黒き心は闇を描く〜第四章〜
アレイヴは教卓に立ち、ため息ながらにこう言った。
「…ったく、今日は"課外授業"があるというのに…」
「課外授業?」
教室の皆が声を合わせた。
アレイヴはやっとまともな話が出来るから嬉しいのか、少し口角を上げてこう言った。
「今日はな…皆の力を付ける為に、迷いの森へ課外授業に行ってもらう!」
教室がざわめいた。
迷いの森とは、暗黒学園から西の方向にある森の事で、道が曲がりくねっていて迷いやすく、行方不明者が多発している。
迷いの森には、行方不明者の死体が沢山転がっているという噂もある。
「…知っている奴もいると思うが、最近迷いの森の魔物達が凶暴化しているそうだ。その魔物達を狩ってほしい…」
そう言ってアレイヴが話を続けようとすると、ソードが横から口を挟んだ。
「嫌だと言ったら?」
「嫌…って、課外授業は全員参加だからお前も参加しろ!」
アレイヴはソードに向かってそう言うと、気を取り直して話を続けた。
「言っておくが………迷いの森で魔物に殺されても知らないぞ?」
そう言うと、アレイヴはニイッと笑った。
教室が再びざわめいた。
皆不安そうな顔で課外授業の話をしている。
………一部の者達を除いては。
ソードは未だに口角を上げているアレイヴに、真顔でこう言った。
「それ、怖くないから。逆にシケる。」
「そんな事言うんだったらお前もやれ!」
「んー…分かった。」
ソードはアレイヴにニコリと微笑みかけた。
「寒気がする…」
「な?」
アレイヴはしばらく顔を青くしていたのだが、その場の状況に気付き、バン!と教卓を強く手で叩いた。
「とにかく!今から課外授業に行くぞ!」
「えー、やだー。」
「ダダをこねるな!キャルがSだったら、優等生らしく大人しくしておけ!」
「せんせぇー、キャルによる差別はいけないと思いますー」
「差別とこの話を結び付けるな!」
アレイヴはソードの手を無理やり掴んで引っ張り、他の生徒はそれに付いていった。
暗黒学園を出て早30分。
ヴェーレ達は、どんよりとした陰気な森の前に来ていた。
今にも幽霊やゾンビが出て来そうな雰囲気だ…
ヴェーレはその森を見て小さく呟いた。
「これが迷いの森か…」
すると、アレイヴが顔に冷や汗を流しながらこう言った。
「ど…どうだ!怖いだろ!も…もう怖じ気づいたのかっ…!?」
「怖じ気づいてるのはテメーの方だよ。」
ソードがアレイヴを見てそう言った。
アレイヴはハンカチで顔の汗を拭くと、今度は大声でこう叫んだ。
「今から狩りを始めろ!ペアで狩るか個人で狩るかは自由だ!では、行ってこい!!!」
アレイヴがそう叫ぶと、生徒達は四方に散って行った。
ヴェーレは1人で魔物を狩るつもりだったので、誰もいない道を選んだ。
…多くの生徒達が狩りに行く中、ソードとアレイヴだけがその場に残っていた。
「…なぁ、アレイヴ。」
「な…何だ?」
「どうしてお前は狩りに行かないんだよ」
「ま…魔物が怖いから………って、お前もさっさと行け!」
ソードは
「はいはい」と言うと、森の奥に姿を消した。
…その頃、ヴェーレは迷いの森の奥でペイルストを構え、敵の出現を待っていた。
「……………」
静かに目を閉じて辺りの様子を感じ取る。
敵はどこにいるのか………ん?北の方から何かの気配がする。
ヴェーレは神経をより一層鋭くさせ、ペイルストを強く握った。
どんどんその気配が近付いてくる。
「…来た!」
気配がすぐ側まで来ると、ヴェーレは目をカッと開き、ペイルストを振った。
その気配が何なのかも知らずに…
ペイルストは殺人能力が高い。鎌は小降りだが、人間の首なら簡単に切り落とせてしまえる。硬い皮膚を持つ、魔物の肌にさえ傷を付ける事が出来るのだ。
…だが、ペイルストの鎌はガキィッという音を立て、空中で静止してしまった。
何があったのかとペイルストの鎌の方を見ると、そこには片手でペイルストの鎌を掴んだソードがいた。
…よく見ると、手から赤い血が流れている。
ヴェーレは思わずペイルストを落とし、尻餅を付いてしまった。
そして、ソードを指差してこう言った。
「お…お前…何やってんだ!」
「それはどう見てもこっちのセリフだろ。お前こそ何やってるんだ」
「自分でも何をやっているのか分からなかった…」
「は…?」
今、普通の者ならば、ヴェーレが魔物と勘違いして、ソードに攻撃したと考えるだろう。
…だが、ヴェーレは頭が悪い為、その場の判断が出来なかったのであった。
ソードはその事を察知したのか、ため息を付いてこう言った。
「…良いか?狩るのは"魔物"だけだぞ。俺を狩るな俺を。後、俺についてこい。お前だったら魔物を狩るんじゃなくて、森林伐採しそうだ」
「森羅…万象?」
「どこからそんな言葉が出た。森しか合ってねーだろ。」
「森さん…?」
「…もう森さんでも林さんでも良いからついてこい」
ヴェーレはとにかくソードについて行く事にした。
その後大変な事になるとも知らずに…
迷いの森を2人で進んで行く。
ソードは変な道を選んで歩くので、ついて行くのがしんどかった。
今思えば…ついさっき、断崖絶壁を登っていたような気がしたのだが…
そして…断崖絶壁を登った後、南国の海の波打ち際で、ビーチバレーをしたような気もするのだが…
…明らかに断崖絶壁に着いた後スグに、南国の波打ち際まで瞬間移動するのはおかしいと思う。
それ以前に迷いの森を歩いていて、断崖絶壁を登るハメになるのはもっとおかしいと思う。
…だが、今は普通に迷いの森の道を歩いているし、ヴェーレの頭がヒドく悪かったので、ヴェーレはソードの方向音痴などは全く気にしなかった。
ただ、行く先々で景色がコロコロ変わるのだけは気になっていたようだ。
…ふと、ソードが足を止めた。
それにつられてヴェーレも足を止める。
ソードは一体どうしたのか…
ヴェーレはその事を疑問に思っていたのだが、少し時間が経つと、ソードが立ち止まった意味を理解した。
ヴェーレは頭は悪いのだが、野生の感は鋭いのである。
何故、ソードとヴェーレが立ち止まったのかと言うと………少し前方に魔物の群れがいたからだ…
普通の者なら恐れをなして逃げるのだが、ソードとヴェーレは逆に魔物の群れに近寄って行った。
…無茶な事に、2人で魔物の群れを………いや、1人で魔物の群れを全滅させようとしているのだ。
ヴェーレ(ソード)の眼中にソード(ヴェーレ)は映っていなかった…
ヴェーレは早速ペイルストを取り出すと、それを魔物達に向けて振り回し始めた。
魔物がヴェーレの存在に気付き、攻撃を仕掛けようとヴェーレに近付く。
…ヴェーレはその魔物達をペイルストで薙払っていった。
魔物の断末魔の悲鳴と、体に降りかかる大量の返り血。
ヴェーレは大きな幸福感に浸っていた。
元々、死神は命を大事にして、殺し合いを好んではいけないのだが、ヴェーレはある理由から猟奇的な性格になっていたのだ…
それが為、死に神界を追放された。
ヴェーレはそんな事あまり気にしてないのだが…
…戦いの最中、チラリとソードを見る。ソードはどんな武器で攻撃しているのかと思っていると、ソードはどこからか吹き矢を取り出した。
いくら何でもそれは不利過ぎるだろ…あのパズーカ砲を使えば良いのに…
最初はそう思っていたのだが、ソードの攻撃の仕方を見て、その考えが変わっていった。
吹き矢で遠距離攻撃をしながら…片手に持ったナイフで近距離の魔物を攻撃している!?
ソードは右手に吹き矢を持ち、左手にナイフを持っていた。
近距離の魔物も遠距離の魔物も攻撃出来る。
だが…
魔物の群れを全滅させた後、ヴェーレはソードに近寄り、気になっていた事を告げた。
「なぁ…その攻撃の仕方、戦いにくくないのか?」
片手に違う武器を持ちながら戦うなんて、そんな芸当自分には到底出来なさそうだ。
「戦いにくいって言われちゃあ、戦いにくいけど…何か個性的だし。」
「個性的って…吹き矢の他に武器とか持ってないのか?」
すると、ソードは自分の身長程ある高さのモリを取り出した。
ヴェーレは目を丸くして、モリを見つめる。
「お前…漁師だったのか!?」
「漁師じゃないけど…モリ持ってる漁師もいるよな」
ヴェーレはソードのその発言で、ソード=漁師という勘違いをして、こんな事をソードに聞いた。
「漁師って事は…毎日クラーケンを採っているのか!?」
「…は?どこの国の漁師が毎日クラーケン採ってるんだよ。お前死ねよ。」
…その頃、迷いの森の入り口付近では、もう大抵の生徒達が狩りから帰って来ていた。
アレイヴはソワソワしながら辺りを見回す。
他の生徒達は皆帰って来ているのに、ソードとヴェーレだけは帰って来ていない。
よりによって問題児である、あの2人が…
アレイヴが思考を巡らしていると、急にクラッシュに声をかけられた。
「ねぇ…」
「何だ!?俺は今忙し…」
「ヴェーレとソードが道に迷っている…気がする」
「……………」
暗黒学園では、別に生徒を見殺しにしたり、放置したりしても罰せられない。
だが、アレイヴには少し人間くさい所があったので、2人の事が心配になった。
アレイヴは2人を探す為に、迷いの森の奥に消えて行った。
「アレイヴ…次に不幸な目に遭うよ…」
クラッシュの言葉を聞かずに…
…その頃、ソードとヴェーレは、宛もなく迷いの森を歩いていた。
無事にこの森から出る事は出来るのか…
2人がそう思っていると…
「ぎゃあああぁぁ!」
急に近くでつんざくような悲鳴がした。
…何が起こっているのかは分からないが、取りあえず人がいる事は確かなので、2人は悲鳴の聞こえた場所に行ってみる事にした…
悲鳴が聞こえた現場に直行する。
そこで2人が見たものとは…
「お…お前ら…何やってたんだ…」
「そんな状況になっているアレイヴが言うなよ…」
そこには、危険人食植物の口に、頭から下をすっぽり入れられたアレイヴがいた。
アレイヴの頭からは少量の出血が見えた。あの危険人食植物の口に鋭い牙があるからだろうか…
何にせよ、早く助け出さないとアレイヴは間違いなく死ぬだろう。
「迷いの森を歩いていると急にコイツと遭遇して…これは…ドッキリなのか?」
「どう見ても自分から口の中に入って、人食植物と戯れているようにしか見えねーよ。」
何故かと言うと、人食植物は口を開けたまま動いていなかったからだ。
アレイヴは小さな声で2人にこう言った。
「た…助けてくれないか?」
だがソードは…
「そこで死に絶えろ。」
そう言ってどこかに去って行った。
「前者に同意。」
ヴェーレも、そう言ってどこかに去って行った。
「待て!俺を見捨てるなあああぁぁ!」
アレイヴはその後、全治一週間の怪我を負ったとか。
終了.