第98話 三商会議
あの事件の後、俺達は無事にヘルメスに帰還した。
生け贄の為に王都へ集められた人々は、クロースさんの尽力により街で保護される運びとなり、息子である現デナーリスはヘルメスの兵に捕らえられたと噂を耳にした。
結果、クロースさんが再びデナーリス商会を背負う事になって、大変な騒ぎとなった。
俺達はギルドマスターに直接会い、クエストや灼熱の虎について報告した後、お詫びも兼ねて多少上乗せされた報酬を受け取ると、無事ランクアップも済ませた。
その後は、慣れない護衛任務と予想外の事件で疲れきった身体を癒やす為、暫く休暇を取る事にした。
念願のCランクへのランクアップは、もう少し喜ばしいものを想像していたが、パンドラさんの落ち込みが思った以上に酷く、打ち上げは行わなかった。
そんな何とも言い難い状態の中、俺達はある日クロースさんの要望で、ある会議に呼ばれた。
それはこのヘルメスにおいて、最大の権力者達が集まる三商会議だ。
クロースさんは今回の事態を重く受け止め、今後の対策を協議する必要があるとし、他の重役達へ話をして欲しいという事だった。
勿論、他のメンバーと何故かダンジョンで出会ったライチも一緒だ。
ちなみに、あれからライチは目が不自由で身寄りが無いのもあり、俺達が面倒を見ていた。
コンコン
「失礼します」
ここはヘルメス教会の最上階。
扉を開けて中に入ると、高級感ある円卓の机に、街の重役達が座っていた。
一番奥の三席は、一際豪華なのでそこに座る者が三商なのだろう。
「おお!! よく来てくれた」
クロースさんが立ち上がり、俺達を迎え入れてからすぐに会議が始まった。
さすが商人、時間が貴重なのをよく知っている。
用意された椅子に座り、今まであった事を説明した。
勿論、戦闘時における能力などは秘密にしたが、転生から今に至るまで知り得た事を一通り話す。
『転生者!?』『人魔!?』とキーワードが出るたびにざわつくが、三商人を見てすぐに静かになる。
「そうでしたか……大変な旅でしたね」
優しく話しかけたのは、マリーアさんだ。
マリーアさんが獣人代表の三商人の一人だったのには驚いた。
後から聞いた話だが、今は商業は他の者に任せ、教会の運営が主な仕事なのだとか。
三商人の椅子に座る最後の魔族は、顔を薄い布で隠しこちらをじっと見詰めている。
(若干ぷるぷる震えているけど、年寄り特有のあの謎のぷるぷるなのか??)
「ラ、ライチ様!!」
次の瞬間、ガタッと椅子を倒す勢いで立ち上がり、膝の上から降りないライチの前までやって来て、片膝を付き頭を下げた。
顔の布を取り払うと、インテリ風なキツイ目をした美人さんが現れた。
いきなり感動の再開シーンが展開されたが、掻い摘んで話すと、ライチが前に言っていた魔王の一角であったのは本当の事だったようだ。
この三商人の魔族は数少ない家臣であり、ライチを追って探し回っていたらしい。
何年も何年も探し回ったが見つからず、行商しながら情報を集めたが見つからなかった。
そして、何の縁なのか他の三商人と出会い、情報を集める為の街作りに協力する事となったらしい。
あまりに長く壮大なストーリーではあったが、目の前で真面目顔の知的な女性がボロボロと泣き崩れているのは、見ていられない。
「ディアンナ……ご苦労だった。だが……主人が困っておる。今は会議……」
「主人じゃない!!」
誤解を生むのは避けたいので、迅速に訂正しておく。
「ぽ……すまぬ。ご主人様……だな」
(やめろぉおおおおお!!)
ガーン!! と聞こえるぐらいのショックな顔の後、殺されるような尖った目で睨まれる。
「ご、誤解ーー」
「ん゛ん゛!! 感動の再開はそれまでにしてくれ!! 今はそれよりも各国への対応を考えねばならん。ディアンナ席に戻れ」
ライチをチラチラ見ながらも、命令されたのもあり渋々席に戻っていった。
そして会議が本格的に始まった。
直近の問題は、人族側が勇者召喚の妨害に成功したとはいえ、各国に戦争を起こそうとしている事、また、魔物を統括し国を滅ぼそうとしている第四勢力が現れた事。
そして、次に問題なのが、魂魄の限界を迎えこのアデナの寿命が迫って来ているという事だ。
俺はこのヘルメスがどう動くのか、それを知りたかったのもあり、この会議に参加したのだ。
「我ら三商人はこのヘルメスを作る際、商売以外にそれぞれの志があった。一人は世界中の商品を扱う場所を、一人は世界中の情報を集める場所を、一人は世界中の居場所の無い者が住める場所をとな」
クロースさんは続ける。
「生半可な事では無かった。各国の工作員による妨害工作や嫌がらせは日常茶飯事、この場所は過去の大戦でも重要な位置にあり、どの国も喉から手が出る程手に入れたかったからだ。巫女様の手助けもあり、何とか少しづつ大きくなった今も、変わらず我らヘルメスは各国の調律を担って行かねばならん。それがあの方との約束でもあるからだ」
つまり、中立的な立場でやれる事をやっていこうという事か。
まず女神アストレイアの指示で人族軍が獣人族か魔族を攻めるなら、必ずこのヘルメスを攻めると仮定し、抑止力としての援軍の要請に協力を仰ぎ、それらを持って人族に戦争を止める様に交渉するようだ。
また、それとは別に魂魄消耗の原因となり得る情報や妨害については、各国にいる諜報員らに当たらせ、更に、会議に参加していたギルマスのガイアさんも、それに関しては情報共有の協力を約束してくれた。
そして、俺達はーー
「エントくん。君は使徒だ。あまつさえこのアデナの危機を知らせてくれた神の使徒である君に、こちらで指示して行動を縛るのは、この先良いようには思えない。ならば、決められた使命があるのならそれに殉じて貰えばそれで良い」
ガサ
左ポケットに手紙が届いたようだ。
手紙には二神から短くこう書かれていた。
『エントの思うままに』
皆が俺に注目を集める中、少し考えてから俺は自分で決めたんだ。
「こんな状況だけど、私はもっと世界を見たい。そして、兄さんを止める力と考えを持たねばなりません。私の遣える神様は私の思うままに行動せよと言ってくれました。だから俺はーー」




