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第2話 神様

 生きているらしい。真っ白な空間で身を起こした。


 痛みがない。身体をあらためれば、枝を踏み抜いた足裏さえも傷が消えていた。使いへ行くために着ていた旅装も新たに繕ったようだ。


 誰がこんな辺鄙な場所へ放り込んだのか。


 眉根を寄せながら、辺りを見渡せば、珍妙な姿の女や男が3人いた。一度蘭学者から聞いた和蘭人の絵姿にも似て非なる衣服だ。


 身にぴったりとして熱くないのだろうか。そもそも女らは短い布を腰に巻いて、膝上から下側がすべてむき出し。ただただはしたない。



 男の髪も女たちの髪も珍妙だ。男は総髪ならまだ理解できるが、なぜか僧侶が何ヵ月か修行したあとのような短髪である。


 しかし髭はないところを見るに善三郎と年は変わらないのかもしれない。女たちも一人は結い上げるには短い髪であり、一人は頭の頂点で一つに括っているだけだ。


 皺一つ見受けられない。女どもも年は変わらぬか。そう考えながら身を起こした。



 腰に手をやり、刀が消えていることに舌打ちする。崖から落ちた際に手離したのだろう。武士として情けない。



 とにかく怪しき者たちかもしれない。間合いをとり、座り直した。



「あら、あなたが1番に起きたの」

「何奴ッ 」



 振り向きざま、居合を浴びせようとしたが、手は虚空を切った。チッ。刀がないのだった。気配もさせず、後ろから声をかけた人は面白げに唇を弧に描いた。



「警戒しないで。大丈夫。あなたの味方よ」


「名を名乗れ。曲者」


「貴殿方に名乗るとしたら、"神"かしら? ああ、他の方もちょうど起きたわ。この世界について、説明しなきゃね」



 ここは? だれ? 怯える声が神と名乗るものを見つめた。



「あなた、神様なの」



 女の一人は呆然と呟くと、神と名乗るものは頷く。



「やった! ユキ、これ、小説みたいだけど、絶対異世界転生かなにかよ! こんなことがまさか起こるなんて」


「み、実優ちゃん、そ、そんな、さっき一緒に」


「どう言うことでありますか?」


「あら、女の子たちは理解できるのね? あ、でも転生じゃないわよ。おかしいわね? 適当な時代を選んだはずなのに」


「たぶん二人一緒にトラックで跳ねられたからだと思いまーす! 」



 なぜ嬉しそうに言える。とらっくが何か分からないが、死んだ原因らしい。僧侶頭の男は銃で撃たれたと呟く。善三郎は眉根を寄せた。



「まず、謝らせてもらうわ。貴方たちは本来命を落とす予定ではなかったの。ただ、他世界の崩壊を防ぐために渡って貰わなきゃいけなくて、もっとも適した人を選んだの。本当は異世界の物語が普及した時代にしたかったんだけど、問題児がたくさんいてね、知らない時代の人も混ぜなきゃいけなくなったの」



 意味が分からない。頭を降りながら、足を崩した。神を名乗るものは真剣であり、殺気など感じない。ならばこちらも相応に。



「まず言うと、今から送る世界は魔法が使えます。魔法はね」


「やった! 魔法が使えるのね! 何でも使えるの? ねぇ、ねぇ」


「あはは。元気ねぇ。何でもじゃないわ。その人に合うものだけよ。他だ、こちらから送る際にいくつかの能力はプレゼントするわ」



 まほう? せかい? ぷれぜんと? 聞き慣れない言葉に首をかしげた。なんとなしに察するに江戸とは違う国へ神とやらに飛ばされるのだろう。


 つまり神隠しに合ったらしい。元服はとくの昔に済ませたというのに、私は子供ではないと言う言葉を飲み込んだ。



 神が土下座をしたからだ。



「ごめんなさいね。貴方たちは元の世界へ戻れないの。本当は彼方の世界で完結しないといけないことなの。でも、どうしようもできなくて。たぶんなぜ貴方たちが必要か、彼方へ行ったら分かるわ。だからせめて不自由しないようにだけはしておくわ」



 4人は顔を見合わせた。女の一人はにっこり笑って手をあげる。



「世界を救うなら、行きます! 絶対大丈夫! 」


「実優ちゃんが言うなら私も」



 ずいぶんあっさりと。




(信じるべきか、信じぬべきか)




「神国日本の八百万の神なのでありますか? 神の仰せならば私は従うのみ」



 こやつはこやつで変な男らしい。善三郎は溜め息をついて目を瞑る。



「私も従おう。命を助けていただいたご恩を返すためだが」



 今はとりあえず、従うしかない。嘘か真か判別ができない。あいつのように本音を隠して話しているかも分からない。



「ありがとう。では能力についてね。3つあげるわ。まず、言語。どこに言っても言葉が分かるようにするわね。次に職業、貴方たちにぴったりの職業を与えるわ。それにともなってどの魔法が使えるかも変わるの。よいかしら」


「選べないのー」


「選びたかったかしら? 選んでもよいけども、自分に合ったものかは分からないわよ」


「えー、仕方ないなぁー、サイキョーじゃないとやだからね」



 神はその言葉に苦笑いする。実優という女に苛立ちを覚えながらも、とりあえずは使い勝手がよいモノを頂けることは分かった。



「ああ、職業によって貴方たち理想の武器も与えるわ。これも2つ目の条件の中よ。そうね。なくさないようにしなきゃいけないし、あとで私からの贈り物として個別に渡すわね。最後、異世界への渡りビトのカードを渡すわね。これがあればとりあえずの身分を補償して貰えるの。失くさないでね」



 名前と金の縁取の描かれた白いカードが配られる。通行手形と同じものだろう。失くしてはならないと早速懐にしまった。



「神、か。神様、すまぬが旅支度はどうしたらよい」


「ああ、そうね。一応貴方達の居た世界のものを一通り準備した方がよい? 慣れたものが使いやすいかしら」


「大丈夫だよー。異世界で揃えるしー」


「げ、現地調達できるならそれで」


「うむ。不便がないならば私も」



 あっさり否の声をあげられ、善三郎は口を閉ざした。


 3日ほどはどうにかできる乾飯など、矢立かなにかものを書くもの。


 他にも、付木か火打ち石か火を着けるもの、薬もいくらかいるだろうから印籠も、あと金の価値も分からぬから金がわりになる代物程度、ほしいものだ。



「善三郎でしたか。貴方は現実的なんですねえ。ほとんど神殿に降ろしてあげれるんだけど、万が一に備えたものは与えましょう。要らなければ彼方の世界の人へ分け与えなさい」



 にっこりと笑った神が手を振るとそれぞれに1つずつ、袋がおかれた。中身はそれぞれ違うらしい。



「わー懐中電灯だ。あ、スマホはないのね。ケチィ」


「で、でも缶詰とかペットボトルとか、あるよ。簡易味噌汁のもとも」


「どうせならポテチがいいわよ」



 相変わらずかしかましい二人に背を向けながら、生きていけるだけのものがあるのを認め、神へ深く頭を下げた。神はクスリと笑って、楽しげに見守る。



「では貴方たちの武器を授けるわ。まず、実優からこちらへ」

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