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Amazing Grace

作者: Junya

「もってあと1年です。」

「今後の治療法についてですが抗がん剤を使ったー」


「結構です。」


担当医が聞き返すようにこちらを見た。


「治療は結構です。ありがとうございました」


立ち上がり扉を開けようとしたとき、医師が呼び止めた。


「佐々木さん!治療を受ければ確率は低いですが治ることもあります!せめてご家族に相談してから決断なさった方が、、、」


佐々木は少しだけ笑顔を見せた


「家族、いませんから。」


雨上がりで濡れた道路に映るネオンがいつもより明るく見えた。

鋭く尖った光に胸を抉られたように体は折れ曲がる。


「63年生きたんだ。おかしなことじゃない、

当たり前。当然のことが起きただけだ。」


そう言い聞かせた。


ーご家族に相談してから決断なさった方がー


医師の言葉を思い出した。


「家族か、、、」


3年前•••


「漫画家??今、漫画家っていたのか?!」


佐々木は読んでいた新聞を閉じ息子のあきらを睨んだ。


「そう!漫画家になるんだ。この前持ち込んだら次のルーキー短編賞にエントリーしてもらえることになったんだ!父さんも昔から応援してくれてたし、、、」


「ふざけんな!!漫画家なんかなって飯食っていけるわけねーだろ!」


佐々木は持っていた新聞紙を投げつけた。


「ちょっとまてよ、、応援してくれてたんじゃないのかよ。ずっと夢だって父さんには言ってたよな?」


あきらは机を叩きながら言い返した。


「そんなもん、、なれるわけねぇと思ってたに決まってんじゃねぇか。本気で言うわけねぇじゃねえか!そんなアホに育てた覚えはねぇぞ?」


「そうか、、勘違いしてた俺が悪かったよ。

でもな、、冷静で夢をもたないミジンコみたいに生きるあんたより、アホになって夢を追いかけた方がはるかにマシだ!」


そしてあきらは出て行った。

それっきり連絡もないまま3年が過ぎた。


「ミジンコかぁ、、、たしかになぁ」


あれからあきらはシルバールーキー賞で入賞。

その年のうちに連載もスタートしていた。


佐々木はその事を知っていた。

それどころか普段読まない漫画だがあきらの漫画だけは読んでいた。


「こいつに比べればまさに俺はミジンコ。会いたいなぁあきらに、、謝りてぇなぁ、、」


とは言いつつもどこにいるかも分からない。

出版社に問い合わせても息子が会いたくないと言うかも知れない。


「合わす顔もねーか、、」



昼の終わりを告げるように傾いた光で目を覚ました。

あれから半年、身体は不思議となんともない。


付けっぱなしのラジオから声が聞こえてきた。


「今週のゲストは漫画家のアキラさんです!」


「皆さんこんにちは!アキラです!」


「初のアニメ放送おめでとうございます!」


「ありがとうございます!」


「記念すべき1話の視聴率はなんと」


プッ、、


思わず消してしまった。


「ラジオ出てたのか、、」


ノートパソコンを開き検索をした。


「、、、そーか、アニメ化か、、」


パソコンを閉じて玄関を出た。

季節は秋だが今日はやけに暑い日。

いわゆる残暑だった。


階段を降りてコンビニへと足を運ぶ。


後ろから肩をポンポンと2回叩かれた。


「おじさん大丈夫?!」


なにが大丈夫なのか聞こうとしたが言葉が出なかった。


気がつけば佐々木は地面に手をついていた。

いつ倒れたかも覚えていない。

背中に激痛が走る。


思わず目を瞑り歯を食いしばっていると自然に痛みは引いて行った。


「あぁ、、大丈夫だ、、私もなにがなんだか、、」


目を開けると病室のベッドに横たわっていた。


「ここはどこだ、、、」


それから医師が現れ長々と話をして部屋を出て行った。


倒れた事

それから3日が経った事

癌が全身に転移していた事


一方的に浴びせられた現状報告がため息に変わって体から出て行った。


それから眠れない日々が続いた。

身体はほとんど身動き取れない状態だった。


寂しさと情けなさとが入り混じった。


扉が開く音がした


「看護婦さん??」


「はーい!」


元気な声で返ってきた。


「アキラって漫画家知ってる??」


「あ、はい知ってますよ!アニメ始まりましたね!」

「佐々木さん漫画好きなんですか??」


いや〜っと照れ臭そうに返した。


「少し気になってね、、アニメ、付けてくれる??」


看護婦さんが困った顔で言った。


「確か明日の夕方でしたよ?時間になったら付けにきますね!」


ありがとう そう伝えると看護婦さん検査を終えて部屋を出て行った。


次の日、予定通り看護婦さんが来てテレビをつけてくれた。


「これ確か3話ですけど、佐々木さん1話と2話見たんですか??あ、でも2話はもう入院してたから見れなかったか!」


そーか、そーかと首を縦に振りながら続けた


「内容わかります?私みたから教えましょうか??」


少し誇らしく佐々木は答えた。


「漫画で見たんだよ。だから大丈夫!その証拠にね3話の最後らへんは〜」


看護婦さんが慌てて立ち上がって話を遮った。


「ちょっと佐々木!私見てないから!!

言わないでよ〜〜」


佐々木は笑った。

慌てる看護婦さんの姿が2割。

もう8割は息子のアニメにハマる人を間近で見た

なんとも言えない嬉しさだった。


アニメが終わると看護婦さんは立ち上がり


「面白かったですね!あと佐々木さん!

今日はなんだか調子がいいみたいで!

数値もよかったですよ!!」


満面の笑みでそう言ってくれた。


「そうか、、なんでだろうな。今日はなんだかよく寝れそうな気がするよ」


看護婦さんは手を振りながら言った


「寝れるのは元気な証拠ですよ!頑張りましょうね!」


佐々木も弱々しいが振りかえした。


そして静かに目を閉じた。


少しだけ騒がしい音が聞こえた。


遠くの方でガシャガシャとなにかを組み立てるような音。


目を閉じたまま耳をすませた


、、、さん、、さん、、佐々木さん!!佐々木さん!!


自分が呼ばれている、、、そうか

開けようと思った目が開かない。

手や口の感覚がない。

音だけが聞こえている、、、


自分の名前を呼ぶ声。なんとなく心地よくてその音に身を委ねてみた。


このままどこかに流れていきそうなそんな感覚に陥った時、、


親父!!


そう聞こえた。佐々木は驚いて目を開けた。

全開には開かなかった。開いたことすら奇跡なのかも知れない。


「あ、、きらか?」


ぼんやりだがあきらがいた。たしかに。現実にあきらはベッドの横に座っていた。


「ごめんな、、、」


あきらは泣きながらそう言った。


「なんで、、分かったんだ?」


あきらは涙を拭き答えた


「ラジオにコメントくれたろ?ファンですって!

なんとなく親父だと思って探したんだ!」


あきらは泣きながらつづけた。


「コメントのペンネーム、、ミジンコって、、

それで、、」


佐々木は笑った。


「そんなんで、、わかったのか、、気にしてたんだなぁ、、」


あきらは手を握りしめた。


「ごめんなぁ親父!ミジンコだなんて言って!

ずっと謝りたくて!!

親父はミジンコなんかじゃないよ!俺はミジンコにすらなれない!!」


あきらは後ろを振り返り誰かを呼んだ。


女性が赤ちゃんを抱えて歩み寄ってきた。

彼女はすでに泣いていた。


「結婚したんだ!子供もできた!

俺さ、、奥さんに頼ってばっかでさぁ

何もできなくて、、、

親父みたいに男手一つで育てるの考えたら怖くてさぁ!

そんで恥ずかしくなって会えなくて、、

ごめんねも言えなくて、、、」


そこからは何を言ってるのかあまり分からなかった。

あきらが泣いてるのもあるが少し遠くに聞こえる


目も見えなくなっていたことに少し経ってから気づいた。


佐々木は笑って答えた。


「ありがとう、、」


遠くからありがとう、ありがとうと聞こえる。

その声が徐々に聞こえなくなり。再びふわふわと身を委ねていた。


、、、その時


「あなた、、、」


女性の声が突然きこえたを

佐々木は驚いて目を開ける


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