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黄昏の魔法陣  作者: しまけん
第一部 "人領編" 序章
2/21

2-異世界

「ーーそうだ。あの後、俺は意識を失って……」


 キンキン響く頭痛に頭を抑えながら、夕はその時のことを振り返った。

 よく見れば、地面に彫刻されている魔法陣は、あの時見たものと相似だ。

 おそらくこの魔法陣の効果で異世界に呼び出されたのだろう。おかしな話だが、今はそう考えるほかない。


 ーーつまり、ここは本当に異世界なのだ。

 平坦な地平線。二つある太陽。そして、魔法陣。

 これほど状況証拠が揃っている状態で、ここは地球だと言い張るのはあまりにも難しかった。


「……とにかくだ」


 夕は誰にでもなくそう呟き、


「行動しなきゃ始まらない。だからまずは……」


 その神殿のような場所をぐるりと一周だけ見渡した。

 顔の向きを変えるたび、バタバタと倒れているクラスメイトや白ローブが目に入ってくる。

 天井を支える太い石柱と、その隙間から見える森の中には、人が通れそうな林道がここから一本だけ伸びているのが見てとれた。


「あそこか」


 その神殿から夕は足を踏み出し、林道へ赴く。

 とりあえず林道の出口を目指し、そのあと適当な街でも見つけて情報収集をすることから始めることにした。


 見渡す限り緑だが、その植物は見たことのないものばかりだ。

 木々の隙間や草花の間から動物、昆虫も覗けるが、夕の知識を持ってしても知らない生物ばかりである。


 たまに夕が知っている動物と似た動物もいたが、そういうものは必ずどこかしらに相違点がある。元いた世界と同一の動植物は見渡す限り見受けられない。


「行くか」


 まだ見ぬ新天地、一般常識から相違する異世界での新しい暮らしに期待を込め、夕はそう意気込んで歩みを進めた。




@@@




 塔から見えていた通り、森と国の間の距離は割と近くにあり、歩いて数十分ほどでたどり着いた。

 入国するため関門を通るときに門番と一悶着あったが、遠い街から来た旅人だと言えば簡単に入らせてもらった。


「しかし、言葉が通じることには驚いたな」


 入国の際にわかったことだが、どうやらこの世界でも言葉は通じるらしい。

 別に、この世界で日本語が普及しているというわけではない。使われている言語は全くもって異なっている。


 あの魔法陣の効果なのか何なのかは分からないが、なぜかお互いの言っていることや書かれている言葉の意味が "解る" のだ。


 この世界の言語が使いこなせるのではなく、その言葉の意味だけが脳内に滑り込んでくる感覚、といえばいいのだろうか。


 その感覚に初めは違和感があったが、そのうちその感覚にも慣れてきて、会話程度ならスムーズにできるようになっていた。


「まあ何にせよだ。まずは情報を集めなければなるまい」


 ということでまず、夕は街を回りながら、暇そうな人にいろいろと聞き回ることにした。

 丁寧に教えてくれる人や、面倒くさそうに突っぱねる人など多種多様であったが、教えてくれた多くの人は「それなら『ラーヴェ』を尋ねると良い」と言っていた。


(あかね)……?」


 あまりイメージのわかない単語を聞いて、夕は首を傾げる。


「人王国の総合ギルドさ。そこなら色々なことを教えてくれるよ」


 そこで聞いたことのある単語が出てきて、夕はかるく納得した。


 ギルド。

 ゲームやファンタジー小説でたびたび出てくる言葉だが、日本語に言い換えればいわゆる同業者組合である。


 聞くところによると、どうやらもともとは業種によって多様なギルドがあったそうだが、その昔に統合されたらしく、現在は『総合ギルド』という通称で世界各地に点在しているらしい。


 総合ギルドと言うくらいなのだから、冒険者ギルドのような機能があってもおかしくはないだろう。もしそれなら、確かに情報収集にはうってつけだ。


 そんなわけで、夕は現在、その『茜』と呼ばれる支部へ向かっている。


『茜』の建物は、街の北東に位置する商業区の一角に置かれていた。石で積み上げられた大きな建物だ。素朴ながら確かな威圧感を放っている建物だった。


 木製の扉を開き、中へと入場する。

 広い半円型の広間だった。机やら椅子やらがまばらに設置されていて、ドアの反対側、夕から見て正面には受付の立つカウンターが設置されている。


 設置された椅子に座っていたり、立って雑談を交わしているのがいわゆる冒険家らしい。それぞれ多種多様で特徴的な装備を抱え、お互いに情報交換をしているようだった。


「おう、あんちゃん。見たところそう何度も死線をくぐったようなクチじゃあねえようだが、冒険家志望かい?」


 呆然と立っていると、灰色の鎧を見に纏った中年男性がそう声をかけてきた。

 夕は当たり障りのない言葉で言葉を返す。


「いや、違う。俺はこの国に来たばかりの世間知らずでな」


「はーん」


 夕の抑揚のない台詞を聞いた男は気の抜けた返事をし、たばこらしきものに何やら不思議な道具で火をつけた。

 道具が気になった夕はそれを質問する。


「それは?」


「ん? 別にどうってこたぁねえだろ、普通に魔法器だよ。それがどうかしたのか?」


「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」


「そうか?」


 かちかちと、火をつけたり消したりしながら男は受け応えた。

 すると彼は突然「そうだ」と言い出し、夕の方に身を乗り出して言った。


「あんちゃん、そのそぶりを見てる感じじゃあ、ここに来るのは初めてだろう。なんなら俺が話し相手になってやろうか?」


「そうか? それは助かるが」


「おう。ならほら、そこ座れよ。色々教えてやっからよ」


 そう言って彼は近くの椅子に座るよう促してくる。

 夕がうなずいて椅子に座ると、男は二カリと笑いながら話し始めた。


「んじゃ、何から話そうか」


「そうだな。まずは……」


 夕が話を切り出すと、男は気前よく説明を始めてくれた。

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