第94話 本当の事
「それは……それは魔物以外を滅ぼすと言う事!?」
「そうだね……事はもう少ししてからにはなる。が、ほぼ駆除する事になるだろう。ただ魔物側から希望があった場合、例外に飼う事を認める予定だ。その子もエントやナナが希望すれば大丈夫なようにするよ」
彼がパンドラさんを見ると、彼女は震え上がって俺の背に隠れた。
「……兄さん。兄さんの言っている事は、何だか違う!!」
だが、何がどう違うのかを、俺は答えを持ってはいなかった。
「エント、私も考えて考えて考え尽して来た。だが、もうこの世界の寿命は神々の勝手な理由で消耗され続け、今にも壊れそうだ。人族、魔族、獣人族がいる限り戦いは終わらず、そして、このままでは決着はつかぬまま世界は終わってしまうだろう。ならば、神を殺すか人々を滅ぼすしかない。私も本当は、あの森で静かに家族と暮らしたい。だが、もう時間がない」
「だからってーー」
「お前は知っているのかい? ヒスイは人によって妹と引き裂かれ、キラは最愛の伴侶を殺され、クインやヒメは故郷を奪われ、アラ子は人に騙され飼われた。父さんも同族を殺され、そして、私はーー母を、母を殺された。私達は何もしていないのに……だ」
中には初めて知った内容もあったが、兄弟達の悲劇とも言える悲しい過去に、何も言えなくなった。
「……もちろんこれは、私が私自身で考え決めた事だ。人と魔の間にいるエントからすれば、もしかしたら許せない事なのかも知れないね。父さんもまた違う考えだし、それはおかしな事ではない。ただ、私はそうすると決めた。待っていても何も変わらない。助けてくれる神もいない。なら、せめて私が魔物を……世界を救うよ」
兄さんが消えたと思ったら、俺の目の前に現れ、優しく肩に手を乗せた。
「エント、私がこれからやろうとしている事に、もし共感してくれるのなら歓迎する。でも違う道を探して、君の信じる道を進むのも良い。ただし、覚悟と力が今の君には全く足りない。そして……万一私の前に立ち塞がる事になれば、お前を殺してでも、進む」
目の前で巻き起こる殺意の波動。
ビリビリと肌を切り裂くような殺気で、気を失いそうになる。
俺は血が出る程歯を食いしばり、ジャック兄さんから目を離さない。
「ふ……良い目をする。そうだ!! そんな弟にプレゼントだーー」
耳元で囁く話を聞き、その内容に目を見開いた。
そして、ジャック兄さんは少し寂しそうな顔で、魔物達と伴にその場を去って行くのだった。
「ジャック兄さん……」
◆
俺達はその後、デナーリスさん達とセピアで無事合流を果たし、街の外で助けた人々の炊き出しや怪我をした人に治療などを行った。
デナーリスさんが、全員街に入れて保護して貰えるように領主に説得を試みたが、王国側の制裁に恐れた領主は、脱出した人々を受け入れてはくれなかったからだ。
それどころか、誰一人として街での食糧品や必需品の購入も認めないという酷い対応で、俺達は皆一様に肩を落とした。
「クソッタレが!! テメェの所の領民もいるってのに何考えてやがんだ!!」
今にも街に殴り込みそうなガウルさんを、ニックさんやラフさんが押さえ、ミスティさんは冷たい言葉で彼にトドメを刺していた。
「ガウルさんにエント君、今後について話し合いたい」
少し痩せたように見えるデナーリスさんだが、いつものように紳士的で、眼光はさらに輝きが増して見えた。
危機的な状況下でこそ、真の器が分かるというのは、どうやら本当なのかもしれないとその時俺はそう思った。
話し合いの大まかな内容は、連れてきた人々に僅かな仮眠を取らせ、体力のあるうちにヘルメスに戻るといった内容だった。
さらに、私兵長の提案で先に馬を走らせ、ヘルメスからの救援を求める事に話はまとまった。
俺達も少し休むように言われ、少し離れた場所に焚き火を作ってパーティで夜明けを迎えた。
パチッ
火であぶられた木が弾け、音が鳴る。
「エント君……本当の事を、話してくれませんか??」
赤く燃える火が映る金色の瞳が、俺を見詰めていた。
「……本当の事?」
「誤魔化さないで下さい!! 貴方のお兄さんが魔物である事ぐらいお馬鹿な私でもわかります!! それも人化出来る程の高位の魔物。そして……あなた達はいったい何者なんですか!? まだ、言ってない事があるのでしょう!? 私は、私は信じていたのに……何も知らなかった……うぅ」
彼女は泣きだし塞ぎ込んだ。
「それはーー」
「兄さんは、あなたを思って話さなかっただけ。私達の事を知れば、少なからずあなたが危険になると判断したの。そんな兄さんの行動を責めるなら、私は貴方をユルサナイ」
ナナは殺気を放ってパンドラを睨み付けた。
(おい……なんだこの気不味い展開は!! ナナちゃん殺気!! 殺気を抑えて!?)
「ゆ、許さないですって!? 私の方こそ許さないです!!」
ドゴォ!!
パンドラさんのグーパンチが地面に突き刺さる。
周りの人々とは少し離れてはいたものの、突然の爆音に注目が集まるのを感じた。
いよいよ武器に手を掛けようとしたので、慌てて俺は立ち上がり、二人の間に進み出た。
「はぁ……分かった。ちゃんと話すから、二人伴落ち着いてくれ。ただし、パンドラさん……貴方が俺達の事を知れば、もう元の関係には戻れないかもしれません。その覚悟はあるんですね?」
場合によっては、ここでお別れになると付け足し、彼女を見た。
少し間を置いて、彼女は深く頷いた。
そして、俺は全てを話した。
転生して難病を知り、手術を受けて人から人魔になった事。
魔の森で魔王樹の子として育ち、木属性魔法を持っている事。
死神と時神の使徒として活動し、世界の終わりが近い事。
彼女は一々驚いていたが、最後には何処か納得しているようにも見えた。
「エント君が大人っぽいのも、転生者だったからなんですね」
「ペラペラ誰にでも話す内容ではないですからね」
確かに、と彼女は少し微笑んで納得したようだった。
そして、これからの事を話す。
「ジャック兄さんの言っていた事は、魔物側としても世界の為だとしても悔しいけどあながち間違っている選択とは言えない。それに死神や時神の危惧している魂魄の消耗も止まる。でも、俺は……俺はあの時、違う方法を探したいと思った。だから、その為にも世界を駆け回って沢山学び、それを成し遂げるだけの考えと力が必要だ。パンドラさん、力を貸してくれませんか??」
俺は立ち上がり、手を差し出すと彼女もそっと手を握った。
(いだだだた!!)
相変わらずの馬鹿力で手が軋みとても痛かったけれど……何故か、心はとても穏やかだった。




