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新米魔王と千枚舌勇者の世界征服記  作者: 長埜 恵
第7章 ノマン王国へ
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3 物置小屋の中で

「ととと父さん!? 本当に父さんなのか!?」

「みょーっ! みょみょみょみょっ!」

「にゃにゃにゃ! ほ、本物だぞ! 一回死んでえらくスマートな見た目になったが、ちゃんと父さんだ! それよりピィ、何故ここに……!」

「ううううう、生きてたんならなんで教えてくれなかったんだ! すごく、すごく悲しかったんだぞ!」

「みょみょみょみょみょみょ!!」

「いや、死んではいる。死んではいるのだが」


 巨体の骨の魔物に抱きつくピィとケダマ。それでも、溢れてくる涙を抑えることはまったくできなかった。

 そんな彼女を、父――ブーニャ=ミラルバニは、頭を撫でて宥めていた。


「ど、どうしたんです、ブーニャさん。その女性の声は、一体?」

「あ、ああ。吾輩の娘だ。とても可愛いのが特徴」

「娘……ってえええ!? ということは現魔王様ですか!?」


 知らない男の声に、ピィは顔を上げる。うんうんと頷く父の視線の先には、目に酷い傷痕のある背の高い老人。その風体にピンときたピィは、口を開いた。


「まさか、おぬしは……ダークス殿か?」

「おや? 何故私の名まで知って……」

「マリパ=ヨロロケルの兄であり、かつ昔宝珠に秘められた本をどんどこ持ち出した罪により目を潰され国外追放され、流れ着いた先のサズ国でクレイスを引き取り育てたダークス殿か?」

「何故私の半生をスラッスラと!?」


 困惑を通り越して恐怖するダークスに、ピィは鼻声で事情を説明する。その間も、彼女とケダマは父から全く離れなかった。


「……ふむ、それはえらいことになっていますね」


 事態を把握したダークスは、顎に手をあてて考えていた。


「しかし、クレイスが私達の為にそこまでの危険を冒していたとは。いや、彼の動きが無ければ我々もピィさんもここまで来られなかったのですから、叱る事もできないのですが……」

「にゃ! それにしてもピィ、ものすごく頑張ったのー! 魔王権が移ってもお前ならやれると思っておったが、それでも偉いぞー!」

「ですが、なればこそ我々奴隷軍も奮起する時です。ヨロ国研究所の皆さんが秘密裏に作ってくれた、この“枷溶かしの水”を配り……」

「そうだ、父は健在か? 医療長として余生を過ごすと言ったはいいが、あのように過激な性格だ。逆に患者の怪我を悪化させかねんのではないかと心配しておってな。どうだ、うまくやって……」

「ブーニャさん、ちょっと後にしてくれません?」


 ピシャリと嗜められ、ブーニャは気まずそうに身を縮こませる。その光景に二人の力関係が見えて、こんな状況にも関わらずピィは少し笑ってしまった。

 ――かつてブーニャは、ノマン王に和平をチラつかせられノマン王国へと向かった。しかし案の定罠であり、ブーニャは命を奪われてしまったのである。

 本気を出せば、ブーニャが難無く勝てた戦いであった。しかし彼に剣を向けたのは、恐怖に泣く奴隷の子供達だったのだ。

 こうして反撃することなく殺された彼の死体は、サズ国に打ち捨てられた。だが元々莫大な魔力を持っており、それを一切削ることなく死んだブーニャの身に奇跡が起こった。

 体内に残っていた魔力がコアを包み、ゾンビとして彼を蘇生させたのである。


「で、そこで出会ったのが、ダークス殿というわけでな。我々は意気投合し、奴隷の解放とノマン打倒を胸に誓ったのである!」

「そ、そうか……。でもよくダークス殿も、ゾンビと友好を結べたものだな」

「そりゃあ初めて知った時は驚きましたがね。でも私、目が見えませんし」

「確かに」

「ブーニャさんがゾンビと知ったのは、奴隷の皆さんに彼を仲間として紹介した時です。ただならぬ悲鳴が上がって、ようやく気付きました」

「うわぁ」


 当時の混乱と騒ぎは想像に難くない。しかしここで、エヘンと咳払いが割り込んできた。


「それではよろしいでしょうかね! 早速! 作戦会議に移りたいと思うのですが!」

「なんだこの声の大きい男は」

「やる気に満ちているでしょう。ヒダマリさんがいなくなった後、研究所を取り仕切っていたデンさんです」

「ピィ様! ヒダマリ課長を助けてくださってありがとうございました! お陰でこうして我々は秘密裏に計画を進めることができます!」

「秘密にする気あるのか?」


 あるらしい。デンはたぷんとお腹を揺らして、腕を組んだ。


「頼みにしていた空間転移装置が、不良品の魔力水晶を使っていたのは残念だったが! しかし、魔物軍含む援軍がこちらに向かっているのは朗報です! ところでピィ様! 応援の到着はいつぐらいになるでしょう!?」

「う、うーん……以前ヒダマリは、サズ国の外れに空間転移装置を置いたと言っていたが……」

「ならば二日後ほどでしょうか!?」

「いや、魔物軍と来るだろうから半日もかからないんじゃないか?」

「それはありがたい!」


 魔物軍が常軌を逸した機動力を持つことに、特に疑問は無いらしい。デンは、どうやらかなり大雑把な性格のようだ。


「それでは、援軍が来るまで我々と奴隷軍が戦い、思いきり引っ掻き回してノマン王国軍の気を引きましょう!」

「ありがとうございます。……ピィさんは、その隙にクレイスを助けてあげてください。私も、もう一度彼と言葉を交わしたい」

「にゃにゃあ、だけどピィ、一人でも大丈夫か? 吾輩もついていってやりたいが、何せダークス殿はこの通り高齢で盲目だろう。戦いとなれば尚更、吾輩がそばについてやらんといかんのだ」

「吾輩なら大丈夫だよ、父さん。ほらこの通り、父さん譲りの魔力もあるし……」


 ピィは微笑むと、指を鳴らして簡単な日の魔法を使おうとした。が、現れかけた火は一瞬で自分の体へと戻っていく。


「……」

「……」


 もう一度。しかし、結果は同じであった。ブーニャは少し首を傾げると、ピィがつけたペンダントを手に取った。


「……ペンダントに、反魔法の術がかけられておる。これを外さんと魔法は使えんぞ、ピィ」

「……」

「……あ、これ外せないやつ」

「父さん、やっぱついてきてくれないか」

「仕方ないにゃー」

「ダメですよ、ブーニャさん。あなたありきの作戦も多いのですから」

「にゃー」


 娘の身を案ずる父の哀れな鳴き声は、物置小屋の中に留まり消えたのである。

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