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片思いの相手が超絶可愛い格好でソワソワしていると思ったら某チンピラと待ち合わせしていた件について

 それは、今日も元気にクレイスが魔国へやってきた(※仕事中)時のことである。


「な、なあケダマ。ほんとにこの服変じゃないか?」

「みょ」

「今はご飯の話してないだろ! それより吾輩の服は……」

「みょーみよっ! みょみょっ!」

「もう! からかうんじゃない!」


 ……多分、イマイチ意思疎通がはかれていないんだろうなと思いつつ。しかしクレイスは、それどころではない感情に胸をざわつかせていた。


(ば、抜群に可愛い……! 普段の生活感に特化した服とはまるで違う、あれはいわゆるヨソユキ!

っていうかドレス風ワンピース! 華奢で色の白い体にフィットした、可愛過ぎず、だけどクール過ぎもしない絶妙な塩梅! 大変だ、気をしっかりもってないと失神しそうなぐらい可愛いぞ……!)


 けれど、一つだけ違和感があった。実は、クレイスは自分がここに来ることを事前にピィに告げていなかったのである。

 ならば必然、あの服は自分に見せる為のものじゃないということになる。いや、もしかしたら自分とデートする時の為に今試着をしてくれているのかもしれないが……。


(……ピィさんはケダマさんを携え、かつ服に合わせた靴も選んでいる。間違いなく外出の準備だ。あと、普通に門から出ていけばいいものを、何故か窓のへりに足を引っ掛けている。あれはルイモンドさんにバレないようにする為だろう。

 つまり、ピィさんは『俺以外の誰か』の為に『おしゃれをして』『こっそり』出かけているということになる。これは捨て置けないぞ……!)


 推理が終わった所で、ピィはぐっと窓辺から身を乗り出した。そのままひらりと城の外へと落ちていく。


(逃がしませんよ!)


 こういうこともあろうかと、ヒダマリに頼んで『空飛ぶ不可視追跡インビジブルストーカーマシン』を作ってもらっていたのだ。具体的に何がどうなってそうなるのかは明言しないが、とにかくこれでクレイスはピィを追えることになったのである。






 数十分後、ピィを追ったクレイスはヨロ国まで来ていた。


(ま、まさか転送装置まで使うとは……。しかし、ここで誰かと待ち合わせしているのだろうか。順当に考えるなら、ご友人のマリリン様なのだろうけど……)


 大きな時計台にもたれ、ソワソワとするピィはとんでもなく愛らしかった。何度も時計を見ては、じれったそうにため息をつく。時間を持て余し、肩に乗るケダマをモフる。

 ……彼女の待ち合わせ相手が、自分だったら。そう思わずにはいられず、クレイスは「はぁ」と息を吐いた。


「……あ!」


 すると、ピィが顔を上げた。彼女の麗しき赤い目の先にいたのは──。


「おーっす、嬢ちゃん。ちょっと待たせちまったか」

「ああ、早く着いてしまってな。だが気にするな。吾輩が望んでそうしたことだ」


 ──自分が昔世話になった、チンピラ……いや詐欺師……いや新生ノマン王国の外交大臣をしているベロウであった。


(な、なんでベロウさんがここに……!?)


 だがクレイスの戸惑いをよそに、ベロウは親しげにピィの元へと向かう。


「お、今日綺麗にしてんなぁ。よく似合ってるよ」

「そ、そうか! いやなに、マリリンにもそう言ってもらったんだがな。なにぶん慣れぬ服だから自信が無くて……」

「だーいじょうぶだって。嬢ちゃんは下地いいんだから、ちょっと着飾っただけで上モノになるよ」

「ふふん、褒めた所で魔国でのみ採れる暗黒瑪瑙のブレスレットぐらいしか出ないぞ」

「それなんだけどさ、前貰った時オレ様と魔力の質が合わなかったのか、毛先という毛先が軒並みカールする呪いにかかったんだよね」

「治ってよかったな」

「ほんとにな!」


 ……楽しそうである。とても、楽しそうに話している。そんな二人を見るクレイスは、もう内心気が気ではなかった。


(お、俺が知らない間に二人はそれほど仲良くなっていたのか? そんなこと、ベロウさんからはおろかピィさんも話していなかったが……)


 しかも、この外出は彼女の側近らも知らないものなのだ。そういった類いの行動の目的は、今のクレイスではひとつしか思い浮かばなかった。


(で……デート?)


 しかし、すぐに打ち消す。


(いや。いやいやいやいやいや、まさかそんな馬鹿な。だってピィさんの好みのタイプは『自分より強い者』(※クレイス調べ)だし、そういう意味ではベロウさんは雑魚同然だし、戦えば俺のが強いし、ああでももしベロウさんの口車に純粋なピィさんが乗せられたのだとしたらああああああ)


 そうやってグルグルと悩んでいるうちに、二人は連れ立って歩き出す。クレイスは、慌てて跡を追った。


(とにかく、まずは二人が何をするつもりなのか見極めねばならない。最初の目的地は……)

「お、ここなどどうだ」

「えー、ここぉ? やめとけばぁ?」


 ピィとベロウが立ち止まったのは、宝石店だった。


(ほほほ宝石店!!!?)

「なんつーか、まだ二人には早いっていうか? そこまでの仲じゃなくない?」

「む、そういうものか」

(二人には早い!? ならいずれは訪れるのか!?)

「それに……ほら、なんつーの。宝石みてぇなもんは、男のほうから渡したいっつーか……」

「何と言ったんだ? 聞こえなかったぞ」

「みょー」

「や、な、なんでもねぇよ。忘れてくれ。なんかガラじゃねぇこと言ったわ」

(俺に聞こえてピィさんに聞こえてないってどんな声だよ!!)


 最後のほうは、もはや何に怒ってんだか分からなくなっているクレイスである。ともあれ、宝石店は外から見るだけで中には入らなかった。

 そして、二人はまたてくてくと賑やかな街を歩いた。


「あの店などどうだ?」

「あー、オモチャ屋か。流石に子供っぽいんじゃねぇかな」

「じゃあ、あの店!」

「菓子屋か。結構いいと思うぞ。入ってみるか? クレープ一つぐらいなら奢ってやるよ」

「よ、良いのか!? ありがとう、ベロウ! 実は吾輩、まだ人間の通貨の使い方がよくわかっておらず困っていたのだ!」

(そんなもの俺がいくらでも教えますよ、ピィさん……!)


 歯が砕けそうなほど悔しがるクレイスだが、横入りするわけにもいかない。黙って、ピィがクレープを完食するのを眺めていた。


(あ、ピィさん、ほっぺにクリームついてる。可愛い……)

「……ん? 嬢ちゃん、クリームが……」

(おいコラベロウ!!!!)

「みょみょっ!」

「む、すまないケダマ」

(ナイスブロックです、ケダマさん!!!!)


 その後も、二人はあちこちの店を訪ねては特に何も買わずに出るということを繰り返していた。そうして、かれこれ二時間ほど経った頃だろうか。


「さて……そろそろ帰る時間だな。ベロウ、今日はありがとう。助かったよ」

「なんの。オレ様も久々に羽伸ばせて楽しかったぜ」

「よかったらまた相談に乗ってくれ」

「おう、是非是非」

「それで、お礼と言ってはなんだがもし良かったらこれを……」

「ん、プレゼントか?」

(!!!!)


 二人の距離が縮まる。そこでもう、この一日溜まり続けたクレイスのフラストレーションが頂点に達した。


「ピィさん!!」

「クレイス!?」


 飛び出したクレイスは、小さな包みを持ったピィの手を掴んでいた。


「な、なんでここに!?」

「それはさておき!」

「さておき!?」

「俺というものがありながら、ベロウさんと二人っきりで楽しそうに出かけるとは何事ですか! あまつさえ、ぷ、プレゼントまで……! 俺さえもらったことないのに……!」

「クレイス……」

「ベロウさんと出かけるぐらいなら、俺と出かけてください! ベロウさんの百倍楽しませますから!」


 突然の登場と突然のド直球な口説き文句に、目を白黒させるピィである。そんな彼らに割って入ったのは、他でもないベロウだった。


「おいおいクレイス、落ち着いてくれよ。別にオレ様、嬢ちゃんを取って食おうなんて考えちゃいねぇよ」

「は? ンなもん頭に思い浮かべた時点で爆破しますけど」

「オレ様爆破されんの? いやいや、何か勘違いしてると思うんだけどさ、オレ様は嬢ちゃんに頼まれてお前のプレゼントを選びに来てただけだよ」

「え、俺のプレゼントを……?」

「ベロウ! 何を勝手に!」

「だって言わなきゃ拗れんじゃん。イヤよオレ様、痴話喧嘩に巻き込まれんの」

「むぐっ!」


 真っ赤になって黙り込むピィもとても可愛いなと、クレイスは思った。


「……どういうことですか? ピィさん」

「……いや、別に……。い、以前、お前にペンダントを貰って、そのままだったろ。だからその、吾輩からも何か渡してやりたいと思い……。でも、人間の男が何を喜ぶかなんて分からないから、ベロウに目利きを頼んだんだ」

「そうだったんですか……。すいません、そうとは知らず早とちりをしてしまって」

「まったくだ! せっかく街に出るから魔物とバレてはまずいと思い、人間に溶け込めるよう精一杯擬態したというのに! 無駄になってしまったではないか!」

「あ、そのオシャレは擬態のつもりだったんですね。っていうか、この国においてピィさんいい加減有名人なんですから、あまり効果は無いと思いますよ」

「え、そうなのか?」

「はい」

「えええー、じゃあいつもの服で来れば良かった」

「ですがとてつもなく可愛いです。それこそ、気をしっかりもっていなければ失神しそうなくらい。そうだ、よろしければこのまま少し街を歩きませんか? 俺はぜひ、今のピィさんをエスコートしたく思います」

「ええー」

「あのー……オレ様もう帰っていい?」

「はい」

「クレイスにゃ聞いてねぇんだよ!」


 これ幸いとピィにガンガン迫るクレイスに、ベロウはわかりやすくブチ切れている。イチャつくにしても、往来でやるんじゃないという所だろう。

 だがそんな彼に、ピィは慌てて包みを差し出した。


「いや、これだけは受け取ってくれ、ベロウ。今日はとても世話になったんだ」

「……まあ、貰えるもんは何でも貰うけどさ。律儀にありがとよ」

「ああ。不要であれば、換金でも何でもして金にしてくれ」

「流石にそこまで不義理じゃねぇよ。ちなみに中身は?」

「魔国でのみ採れる暗黒瑪瑙のブレスレット」

「毛先クルックルになるやつじゃねぇか! 即刻売るわ!!」


 こうして、クレイスの悩みは無事杞憂に終わったのだった。当の本人も、ほっと一安心である。


「……っていうか、お前いつから吾輩を見てたんだ?」

「え? 城でピィさんが出かける準備をしてる所からですけど」

「……」

「どうしました?」

「そろそろ魔国にも法整備が必要なんじゃないかと思い始めている。具体的には、無断で城に侵入する者を防ぐものとか」

「なるほど。ならばそれまでに俺は城に引っ越し、住居権を得ねばなりませんね」

「何がお前をそこまで突き動かすんだ……」

「ピィさんは、初恋の方ですからね」

「……」

「……ピィさん?」

「ああもうっ、なんでもない! ほら、街を歩くんだろ! とっとと行くぞ!」

「はい、参りましょう」



片思いの相手が超絶可愛い格好でソワソワしていると思ったら某チンピラと待ち合わせしていた件について・完

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