第70話 解体ショー
「ほら、パンドラさん綺麗にしてあげますからこっちに来て下さい」
森に対するトラウマに加え、目の前で繰り広げられた戦闘で水溜りを作ってしまったパンドラさんは、酷く落ち込んでいた。
「ぶぉ……ぶぉお嫁に行けない……グス」
「はぁ、何馬鹿な事を言ってるんですか。少し冷たいですけど我慢してくださいよ??」
『ウォータ』
パンドラさんの頭上に水球を作り出し浮かべると、頭のてっぺんから足元へ包み込んで移動させ回転を加えて洗濯する。
綺麗に水浸しになった彼女を、今度は魔法で風を起こし乾かしてあげた。
「ほら、これで綺麗になりましたよ」
「あ、有り難う……でも……私は……汚れてしまったの……あはは」
「兄さん、パンドラさんお漏らししてから変だよ??」
可愛く首を傾げ、傷をえぐる妹。
「言わないでぇえええ!!」
そう言って両手でまた顔を隠すのだった。
「さて、のんびりしている暇はないですよ。ロープで木に縛り上げて、内蔵を出しましょう。力仕事はパンドラさんに任せて良いですよね??」
「も、勿論です!!」
(ここまでなんの役にも立てていない中、放っておくとまた落ち込み兼ねないからな)
近くの丈夫そうな木を選び、ロープをかけてオークを逆さ吊りにして引っ張り上げる。
『アース』
その真下に少し深めに穴を掘ると準備は整った。
さすがパンドラさんと言ったところか、逆さ吊りのオークがスイスイ吊るされて行くのは見ていてなんだかシュールだ。
誰が解体するのが良いかと、考えながら二人を見る。
ナナは好奇心旺盛なキラキラした目向け、とてもやりたそうだ。
パンドラさんは手を口に添え、青い顔で首を降っている。
「ナナでも良いけど、まずは俺からやらせて??」
正直、俺も何も思わない訳じゃないが、必要な事だし早めにこの大きさの解体を経験しておく方が良い。
ファミリアでの生活でも、キラ兄さんと狩りはしていたけれどあれは解体とは呼べない。
それに今回のオークについても、その場で細かくバラすなんてしないし、せいぜい内蔵を抜き取るのと血抜き程度だ。
意を決しておへそ辺りからナイフを突き刺し、一気に胸元まで下に引き裂いた。
失敗だった。
「うぉおあああああ!!」
飛び降りた後、上から色んな内蔵が自分に降りかかると、全身血だらけの内蔵まみれになった。
「「……」」
「そんな可哀想な奴を見るような目で見るなよ!!」
パンドラさんはそんな俺を見て「うぷっ……」と、口から虹を出していた。
もう洗濯しないからな!?
俺は血まみれになった気持ち悪さや恥ずかしさを我慢しつつ、魔法を使って綺麗にした後、暫く血抜きが終わるのを待って、穴を埋めてからオークを降ろすと、討伐証明に使う部位である牙を抜き取る。
「パンドラさん。牙は二本抜くのが基本だと聞いてるんですが、証明は右側の牙だけなんですよね?? 何で二本何ですか??」
「うぷ……そ、それは薬の調合や錬金術の材料で需要が一定数あるので、お金になるからです……おぇ」
いい加減慣れなさい。
(ふむ、やっぱりこの解体作業とこの痛み安さ、それに運搬方法さえ上手くクリア出来れば稼げるかもな)
実質、オークは何処の部位も捨てる場所は無いと言われる程、需要は高いと聞いている。
牙、魔石といった部分も期待出来るし、フーバさんの査定が楽しみだ。
グゥゥ
ナナのお腹から虫の音が聞こえて来た。
「兄さん、お腹減った〜〜」
俺とパンドラさんはグロい解体ショーを間近で見て、とてもじゃないけど食欲は湧かなかったが、ナナの腹は通常運転らしい。
ナナ、恐ろしい子
ナナのお腹に関心しつつ、ふっくら亭のパンを渡して俺とパンドラさんでオークを運んだ。
ナナは戦闘で頑張ったから良いだろう。
台車がある川原まで移動してからは、ボロ布でナイフについた油を拭い取ったり、ロープを丸め直したりと後片づけを少し行い、まだ昼を少し過ぎた時間ではあったが、気温が高く折角のオーク肉が傷むのも心配だった為、早めに町に戻る事にした。
帰りはパンドラさんが気を使って、先頭で台車を引いてくれたが、絵図らが悪いので、後ろから俺が押す格好を取る。
なんとでも言ってくれ、これは男としてのプライドなんだ……
ギルドに戻るとパンドラさんから施設の横側に台車を止めるようにと言われ移動する。
横側から見るギルドは石壁だけだと思っていたが、実は奥には倉庫の入り口と思われる木造の扉があり、少し驚いた。
「報告等の手続きとフーバさんに話をして来きます」と、パンドラさんは先にギルドの中に入って行った。
ギギギ……
暫く待っていると倉庫の扉が徐々に開き、人影が現れる。
「よう!! 今日はオークを狩って来たんだって?? やるじゃねぇか!!」
夕日に反射する真っ白な歯が眩しいよ、フーバさん。
「フーバさんこんにちは。結構苦労したので高く買って下さいよ??」
そう微笑むと、フーバさんも笑いながら答えた。
「はっはっは!! それは物を見てからだな。さぁ、こっちに台車ごと入れてくれ!!」
フーバさんに案内され、台車を動かして中に入った。
魔導具の灯りで、思ったより明るく広いスペースが見え、棚が沢山有って解体に使うであろうよく分からない器具が、沢山置かれていた。
天井には吊るし上げる為のチェーンや滑車が何個も設置されており、まさに職人の部屋と言った雰囲気を感じる。
「エントにナナちゃん、そこにオークを乗せるから手伝ってくれ」
言われた通り大きな台座へ三人で移す。
「良し、お前らの仕事はここまでだな。後はこれから査定をするから、いつものテーブルで結果が出るまで待っててくれ」
「「宜しくお願いします!!」」
礼を言うと表側からギルドに入り、いつものテーブルの席で査定を待つ。
途中パンドラさんが作業を終えたのか、何処かそわそわしながら戻って来た。
「は、初めてのオークの査定楽しみですね。わ、私は何も出来ませんでしたが……」
「台車やロープ作業をしっかりやってくれたじゃないですか、助かりましたよ」
「そ、それくらいしか!! してません……」
「お漏らしも……んーー!?」
また自虐の道を辿ろうとする彼女に、追い打ちをかけるようにナナがキラーパスを放とうとしたが、光の速さでナナの開いた口にパンをぶち込み塞いだ。
パンを口に入れるだけで、ギルド内に突風が巻き起こるって色々おかしいだろ。
「ナ、ナナちゃん!? 乙女の秘密は守るって言ってましたよね!? ねぇええ!?」
「お、おう!! エント、査定が出たから来てくれて」
周囲の異変に少し動揺するフーバさんに呼ばれ、三人でカウンターへ向かった。
査定結果は重さ180ロキで合計銀貨90枚と、牙が銀貨5枚で合計銀貨95枚になった。
「今回は、初めてのオークだからおまけしておいたが、肉質がちょっと良くない。季節的な物でもあるから仕方無いっちゃ仕方無いんだが、工夫出来るならした方が良いだろうな」
「査定してくれて有り難う御座います。工夫ですか……少し考えてみますね。因みに同じ物を次回持って来たとしたら、どんな査定になるんです??」
「はっはっは!! ギルドの査定基準は教えられない。だが、ギリギリの情報はその意気込みに免じて少しだけ教えてやろう。基本的に肉質が悪くなればなるほど、ロキ単価が下がる事になっている。今言ったがらこの時期の肉質はどうしても悪い。が、逆に良い状態で納品出来るとすれば、もしかしたら……おっと、ここまでだな。まぁそれよりも、ちゃんと無事に帰って来る事が一番ってのを忘れるなよ??」
フーバさんにお礼を言った後、報酬を分けふっくら亭に戻った。
一人銀貨31枚で一割をパーティ資金に回しても残り28枚。
意外にも収入としては悪くは無いと一瞬思ったが、内蔵を出す大変な作業や、命を掛けた報酬として考えると、やはり安く感じてしまう。
部屋に戻り、いつものようにお湯で身体を綺麗にしてから、下で晩御飯を三人で食べる。
「お、お昼は食べれなかったので、お腹ペコペコですよぉ」
「兄さん!! 今日は何が出るんだろうね!?」
最近は常連らしく、女将さんにおすすめで頼む事が多くなっていて、その方が楽しみがあって良い。
今日は果実水にいつものふっくらパン、野菜スープと焼いた肉がメニューだった。
調味料は豊富に種類がある訳ではないが、素材の味がしっかり分かってこれはこれでとても旨いと思う。
美味しそうに食べる二人を見ながら、今後の予定を考えた。
(戦闘力は慣れれば問題は無い。けど、致命的な問題が残ったままじゃ駄目だな……)
「パンドラさん、大事な話があるので、後で部屋に行っても良いですか??」
「ぶーー!!」
彼女の口からスープが吹き出し、俺の顔にぶっかかる。
「…………」
「■▲○■□◎!?」
「あの……落ち着いて下さい」
「へへ……部屋!! 部屋!? 綺麗に、綺麗にせねば!!」
突然立ち上がると、凄い勢いで自分の部屋に走り去って行った。
「あははは!! パンドラさんまた変だったね!?」
ナナは目の前のパンをがぶりと噛み付くと、とても幸せそうな顔を浮かべた。




