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―――…ひっく、ぅ…。
薄暗い路地裏から響き渡る、子供特有の高い声。その声に反応した私とリツキさんは、さっとベンチから立ち上がり、後ろを振り向いた。
「これ、何ですか?」
「…多分、クエストだね。ここでこんなクエストを見つけたって情報は聞いたことないけど…。」
うーん、と思案するリツキさんの横で、私は少し嬉しくなっていた。
クエスト。
私はだいたい【砂血の大地】に引きこもっていたので、最初の種族クエスト以来、全くクエストというものを受けていなかったのだ。
「クエスト、ですか……!」
「あぁ、シルフィードさんは受けたことなかったのか。」
「はい。通常クエストというのは初めてです!」
ギブフリーのクエストには3つの種類がある。
1つ目は、私が受けた種族クエスト。
大体、一見すごく難しいものの、わかってしまえばあとは単純、というようなクエストばかりのようだ。また、種族クエストというのもあって、そのプレイヤーの種族に合ったクエスト内容で、クエストをクリアすればより種族に合った、良い報酬を手にすることができるようになっている。
2つ目、通常クエスト。
種族クエストとは違い、多種多様な種族のプレイヤーが受けれるクエストである。そのため、多くのクエストの情報がネットに出回っている。……偽物の情報が流されているときもあるのでネットに頼るときは要注意なのだが、それさえ気をつければ比較的楽にこなせるクエストだ。
ただ、楽にこなせる分、必ずしも種族が有利になる報酬が手に入るわけではない、というのがデメリットでもある。
3つ目、特別クエスト。
まぁ、そのまんまの意味だ。極稀にしか起こらないクエストで、参加できたプレイヤーも数人ほどしか確認されていない。だが、ワールドアナウンスとしてゲーム内各地に放送されているようなので(私は聞いたことないけど)、その存在は確かなものと言ってもいいだろう。
「行きます?」
「……うん、アイテムも多分大丈夫…。行こう。」
そして、人一人が通れるくらいの細い路地裏を、前はリツキさん、後ろは私という形で歩いていく。
―――……ぅ、ひ……っく、ふ……う…。
「号泣してるってよりかは、すすり泣いてるって感じですね。」
「うん。それにしても、この声は多分まだ子供だよね? なんでこんなところに……。」
そう。それが一番の疑問である。
声からして、まだ小さな子供のなはずなのに、なぜこんなに薄暗く、細い路地裏にいるのか。
うーん、と考えながら進んでいると、前方に光が見えた。ああ、路地裏を抜けるのか、と思いながらも進む。
そして、なんの抵抗もなく光の中に入った。
*
「……ここ、どこですか……。」
まばゆい光に包まれた私達を出迎えたのは、苔の生えた丸石の階段。その所々は、紅い模様―――血、だろう―――に彩られていた。
そして、階段を照らすのは中華風の紅い提灯。日本のお祭りでよく見かける長方形のような形とは違う、丸い、楕円形。そして、その提灯が吊るされている、曲がりうねった松。
どこか不気味さを醸し出す風景だった。
「わからない……。
こんなところ、聞いたこともない。まず、街にこんなエリアはない。だから、どこかに飛ばされたと考えるのが妥当だろうね。」
私よりこのゲームに精通しているであろうリツキさんが言うなら間違いはないんだろう。
…どこかに飛ばされた。
だとしたら、ここはどこだ?
―――ぴ、っちょん……
少し遠くから、水音がする。
「……。」
「……。」
私とリツキさんはうなずき合い、恐る恐る階段を登っていく。
つう、と背中を一筋の雫が伝う。…冷や汗だろう。
体に不調は感じられない。ただ、進むたび、どんどん強くなっていく不快感と、威圧感。
間違いない、この先には特殊個体がいる。




