第97話 震えるハルバート
ガウルを倒した後、俺とパンドラさんは急いで援護に向かった。
パンドラさんはやはり、少し動揺している様子はあったが、彼女の瞳を見れば問題ないとそう思った。
「うひょぉおおお!!」
俺達が急ぎ現場に到着してみれば、うひょが蔓をいくつも出し、ラウとミスティを上手く翻弄し相手どっていた。
(さすが、うひょ!!)
その近くでは激しい金属音が鳴り続き、ナナとニックがナイフとナイフをぶつけ合い、攻防を繰りかえしているのが見える。
「私は私兵を、パンドラさんはラウをお願いします!!」
彼女は得物を強く握り締め、静かに頷いた。
《ナナはあれを使え!! デュラハンは俺とチェンジして魔法使いを、うひょはパンドラさんとエルフを頼む》
木霊で指示を出し、俺はデュラハンが抑え込んでいた私兵達の前に立つ。
その数は、およそ百。
「お前達!! 自分達がやっている事が分かっているのか!? 前デナーリス様の暗殺に加担すれば、重刑は免れないんだぞ!?」
もしかしたら、知らずに命じられただけの者がいるかも知れない。
そう思って俺は大声で警告を続けた。
「前デナーリス様より言われている。この場で投降する者は処罰を与えないと!!」
しかし、誰一人として動く者はおらず、それどころかにたにたと嘲笑する者がほとんどだ。
俺は重くはぁっと息を吐き終えると、戦闘は避けられないと身構えた。
すると、私兵達の中から私兵長が現れる。
「もう、クロースの時代は終わったのだ。我らは現デナーリス様の私兵である!! この計画が成功した暁には、過分なる報酬が約束されている!! 全員、一人残らず奴等を殺せ!!」
どいつもこいつも金に目が眩み、人を辞めたようだ。
小僧一人相手に、集団で塊のように突撃してくる。
「魂に帰り、悔改めろ!!」
木属性魔法【グロウランス】
本来この魔法は、『ファイアランス』などの殺傷能力の高い魔法と同位同類の魔法ではあるが、木属性で作られる木の槍では全身鋼に身を包む私兵相手には、まるで効果のない最も相性の悪い魔法と言えた。
だがここは林の中、この最弱とも呼べる魔法が本来の力を発揮出来る場所でもある。
一対多数のこの状況、本来ゴブリンの巣で使った様に【地獄剣山】を使えば目の前の敵は殺れるだろう。
だが、ヒスイから学んだ【地獄剣山】は殺傷力を上げる事を主軸にした技であり、圧倒的な数の植物の尖端を魔力を用いて鋼の様に強化する為、自分を中心とした広範囲でしか制御出来ない。
つまり、周りに仲間がいる状況下において、制御出来ない技など使える訳がないのだ。
俺はそれらを踏まえ、この魔法を選んだ。
他属性のランス系魔法と違い、俺の右手に木の槍が出る訳では無い。
勿論出そうと思えば出せるが、無意味な事はしない。
俺が魔力を練り上げると、周りの木々の枝が尖り、あらゆる木の槍が数多の数で彼等を襲う。
ドスドスドスドスドスドス!!
「き、木を操るだと!? 貴様は魔物だったのか!?」
俺は気にせず魔法を展開し続ける。
ドスドスドスドスドスドス!!
彼等に直接ダメージは僅かしかなかったが、まるで木の檻にでも閉じ込められたような彼等は、糸の切れた人形の様に身動きが取れない。
「な!? こ、これは!!」
そう、はじめからこれが狙いだ。
重装備は高い防御力を有してはいるが、どうしても動きが遅くなる。
【グロウ】
念の為、地面から根を生やし手足を縛りつけていく。
「ぐ、は、離せ!!」
あちこちで藻掻き喘いでいるが、俺は気にせずに右手から更に魔法を発生させた。
【ファイアボール】
「な!? や、やめろ!!!!」
俺の右手に浮かび上がる火の玉を見て、彼等は所々で悲鳴を上げた。
「なぁ、一度でも俺達に投降すれば助けるなんて言ったか?? ーーいや、言っていない。もう俺は人を辞めた者に容赦はしない……」
そう言って躊躇いも無く火球を放ち、仲間の元へ戻った。
もちろん、山火事など起きないように木の繋ぎ目は魔法で切り離してあるので問題ない……はず。
俺が仲間の元に戻った時には、ナナは今まで隠していた雷魔法を行使したのか、丸焦げになったニックの亡骸をツンツンしていたし、デュラハンは魔法使いのミスティを身体ごと地面に剣を突き刺し、丁度戦闘は終わったところだった。
「が……い……嫌……死にたく……」
《愚かな。殺す覚悟はあっても、死ぬ覚悟はないとは……》
胸を貫いた剣を引き抜き、そのまま一文字に振り抜き、首を切り飛ばした。
残るはうひょとパンドラさんペアだが、こちらも最後の局面へと向かっていた。
「うひょ!! うひょひょひょ!!」
ラウの矢が尽き短剣での戦闘に臨んだようだったが、うひょの蔓に手足を絡めとられ、遂に立て膝状態にされた。
ラウの前にハルバートを構え、最後のトドメをと振りかぶるパンドラさん。
その手は相変わらず震え、目には宝石のような雫が今にも溢れそうだった。
「パンドラ……大きくなったな」
ラウは目を細め、彼女を見上げて語り出す。
「私はエルフ。人族とはいえ長寿な種族の私は、沢山の人々を見て来た。それが私の目的でもあったからだ。山に引き篭もる事が基本的な考えを持つエルフだが、私は世に出て多くを観察する事を選んだ」
パンドラさんが、ラウの話に耳を傾け始めたのに気付き、俺は静かに様子を伺う。
「沢山の出会いと別れを繰り返した中、ガウル達に出会った。彼等は表と裏の顔を器用に使い分け、時に紳士的に、時に残虐的な行動を取り始めた。観察者の私はそんな彼等に興味を抱いた。私は彼等を観察対象に決め、共に行動したのだが……それもここまでのようだ」
儚げに下を向き、作り物の様な顔を悲しみに歪ませた。
だが次の瞬間、必死な表情で顔を上げ懇願する。
「ーーただ!! 私は故郷に戻り、見て来た事を伝える使命が残っている!! その後なら幾らでも罰に報いよう!! だから、処分するのは、もう少し待って貰えないだろうか!? パンドラ!! 頼む!!」
震えるハルバート、零れ落ちる宝石、荒々しく乱れる呼吸音が静まる空気に響き渡る。
「はぁ!! はぁ!! はぁ!!」
(やはり……駄目か)
「うひょ??」
うひょが『どうするの?』と首を傾げたその瞬間。
ラウは手にしていたナイフを、手首だけでパンドラに投げ放つと、その隙に何かを地面に叩き付けた。
凄まじい勢いで真っ白な煙が舞い上がり、俺達の視界を遮る。
「あ!!」
《逃したか!?》
慌てるパンドラとデュラハンの声が聞こえたが、既に山彦を使いラウの場所を確認している。
が、問題は無い。
「大丈夫」
次第に白煙が晴れて行き、遠くからこちらにゆっくりと人影が徐々に濃くなり現れる。
そこには、いつものようにニコニコと笑うナナがいた。
ただ、いつもと違うのは右手に握りしめた長い髪の毛とーー
悲痛に歪むラウの生首だった。




