表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/160

第85話 大金貨


 初日は街に近い事もあって、特に何事もなく予定より、少し早めに村に到着出来た。


 今夜はピコ村と呼ばれる小さな村で一泊し、早朝に出発だ。


 護衛の際、村で寝泊まり出来るのは運が良い方だと、ガウルさんは言う。


 冒険者の俺達も、村の空き家を借りる事になり、屋根の下で寝れるのを喜んだ。


「でも、護衛のクエストって、野宿になる事も多いんですよね??」



 パチッ



 部屋の真ん中にある囲炉裏では、時折木が燃えて音を起てる。


 灼熱メンバーと俺達は、夕飯を食べた後に暖を取りながら、会話を楽しんでいた。


「そうだ、天候が悪い場合や魔物との戦闘で、予定より遅れた場合は大概そうなるな。ま、その時は交代で見張りを置いて睡眠を取るんだが、これがまた若え頃は辛くてなぁ」


「今でも『眠みぃよ眠みぃよ』って、言ってる人は何処のどいつ??」 


「ちょ、コラ! ミスティ!! 先輩冒険者としの威厳が無くなるじゃねぇか!?」


 殆どが昔話の様なものだったけれど、中には凄く為になる話もあり、笑いの混ざる実りある話だった。


 ただ一つ気になったのは、一見、彼等は気を緩めている様にも見えたが、何処か緩み切ってはいない……そんな違和感を覚える。


 首を撚って、思い切ってその事も聞いてみた。


「くっくっく、エント。おめぇは気付くのか……」


「ふむ、Dランク冒険者でありながら、鋭き事は良き事かな」


 彼等が言うには、パーティ以外の冒険者と行動する機会も多く、交流する事もまた多い。


 そして、その中で重要な事は、どんな時も絶対に油断しないという事だと言う。


「冒険者ってのは昔と違って、だいぶん礼儀正しい仕事みたいに言う奴も中にはいるが、中身は未だに荒くれ者が多くいやがる。寝てる時に貴重品が無いだの、自分より名声があるのがむかつくからと、殺されるなんて事もある。いいか?? 他の冒険者と行動する時は、パーティ以外は信じるな。けして油断はするんじゃねぇぞ?」


 赤髪の男は、どうやらその事を教える為に、夜中に叩き起こす予定だったと後に教えてくれた。


(危ねぇ……聞いておいて良かった) 


「で、でも、冒険者同士の争いなんて、ギルドに報告はーー」


 信じられない、と言わんばかりのパンドラさんだったが……


「あはは、ギルドは冒険者同士のいざこざに関与しないからね。ましてや冒険中なら証拠なんて残らないし、皆わざわざ報告なんてしませんよ」


 ナイフを研ぎながら諭すニックさん。


「そんな……何故」


 そんな厳しい現実を知り、落ち込む彼女には悪いが、俺にとってはある程度予想していた現実とほぼ同じだった。


 人が人を襲う理由の多くは、富、名声そして金だ。


 時には色恋沙汰なんかも、あるかもしれない。


(どの世界でも、人の欲望って変わらないんだな……)


 人の醜さと冒険者の過酷さを耳にした後、唐突にガウルさんが聞いてきた。



パチッ



「そういやぁ、お前らは人を殺した事はあるのか?」


 少し重くなった空気の中、パンドラさんは下を向き、ナナは隣でうとうとしている。


「……ありません」


「そうか……じゃあ、これだけは言っておく。もし、その時が来たら迷うな。迷ったら自分か、自分の仲間が死ぬと思え。くれぐれも迷うなよ?? わかったな……」


(ガウルさんは、優しい人だ……ここまで教えてくれる人は中々いないだろう) 


 未だ経験した事のない同族殺し。


 (いや、体はもう人間とは言えないが、魂は人間……あれ?? 魂も混ざって、人間とは言えないのか??)


 などと少し混乱してしまうが、兎に角、この世界では命はとても軽く、いつそういう場面になるか分からない。


 今出来る覚悟と伴に、静かに頷き、また過去の冒険の話に華を咲かせ始めた。


 そんな時だった。



 コンコン



 ノックの音が部屋に響く。


 一瞬で緊張感の糸が張り巡り、皆の視線が扉に集まる。


「こんな夜更けに誰だぁ??」  


 こういうケースにも経験豊富なのか、ガウルさんはいつもの調子で相手に問いかける。


「夜分にすまんな。デナーリスだ。少し話したい」


「「「デナーリス様!?」」」


 予想外の人物に、慌ててニックさんが扉の隙間から本人かを確認し、すぐに扉を開けると、そこには黒いローブに身を包む、背筋の真っ直ぐな老人が立っていた。


「夜分に済まない。今はただのデナーリス……いやクロースとして来たのだ。そんなに畏まらないでおくれ」


 既に俺達は、ガウルを始め全員片膝を付き、胸に手を乗せて畏まっていた。


 俺達も慌てて場に合わせ、同じ様にポーズする。


「……ぷ。あははは!! クロース様、またですかい!? さぁこちらへ!!」


 唐突に、緊張感から反転して気さくな空気に変わり、俺達も何が何やらわからぬまま、すぐに暖がある場所へ移動して、クロースさんをさっきまでの輪に加わえて話始めた。


「クロース様は、たまにこうやって夜に遊びに来て下さるんだ!! 面白い方だろう!? がはははは」 


「誰でも……とは行かないが。はっはっは!!」


 優しい目尻でとても楽しそうに笑う老人は、朝の威厳ある雰囲気とは違い、何処か柔らかい感じがした。


「いつもお世話になっているガウル君に、今日は懐妊祝いを渡そうと思ってな」


「お、俺にですか!? で、でもどうしてそれを!?」


「私はデナーリスの名を持つ者、これくらいは当然だ。はっはっは!!」


 そう言いつつ、ローブの中から小包を取り出しガウルさんに手渡した。


 ガウルは改めて畏まり、体を震わせ少し涙目になりながら、大事そうに受け取った。


「光栄の極み……です」


 彼は小包を少し震える指で開けると、そこには鎖付きの銀で作られた、懐中時計が丁寧に仕舞われていた。


「ガウル君、子は宝だ。君の子が生まれた時、その時計を動かしなさい。君は冒険者で中々家に居られないだろうから、自分の子が生きている時を感じると良い。命と時間は、お金では買えない貴重なものだ」


 また、優しい微笑みを浮かべ、ガウルさんの肩に手を添える。


「あ゛り……ぅう」


 ガウルのグシャグシャな泣き顔を見て、周りの皆も笑って祝うのだった。


「有り難い事に、私には少し商才があった。それを磨き上げ夢を形に出来た。が、親の才能は無かったようだ……私の様にはならない様にな。はっはっは!!」


「そんな事はないのでは?? 実際、現デナーリス様も立派に運営されていると思いますが……」


 ミスティさんはガウルさんに対してとは違い、優しくフォローしたが、クロースさんは急に厳しい顔で呟く。


「あの子は駄目だ。カネに使われている」


 皆は首を傾げ、言っている意味が分からず、頭の中で冒険中だ。


「はっはっは、『一流は一流でしかない』と言い残した、エント君なら分かるかもしれないな」


(げ!? そんな事まで把握してるのかよ!?)


 なるべく失礼の無いよう自己紹介を済ませる。


「その眼帯、アラクネの布だね?? 良い冒険者は良い物を身に纏う。それは見た目や貴重さではなく、自分を活かすものと言う意味でね。君はきっと良い冒険者になるだろう」


 褒められた事が少ないせいか、ちょっぴりむず痒い気持ちと、アラ子姉さんの眼帯を見抜いた眼力はさすが、世界トップクラスの商人だと鳥肌が立った。


 そして、クロースさんは懐からゴソゴソと小さな皮袋を取り出し、一枚の大きな金貨を手の平に乗せて見せて来る。


「「「大金貨!?」」」


 俺以外(ナナは寝ている)が驚き、よだれが出そうな顔に変わると、夢中に食いつく様に見始めたので、俺も混ざって見せて貰った。


 大きな金貨には、立派な城の絵が繊細に描かれ、小さな宝石が所々に埋め込まれてとても綺麗なものだった。


 この世界の通貨で、最上級のお金である大金貨は、金貨100枚分の価値がある。


「これは大金貨と呼ばれる硬貨だ。だが、敢えて問う。皆、これは何だと思う??」


 どんな答えが返ってくるか、なぞなぞを披露する子供の様に、にこにこ顔で彼は皆の答えを待った。


 大金貨ではないなら何か、その問題に頭を撚る者、目を閉じて考えにふける者、考えを諦める者、そして……答える者もいた。


「夢だ!! 大金貨を稼ぐってのは、冒険者なら一度は夢見るだろう!?」


 ガウルの答えに、他の冒険者達もなるほどと、目を輝かせた。


「はっはっは!! ガウル君らしいと言うべきか、冒険者らしい良い答えだな」 


 クロースさんの言葉に褒められて、場がまた盛り上がる。


「この質問に、答えはない。何故なら人それぞれで答えが変わるからだ。先日、儂の息子にも同じ事を試してみたが、あの子は『力』と答えたのだ……力と」 

   

 白い眉毛が下がり、少し寂しそうな顔だなと思った。


「その後すぐに、うちに訪ねて来た白髪の隻眼の若い冒険者の話を耳にした。門前払いされたその者は『一流は一流でしかない』と捨て吐いたと聞く」 


(俺だけど、俺だけどね!? みんな、何やってんだ的な目で見ないでぇ!?)


 慌ててその件について、お詫びしたが途中で遮られる。


「いや、感謝しているのだ。私の中で現せられなかった、しこりの様な気持ちが、まさに言い当て妙だったのだから」


 怒ってはいないと聞いて、ようやく肩の力が抜けた。


「はっはっは!! さて、君も自分の答えを持っているのだろう?? 顔を見れば分かる。是非、答えて見てくれないか??」


 ドンドン!!


 その時だ。


 激しく扉が鳴ると同時に、大声がする。


「デナーリス様はおられるか!?」


「楽しいひと時はここまでか……皆、遅くに申し訳なかった。嫌でなければ、こんな老いぼれとまた遊んでくれ」


 去り際の振り返った時にはもう、厳しさのある顔に戻っていた。


「私はここにいる!!」


…………


……


 彼が部屋を出た後、明日も早い為すぐに寝る事にした。


「なぁエント……あの時、なんて答える気だったんだ??」


 余程嬉しかったのか、銀の懐中時計を眺め、寝付けないガウルさんが、ふと思い出したかの様に聞いて来た。


 あの時、ガウルさんが答えた回答はとても素敵だと思ったけれど、自分で考えて導き出した答えとは違っていた。


 そんな大した答えではなく、格好良くもなく、ただ、この世界に来て変わった俺の価値が、導き出した答え……


「それはーー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んで下さりありがとう御座います!

劣等魔族の成り上がり〜病弱なこの子の為にダンジョンで稼ぎます〜


こちらの新作も是非お楽しみ下さい!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ