二重人格の夢
男は、ここ一週間ほど、毎晩のように見る悪夢に悩まされていた。
それは、暗い闇の中をもう一人の自分に追いかけられるというものだった。
そして男の最大の悩みの種というのは、日が経つにつれ、そのもう一人の自分が着実に追い付いてきている事にあった。
「はあ、それは嫌な予感がしますな」
クリニックの医者は神妙な面持ちで男の話を聞いた後、睡眠の質を改善させるという薬を処方した。
そしてその夜、男はまた同じ夢を見た。
必死の形相で、両腕をこちらに伸ばし追いかけてくるもう一人の自分。
その腕がこちらに触れる、その直前で目が覚めた。
次にこの夢を見た時、それが最後になるような気がした。
「どうにかなりませんか、私はもっとこの人生を楽しみたいんです」
「しかし、こればっかりは厳しいですな。如何せんこんな病状は聞いたことがない」
その日の夜、男は処方された五日分の薬を全て飲んで眠りについた。
翌朝、
「おはよう」
重い瞼を擦りながら階段を降りる男に、妻が答える。
「あら、貴方が朝の挨拶だなんて珍しい」
「この頃の貴方は、まるで別人みたいだったから心配してたのよ」