1
新連載です。恋愛要素を含むことがあります。よろしくおねがいします。
1話と2話は連続投稿です。
1話…20時 2話…21時 です。
―――VRMMO。
またの名を、「仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム」。
そのVRMMOゲームの一つ、「Give you a world of freedom」。
通称、「ギブフリー」。
先々週、つまり2週間前にリリースされたばかりの最新ゲームである。
「ギブフリー」にはやりこみ要素が多く、種族設定もそのうちの一つ。
他のVRMMOと違うところは、ハーフを作ることができるところ。
まぁ、ハーフを作れない種族もいることにいるが。
リリースから一週間。
EXクラスと言われる種族を発見した者がいた。
運営がノリでヘルプに追加されたEXクラスの説明で、「最強の種族がある。」「その「最強の種族」は、一人しかもつことができない。」と書いたことにより、プレイヤーは、その「最強の種族」を求めて冒険するものが増えた。
――そして、その最強の種族は、一人の少女が引き当てることとなる。
***
「……当ててから二週間も放置するとは……。」
少女―――光市 帆風は、我ながらお馬鹿だなぁ、とため息をつく。
正座した帆風の目の前には、開封されていないダンボールの箱があった。
そのダンボール箱には、「Give you a world of freedom」の文字。
帆風は、ちょうど2週間前に懸賞で当たったこのゲームカセットの存在をずっと忘れていたのだ。
先程、テレビで「ギブフリー」のCMを見て、その存在を思い出したのである。
「……やってみようかな?」
そう呟いた帆風はゆっくりとダンボールの包装を破り、ゲーム機本体とカセットを取り出す。
そしてそのまま電源を入れ、ゴーグルをつける。
«……ログインが完了しました。カセットを選択してください。»
聞き慣れたAIの声がする。
「あ、『Give you a world of freedom』で。」
本当なら音声入力ではなくて良いのだが、面倒くさがりの帆風は初期の設定である音声入力のままにしていた。
«……VRMMO、『Give you a world of freedom』が選択されました。
…セーブデータがありません。新規のセーブデータで開始します。»
ホーム画面がポリゴン体になって崩れていく。
センサーが現実の帆風の体を通っていく。
くすぐったさを感じ、目を瞑る。
「ふぅ……何度やってもこれはなれないなぁ……。」
くすぐったさがなくなり、帆風は目を開け、周りを見渡す。
真っ白な空間に虹色のポリゴン体がふわりと漂う、そんな空間に帆風は佇んでいた。
«VRMMO、『Give you a world of freedom』へようこそ。
ゲームの始めに、キャラクターリメイクを始めさせていただきます。»
その声とともに、タブレットとペンが姿を現す。
…あっ、これ、ア●パッドとアッ●ルペンシルだ。
そんな事を考えながらタブレットとペンを手に取る。
すると、自動で電源が付き、キャラクターリメイクが始まる。
初期の容姿は私と同じみたいだね。
ア●パッドには、黒髪(ロング)黒目という至極平凡な少女の姿があった。
そこまで大きな変更はできないんだっけ。髪の色と、長さを変えられるくらい? …瞳は変えられないんだね。
アッ●ルペンシルで何回か操作し、決定する。
ア●パッドには、白髪(セミロング)黒目の少女がいた。
瞳の色変えれなかったのは残念。でも、可愛いから良しとしよう。
«容姿が決定されました。容姿は変更できません。よろしいですか?»
ア●パッドに、はい、いいえが表示される。
はいっと。
トン、とアッ●ルペンシルで画面をタップする。
«容姿が決定されました。次に、ステータスについての説明に移ります。»
ステ決めって結構重要だから頑張らんとなぁ。
«初期ステータスは、種族によって定められています。種族を設定してください。»
AIが淡々と話す。
それとともに、ア●パッドにズラーッと選択可能な種族が表示される。
人族(剣士、魔術師)、獣族(兎、狐、熊、狼、猫)、鬼族(戦士、魔術師)、妖精族(炎、水、風、土)、不死者(ゾンビ、スケルトン、リビングアーマー、吸血鬼)など、様々な種族がある。
これって、ハーフができることで有名なんだっけ。じゃあ…
帆風はアッ●ルペンシルで2つの種族をタップする。
«カテゴリー「不死者」から、“ゾンビ”と“吸血鬼”が選択されました。種族:腐血となります。種族スキルを配布しました。»
帆風の体が赤く光る。
«そして、これにてキャラクターメイキングを終了いたします。種族・腐血専用スタートプレイスに移動します…»
また、周りがポリゴン体となって崩れていく。
帆風が少しの浮遊感を感じた後、立っているのは草木が赤黒く変色した大地。
木々の葉は黒さが目立ち、さながら悪魔の木のようでもある。
夜の風景ってところにも一因はありそうだが。
浮遊感があるのってすごいよね……。
でも、こんなところにとばされるとは。
«動作説明を開始します―――»
あっ……。
まだ説明中だったんだ……すいません。
***
«―――これにて、動作説明を終わります。それでは、「Give you a world of freedom」をお楽しみください。»
数分後、動作説明(+α)が終わり、どうやらやっと自由に遊べるようである。
それにしても、スタートがあの場所――【砂血の大地】というらしい――になったのは種族のせいだったとは……。
腐血というか、吸血鬼は必ずここスタートになるらしい。
死に戻りしたら人間スタートの人が行く【はじまりの街】に行けるらしい。…ただし、ここに戻ってこれないらしいけど。
まぁ、それも死に戻りしなきゃいい話だし。
AIの話では、最初に降り立った場所から半径5mくらいは安全地帯らしい。
まずはステータスの確認だよね。
「ステータス。」
そう唱えると、前に半透明の板が現れる。
____________________
シルウィード Lv.1
性別…女
種族…腐血
基本ステータス
HP…10/10
MP…20/20
筋力…5
魔力…5
体力…5
俊敏…5
SP…0
種族スキル
【血流操作】Lv.1【眷属生成】Lv.2
【吸血】Lv.1【魅惑】Lv.1【打撃】Lv.1
【HP自動回復】Lv.1
▼
____________________
シルウィードっていうのは私の名前ね。いつもこの手のゲームのときはこれなんだよね。
スキルはほぼLv.1か。
……この意味深な「▼」、気になるな…。
スイっと下へスクロールすると、画面が切り替わり、スキル一覧と書かれた画面になる。
____________________
〈スキル一覧〉 SP…10
○戦闘スキル
○生産スキル
○種族スキル
●獲得スキル
____________________
ふむふむ、SPを使用してスキルを取得するタイプだね。
……んー、新しいスキルより、まずは種族スキルの確認かな?
腐血の種族スキルである、【血流操作】、【眷属生成】、【吸血】、【魅惑】、【打撃】、【HP自動回復】。
おそらく、【血流操作】、【吸血】、【魅惑】は吸血鬼のスキルで、【HP自動回復】、【打撃】はゾンビの方のスキルであろう。
そして、その全てはLv.1。
早々に鍛えなければいけないであろう。
ああ、【眷属生成】はどちらの種族も持っていそうなスキルなので例外的にLv.2になっている状態なのだろう。
そして、丁度いいことに、この安全地帯で鍛えることができそうなスキルがある。
先程の動作説明の時の+aとして、腐血の初期装備等についても説明を受けていた。AIちゃんガチで優秀。
…ごほん。
腐血の初期装備は、
____________________
Tシャツセット一式
〈説明〉
ただの白いTシャツと靴下と革靴。
耐久値…3
____________________
____________________
フード付きパーカー
〈説明〉
ただの黒いフード付きパーカー。
耐久値…3
____________________
____________________
ナイフ(+ナイフホルダー)
〈説明〉
ただのナイフ。ホルダー付き。初心者向け。
耐久値…10
____________________
……この有様である。
シンプル。地味。
そして何より、耐久値が低い。
説明してくれたAIによると、人間より弱い装備らしい。
【HP自動回復】があるんだから大丈夫だよね? という製作者の性格の悪さがうかがえるというものだ。
……ちなみに、吸血鬼やゾンビ単体の種族を選んだ人のほうが良い装備をもらえるらしい。
プレイヤー間では、“最弱初期装備の最弱種族”と言われているらしい。
なにやら、Lvの上がりが遅く、それに加えてLvが上がっても特にそこまで強くならないんだとか。
……大変な種族になっちゃったなぁ。
というか、ここ、【砂血の大地】で生き延びることができた人がいないんだそう。
だから、ここの情報がまったくない。
正直言って、魔物の名前一つすらわかってないのって怖すぎると思う。
例えば。
「体は蛇。顔は悪魔? というか人の顔。毒を持っていると思われる。名前は不明。」
だとか、
「悪魔。黒っぽい体に黒い角――多分羊の――をつけてた。何がなんだかわからないうちに悪魔が持っていた槍に貫かれて【はじまりの街】に死に戻りした。」
だとか。
調べれば調べるうちに、どんどんと此処が魔境だということがわかっていった。
まぁ、他のハーフ種族も同じような感じで魔境に飛ばされるらしいが。
……暗いことを考えていても仕方ないか。
まずは種族スキルをちゃんと扱えるようにしよう。
そう思って、まず、初期装備の一つ、ナイフでプツリ、と指を刺してみる。
少しして、傷口からじわっと血が出てくる。
ああ、言い忘れてた。
もちろん、痛みはないよ? だって、設定をいじってあらかじめ痛みを感じないようにしてたからね。
私だって、痛いのはゴメンだ。
「あ。」
出ていた血が止まる。
ちえっ、【HP自動回復】のせいか。肌の回復までするんだね。
まぁ、それはそれでいっか。
「…ムムム……。」
出ていた少量の血を、動かせないか踏ん張ってみる。
すると、血に白い光がまとわりつき、ふわっと宙に浮く。
!!
思ってたとおりに動かせた!
―――その後、子供のようにはしゃいだ私は、長時間のスキル使用による“スキル酔い”になるまで自身の血で遊んだのだった。
捕捉です。
装備が破壊され、身につけている装備がなくなってしまった場合、システムメッセージが表示されます。
戦闘中であっても表示され、敗退(死に戻りをするわけではありません)した事となり、報酬はもらえません。また、HPがまだ残っていたとしても、例外なく敗退となります。
システムメッセージでは、装備(初心者用)を買うことができます。
ただ、手元にお金がない場合は自動的に借金となり、返済が滞る場合は冒険者組合(【砂血の大地】にはありませんが、「町」、「街」と示された場所にある施設で、冒険者登録ができます。詳しいことはあとの話で記載させていただきます)の登録が抹消されたり、もっとひどい場合は(市民のAIからの苦情がひどすぎる場合)一日BANされたりします。
なので、特殊な装備や、強力な装備を揃えて破壊されないように立ち回るプレイヤーがほとんどです。
特殊装備(便宜上そう呼んでいるだけで、初期装備・下着等以外の装備のことです)の場合は普通に守ってくれるので、よく壊されます。
服の上に着ている装備が壊れても、システムメッセージ及び強制敗退措置は取られませんのでご安心を。
長々と言いましたが、簡単にまとめると、
・身につけているのものが一切なくなった(またはアクセサリ以外のものがなくなった)場合は、強制敗退措置がとられ、例外なく敗退となる。
・服の上に服を着ることは可能。服が破壊されても、その下に服があれば強制敗退措置はとられない。
・強制敗退措置が取られたプレイヤーは初期装備を買うことができる。
・初期装備を買う時に手元にお金がない、またはお金が足りない場合は強制的に借金となる。
・借金の返済が滞るとひどすぎる場合は一日BAN。
・初期装備は守ってくれないので全てプレイヤーにダメージが来る。ただし、酸などの攻撃のときは初期装備も関わってくる。
という感じです。すいません……。