第78話 手紙
気付いた時には、元の祭壇の前に立っていた。
こういう時は、夢じゃなかったのかと思う場面ではあるが、そうはならない。
何故なら、不思議なくらい身体に馴染む、死神のコートを着ていたからだ。
早速、右手のポケットに手を入れて見ると、ズブズブと何処までも入って行く。
(凄いけど、怖!!)
次に死神がお楽しみと言っていた左のポケットに手を入れる。
ガサ
「ん?」
紙の様な感触があり、取り出して見ると手紙が出て来た。
何故こんな物がと思ったが、近くの長椅子に腰掛けて内容を読む。
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私の愛すべき使徒へ
前略 お元気ですか?
私は元気です。
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「ぶ!? ゲホゲホ!!」
余りにも酷い書き出しに、唾が肺に入った。
胸の辺りが痛いのを我慢しつつ、取り敢えず読み進める。
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さて、驚いているかもしれませんが、貴方にプレゼントしたコートは、右手側がマジックポーチ、左手側がポスト(私の部屋)に繋がっています。
私も日々忙しく働いていますので、中々連絡が取れないは不憫、そこで、これからは何か伝える時には、左ポケットにお手紙を入れて置きます。
あ、因みに、育ち盛りな貴方に合わせて、コートも随時変化する代物です。
更に、夏でも冬でも最適な体感温度になる機能も付けておきました。
凄いでしょ!?
でも、褒めても何も出ませんからね??
追伸、そちらからのお手紙も送る事が可能です。
書いた後、手紙に貴方の魔力を込めて入れればオッケーです。
返信は遅れる場合がありますが、貴方からのお手紙待っています。
貴方の死神より。
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「キャラが違い過ぎだろ!?」
ガサガサ
また、お手紙が来たようだ。
確認すると、手紙が二通入っていた。
一つは真っ黒。
もう一つはピンク。
(何これ……怖い)
震える手で、先に黒い手紙を開いた。
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乙女心を勉強しないと、駄目デスよ??
次に会ったら、手足をバラバラにして、遊んであ・げ・る。
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「お許し下さい……神様」
次に会った時には、必ず許して貰えるように、全身全霊を込めて祈り、そっと読み終わった二通を、右側のポケットに仕舞った。
残ったピンク色の手紙も読む。
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私の可愛いエントへ
さっきは驚かせてごめんね。
ついつい貴方の事になると、周りが見えなくなってしまって。
えへへ。
鈍感な貴方の事だから、まだ気付いていないと思うけれど、私から貴方へプレゼントしたのは、私の瞳です。
左目を少女に捧げた貴方を見て、心が張り裂けそうになったから……
そうそう、名付けるなら【時の瞳】と呼んでくれると嬉しいな。
(頑張って考えたの!!)
時の瞳の効果は、時を止める事が可能です。
と、簡単に言いたい所なんですが、人が使うとなるとやはり、無理が掛かってしまうので、こちらで制限してあります。
最大十秒、それが上限です。
更に、使った後は一日一秒づつ貯める必要があります。
貯め方は、今のエントの魔力を全部使って足りるかどうかで、何とかエントが使える様にと、術式を加えてみたのですが……使い勝手が悪くてごめんね。
使い方は、意識してから目に魔力を集中させれば発動しますよ。
追伸、死神ちゃんが書き忘れていたけれど、左のポケットは魔力を纏えば部屋に繋がるけれど、くれぐれも手紙以外の物には触らないように。
色んな意味で言っているのだけれど、神の物に触れるとただでは済まないとだけ書き残して置きます。
頑張ってね。
私のエントへ
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(時神さんの手紙やべぇ。胸がキュンてなる)
読み終えて、アラ子姉さんが作ってくれた眼帯を外しそうになったが、少しとは言え隠密が解けてしまう為、此処ではグッと我慢して、触るだけにした。
指で左目辺りを触ってみると、懐かしい感覚と温もりがあった。
「時神様……有り難う御座います」
改めて二神に祈りを捧げ、聖塔を後にした。
塔を出て空を見ると、すでに太陽は中央を過ぎていた。
グゥ。
遅れて腹時計も鳴り、昼食をとる事にした。
良い機会だと、ヘルメスの一番外側部分へ足を進めると、徐々に市場らしき場所に出る。
散財は出来ないが、出店の屋台で食べる分くらいなら問題ないだろう。
正直、此処に来てからはオーク肉の串焼きと、ふっくら亭でしか食べた事がないので、実は少し楽しみにしていたんだ。
屋台は様々な物があり、トカゲの串焼きや凄い異臭のする果物、ファンタジーでお馴染みの黒パンなども見えた。
(うわぁ。これは当たり外れが大きそうだな……)
折角だからと試しに黒パンを買って食べてみたが、糞不味い。
外はガリガリ、中はバサバサで少し噛じっただけで、顎がおかしくなりそうだったので、右ポケットに突っ込んでおいた。
(入れるものはどうかと思うけど、早速マジックポーチが大活躍だ)
更に少し歩いて行くと、いい匂いがして来た。
よく見ると、店の中で汗をダラダラ流しながら、真剣な顔でひたすら揚げ物をしている厳つい山賊の様な男がいた。
(あれ?? あの人は……)
布を頭に巻き付けてはいるが間違いない。
「ドーン先輩こんにちわ」
「なぁ!? な、な、いや、違う!! 違うぞ!!」
目が泳ぐどころか、そこまで行くと変質者ですよ先輩。
「いやいやいや。ドーン先輩でしょ??」
(おや?? これは……)
「違うってんだろ!! 冷やかしなら帰れ!!」
(クックック……日頃の仕返しを、せねばなるまい)
「もう少しでCランクの!? ふがふが」
慌ててドーン先輩は、俺の口に唐揚げをぶち込んで来た。
「勘弁してくれよぉ。こいつなんなのぉよぉ……」
そんな困った顔のドーンさんそっちのけで、俺は固まったままだった。
何故なら、食べた唐揚げが超絶美味かったからだ。
「旨ぁああああ!! ドーン先輩!? ふがふが」
もう一つ貰えた。
(やっぱり美味い!!)
「しぃーー!! 声がデケェんだよ!!」
小声で涙目のドーン先輩だが、可愛くは無い。
「これは俺の数少ねえ趣味なんだよ!! 仲間共にも恥ずかしくて隠してんだから、誰にも言うんじゃねぇぞ!?」
どうやら料理が趣味らしい。
「こんな凄い特技を、隠す必要ないじゃないですか」
「俺様の威厳が無くなるからに、決まってんだろ馬鹿野郎!!」
何故か怒られた。
「えぇ……隠す必要ないと思うんだけどなぁ。ところで、これなんの肉なんです??」
「教えてやるから、さっさと行けよ!?」
邪魔者は早く消えて欲しいのか、手を添えてから更に小さな声で教えてくれた。
「これは一角兎の雌だ。普段そこらにいるのは雄だが、稀に見つかるレアな一角兎なんだ。これは俺の予想だがな、警戒心が強いのか、視界が悪い時や夕暮れ時に獲れる事がある」
「へぇ!! さすが先輩ですね」
褒めているのに、まるで俺が脅しているかの様に、キョロキョロ周りを警戒するドーン先輩。
お腹も膨れて、いい加減可哀想になって来たので、丁度知りたかった目的地を聞いて去ることにした。
次はパンドラさんに教えて貰った本だ。
背後からは、少し好きになった先輩の声がした。
「おい!! ぜってぇ誰にも言うんじゃねぇぞ!?」




