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第3話 転移と裏切り

 己の名が呼ばれるまでは、と跪坐で居ずまいを直す。横に坊主頭の男がやってきた。



「えっと、善三郎さん、でありましたか。私、陸軍二等兵狭山恭介と申すであります。以後よろしくお願い申します」


「む、恭介殿か。こちらこそ頼む」



 軽く頭を下げながらも、この男、何をしているのか、内心首を捻った。片手を頭に添えて、姿勢よくこちらをみる男に、敵意はなさげだと安堵する。



「えっと、奇妙なこととなりましたな。八百万の神から助太刀を頼まれるとは」


「まあ、そうですな。この年で神隠しなど」


「ん? 神隠し。まあ、そうなるのでありますか。ああ、失礼ながら年はいくつで」


「十八となりました」


「え? 」



 思わずといったように凝視され、ムッとした顔となる。



「あ、いや。一つ上なのでありますか。だからでありますか。私はあのように旅の用意など思いもよらず、少し驚きました」



 人懐こい笑みで座り込まれ、善三郎は目を逸らした。そこへ戻ってきたばかりなのか、実優という女の甲高い声がかかってきた。



「えー。私たちより、年上なのー? 善ちゃんはその顔でぇ? 」


「貴様。私の顔がなんだ」



 反射的に怒鳴ると同時に変なあだ名で呼ばれたことに胸の奥がムカムカ沸き立つ。実優という女は目に涙を貯めて怯えたように身を縮ませた。



「あ、え? お、怒るのぉ? そんなので」


「あ、た、たぶん、地雷、踏み抜いちゃってるよ、実優ちゃん」



 やめなよ、とユキという女の怯え、また焦る顔に一旦怒気が失せた。押さえる人もいるのか。口を一文字にしながら、睨み付ける。



「あはは。ごめんね。私要らないこと言うっていつも怒られるんだ。でも背も低いしめっちゃ童顔だし」


「ちょ、実優ちゃん」


「どうがん?」


「わかんないの? 童に顔で、子供っぽい顔だねってこと」


「貴様。わざとか」



 ケラケラ笑いながら離れる女へ飛びかかろうとするのを、恭介に押さえつけられた。相手にするな、というらしい。


 苛立ちを内心か変えながら、そっぽを向いた。


 実優という女はからかっただけじゃん、と全く反省の色も見せず、頬を膨らませて座り込む。ユキという女は申し分けなさげに頭を下げつつ、神の元へ向かった。



 最後に回った己の番のとき、神は少し疲れた顔をしていた。全くもって、なにがあったのだか。



「ああ、貴方だけですね。過度に信用しないし、怯えもしない、しかも欲たっぷりの願いもないのは。職は戦士でよさげですが、どうしましょう。貴方には貴方がほしいときにほしいものが手元に出る武器がよいかなって」


「は? 」


「ですから、剣がほしいなら剣、槍なら槍、弓なら弓。全般的に鍛えてきたんでしょう? 一つ限定は勿体ないですからね」



 素直にありがたいが、どう扱うのやらと、渡されたのは小さな石だった。ふざけるなとキッと視線を向ければ神が頭を撫でてきた。



「これね、召喚石っていって私の与えた武器をいつでも召喚するものですわ。失くさないように指輪や腕輪なんかにして身に付けて。武器は貴方がイメージ、んー、想像? あー、思ったものがその場に現れます」


「では、刀がほしい」



 呟きに合わせて石が光り、形を変える。現れたのは黒塗りの漆塗りの太刀。抜き放てば波打つ波紋が美しい一振りだ。



「声に出さなくてよいですよ。武器は折れず錆びず、常に使用可能です。どうでしょうか」


「よきものだな。して、この小石を身に付ける場所だが」



 神へ耳打ちすると少し嫌な顔をしながらも、うなづかれた。



「思わぬ場所ですね。見た目にも一応あるように見せかけないといけないので、できれば」


「だったら」



 神への耳打ちに了承を得た。善三郎はニヤリと笑う。絶対失くさぬ場所だ。あと己の誇りは常に側に出せばよい。


 早速太刀を腰に差した。思わず長いかと頭を掻く。脇差を思えば光が放たれ、気づいたときには脇差が腰に差されていた。



「なるほど。よきものを得たようだ。ありがたい」


「いえいえ。とりあえず皆様に渡せたので、彼の世界へ送りますね。少し準備をします。皆さんのもとで待ってくださいね」




 皆の居場所に戻れば実優という女が驚いた顔をしている。



「えー、やっぱ、刀なの? 面白くないわー。あ、でも何個も指輪と腕輪してるのって意味あるのー? 」


「・・・・・・多少は」


「ふーん。ま、私は可愛らしくネックレス。武器はね、ヒ、ミ、ツ」


「どうでもよい」



 バッサリ切り捨てた善三郎へ面白くないのか、膨れっ面で睨み付けてきた。恭介は戸惑うような視線を送る。善三郎は既に恭介が背負ったものに目が向いていた。



「火縄銃ではないな。みたことない形だ」


「え、ええ。私愛用のであります」


「よいな」



 ニヤリと笑えば恭介も破顔した。背後でごちゃごちゃ文句をごねる声も煩わしくて無視をしながら、話し込もうとした時だ。



「はい、皆さん、準備が整いましたので、こちらに来てください」



 神の一言に振り向けば、床一面に丸い型の不可解な文様が現れていた。



「これ、魔方陣といいまして、この上に皆さん乗って手を繋いでください。そうしたら、彼方の世界の或国へ送りますね。ただし、たどり着くまでは手は離さないで。離れ離れになってどこへ行くか分からないですから」



 真剣そのものの声に各々が頷き、魔方陣の上へ立つ。直前、実優とユキが何か耳打ちをし、男女交互になるよう入れ替えられた。



「おい」


「えー。両手に花で嬉しくないのぉ? 」


「チッ。意味が分からない。しかもなんで手を繋ぐのに躊躇いがないのだ。慎みないのか」


「えー。普通じゃん? いやなの? でも手を離しちゃダメなんでしょ。善ちゃんからは手を離さないでね」



 この女たちには普通らしい。善三郎は理解できないが仕方ないと手を取る。神が行きますね、と言うや否や歌い始めた。


 魔方陣から白い光が放たれる。ふわりと浮いたと思った瞬間、天空から一気に突き落とされた。



「きゃあ! ジェットコースターじゃん」



 一人笑う声にひきつりながらも、やがて地上らしき緑の色が見えてきて安堵した。


 4人の周りは白い光がまとい、行く手を導くように先へつ続いている。だんだん森と野原がはっきり見えるまでとなった。



「じゃ、ばいばい」



 唐突だ。両隣から手を離された。善三郎は軽くしか触れてなかったからか。地が見えて安堵したせいか。白い光から一人離され、森へ落ちて行く。隣にいた女の嘲笑う顔と、恭介の必死に名を呼ぶ声が脳裏へ焼き付いた。

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