大丈夫?」
リツキさんは飛んできた私を受け止め、予め発動待機しておいたのだろう、魔法で蜘蛛―――というよりかは大蜘蛛といったほうがいいか? 魔法で大蜘蛛を迎撃する。
「っ〜〜、はい。ちょっと衝撃は残ってますけど、いけます。」
リツキさんが受け止めてくれたからいいものの、受け止めてくれなかったら背中を打ち付けていただろう。自分の無計画さに思わずため息を吐きたい。
それにしても、間近で見たらバカでっかいね、あの蜘蛛。
血液操作でどうにか刀が届く、って感じのところに目があったからね。
てか!!
蜘蛛って目が悪いんじゃなかったっけ? 30cmくらい離れたら見えないって聞いたことあるんだけど。
なんで見えてるかのように攻撃してきてるの?
まぁ、RPGではよくあることだけど。
「とりあえず!! 【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】!!」
私は憂さ晴らしに【爆発火球】を乱発する。
そして、私の周りに浮かんでいる緋色の球体を蜘蛛に向かって打つ。
最初の数発は周りにあった糸のことをど忘れしていたから当たらなかったが、その後はきちんと思い通りの場所で爆発させられた。
今の爆発の狙いは、目くらまし。
私自体は再び蜘蛛の下に滑り込んだ。
「―――ッッ!」
今度は当てる。
刀を振る。
刀に、切れた感触がある。
先程、眼を狙おうとして対処されたので、今回は場所をずらして足を狙った。
「―――GYAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!」
「うるっさっ…。」
大蜘蛛の絶叫は鼓膜が破れそうなほど大きかった。
ダメージが入りそうな勢いだったので、すぐに後ろに退避する。
「【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】【爆発火球】!!」
そして、行き着く暇もなく迎撃。
ドン、と音がして、私が狙った通りの位置で爆発が起きた。私が爆発させた箇所は残りの五箇所の足の付け根。流石に五本全てを使えなくすることはできなかったが、切った一本も含め、三本の足を行動不能にすることができた。
ぎゅっと思いっきり【爆発火球】を小さくすると、小さくした分、範囲は狭まるものの、効果が上がる。
必要になるかと思い、【砂血の大地】で練習をしておいて正解だった。
「【火の弓 − 爆】!」
隣でそう詠唱しているリツキさんは糸に引っかからないように弓系の魔法を多用している。リツキさんは巧みに魔法を操り、ときに他の魔法と組み合わせながら確実にダメージを与えている。
その時。
「GYI、GYIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!」
大蜘蛛が突然、金切り声のような声を発した。
ざわり、と周りの木の葉が揺れる。
つう、と背筋に汗が一滴走った感覚がした。




