第95話 歯には歯を
カツーンカツーンと廊下に響く。
「ん゛ーー!!」
俺は眠っていたベルブ郷を捕縛し、今はある場所へ向かっている。
そして、領主の館の地下室に到着した。
木属性魔法を使い、鍵代わりに植物を生やして鉄の柵を開けると、奥に部屋が見えた。
人神アストレイアや使徒に木属性魔法を使った今、自重する理由もあまり無い。
「可哀想に……」
俺はその部屋のあちこちに並べられた首をじっと眺めた。
そこには老若男女の首が全て悲痛な顔を浮かべ、腐らないようになのかよく分からない液体と一緒に瓶詰めにされていた。
彼を地面に放り投げると、口に結んだ縄を解く。
「貴様ぁああああ!! 俺を誰だか知っての狼藉か!! 磔の型にしてやるぞ!!」
俺は面を取り、しゃがんで彼の瞳を覗き込んで問う。
「俺が分かるか??」
「き、貴様はデナーリスの護衛にいた……」
「はぁ……底辺ドブネズミと言えば分かるか??」
阿呆な顔で、信じられないと言わんばかりの顔に変わり、思考を巡らしている様子。
ようやく過去取り逃がした少年が、司教を殺害した犯人であり、今自分の目の前にいるのだと理解したようだった。
「そんな馬鹿な!! あの時の少年は取り逃がしたが、魔素欠乏症だった!! 生きていられるはずが無いではないか!!」
「お前に説明する必要もない。お前は今から死ぬのだからな……」
「ふ、ふざけるな!! 今このロープを解けば、私の慈悲で痛みの少ない死刑にしてやる!! 早く解かんかぁ!!!!」
呆れて言葉が出ない。
俺は近寄り背中で両腕を結んだロープに手を伸ばした。
「クックック、それで良い。私は選ばれし高貴な血を引く者!! 下等な者はただ我々の命令に従えば良いのだ!! それが世の常、お前らドブネズミにとっては普通の事だ。ふはははは!!」
ズキ!!
どこでも同じだ。
どこに行っても、自分の普通を押し付けて来る奴がいる。
「何をぶつくさ言っておる!! 早く解けこのドブネズミが!!」
「お前の普通は誰が決めた??」
俺は奴の太腿にナイフを突き刺した。
「ぎゃあああああああ!!」
目の前で血を撒き散らしながら転げ周るので、そこら中が赤く汚れていく。
「何故人が人を殺してはいけないか、考えた事はあるか??」
痛い痛いとハエのようにうるさいので、次は腕を刺した。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「ちゃんと聞けよ。なぁ?」
「ひぃ!! こ、答えるから刺さすな!!」
そして、汚い脂汗をかきながら彼は答えたのだ、『そんな事は考えた事がない』と。
それを聞いて、俺は滅多刺しに体中を刺しまくった。
断末魔の叫び声が続いたが、それも時間と伴に小さくなった。
【ウォーターヒール】
痛みで気絶した男を起こすと、涙やよだれを顔から垂れ流し、慈悲をこいだした。
「許して、もう許してぐれ゛」
「……なら、取り引きをしようかベルブ卿」
助かもしれないと知ると、彼の目に生気が戻るのが分かる。
こうやって弱った者で散々遊んで来たのかと思うと、今すぐ殺したくなる。
俺は左ポケットからある物を取り出し、髪の毛を鷲掴みにして彼に無理やり飲ませた。
「ゲホゲホ!! な、何を!?」
「ゲームと言っただろう?? そうだな……」
俺はにやりと笑みを浮かべ、こう言った。
「自分で左目をくり抜いて、俺に捧げろ」
◆
「兄さん遅い!! もう街を出る時間ギリギリだよ!?」
俺が用事を済ませて戻ると、二人は準備を先に済ませて待っていた。
ぷんぷんほっぺたを膨らませながらナナは腕を引っ張り、移動する待ち合わせへと向かい、もう一人は箱の穴から見える目が合ったが、何も聞いては来なかった。
「主よ……遅いのだ」
ライチは馬車の近くの切り株に座り、俺達を待っていたようだ。
俺はライチを抱えガウルさん達と最終確認の為に合流した。
それらを済ませ、いよいよ出発となったが、一つ心配だったのは、デナーリスさんが体調を崩して今は馬車で休んでいると言う事だ。
昨夜は高齢の身でありながら、長距離を歩いたからだと誰かが噂話をしていた。
指揮は私兵長が取り、昨日と同じ隊列で進む事になった。
俺達がセピアを出る頃、町から激しい鐘の音が鳴り響いた。
カラーン!! カラーン!!
すぐ何事だと多くの人々はざわついたが、街に受け入れて貰えなかった人々はすぐに興味を無くし、自分達の進む道に目を戻した。
後に、冒険者ギルドで耳にした事だが、セピア領主の息子が何者かに襲われたと聞く。
彼は両手両足に舌を切り取られただけではなく、両目もえぐりとられており、更には、すぐに回復魔法を使われた事で、もう元には戻らないとの事だ。
閑話休題
残り後半日の場所まで来た。
セピアを出てから谷の道に入った時から、来る時と同じように何者かが付いて来た。
少し休暇を取ると兵士長から通達があり、警戒しつつ腰をおろした。
「ナナどうだ??」
気配察知で周囲を探って貰うと、どうやら人数が増えていると言う。
俺も山彦を使い、詳細を把握する。
「そろそろか……」
「ヘルメスから援軍が来たぞぉおお!!」
タイミング良く、デナーリスの私兵隊が向こう側からやって来た。
人々はようやく安堵の息を吐いた。
その時だった。
突然デナーリスの馬車に目掛けて、次々と弓や魔法が放たれた。
そして近くにいた者までも。
【ファイアストーム】
目の前の馬車は炎に焼かれ、焼け崩れていく。
「な、何をしているんだ!?」
人々の中で誰かが叫んだ。
「何って言われてもなぁ?? 依頼だよ依頼。現デナーリス様からのな!!」
叫んだ男は、顔面を殴られて吹き飛ばされたのを、俺は慌てて受け止め、回復魔法で治療してやる。
「ようエント。驚いただろ?? がはははは!!」
彼の後ろには兵士達が並び、面白そうに俺達に笑みを浮かべた。
「えぇ、全くですよ……」
この目で見るまでは、信じれなかった。
俺はその男を睨み付け、悲痛な気持ちでこう叫ぶ。
「ガウルさん!!」




