第67話 残された言葉
俺達は疲れた身体で、ヘルメスの町に戻った。
ギルドでパンドラさんは、報告書を出すため別行動。
俺とナナは換金してから、救出した女性冒険者を見舞に行った。
ギルドから出る際、パンドラさんに助言をされた。
「あ、あの!! 酷く錯乱されていたので、何か言われても気にしないで下さいね!!」
治療院と呼ばれる場所は、町の中央付近にある教会の裏側にあり、負傷した冒険者等が運ばれるらしい。
暗くなった道を歩き、治療院入り口から見える漏れた光を潜って、助けた冒険者を探す事にした。
治療院の中は何部屋もあり、さらにそれぞれのベットにはカーテンが備え付けられていた。
(これはちょっと探すの大変だな)
その場で立ち尽くしていると、一人の猫耳が生えた女性がこちらに気付いて話かけて来た。
「こんばんわ、私はリチェルと言います。ここで介護の仕事をしている者ですが今日はどの様なご用件で??」
リチェルさんと呼ばれる女性に事情を説したところ、案内して貰える事になった。
沢山のベッドが並ぶ中、奥へ進むとあの女性冒険者がベットで横になっていた。
「ルカさん、御見舞の方が来ましたよ」
「!?」
ルカと呼ばれる女性冒険者の目と目があった。
目の周りが赤く腫れ、ずっと泣いていたに違いない。
だがーー
「貴方の……貴方のせいでぇえええ!!」
唐突に彼女は叫び出し、上手く動かせなくなった身体を激しく動かすと殺気を俺に向けて来た。
バチッ!!
《ナナ!! ……やめろ》
「なんで、もっと早く来なかったんだよ!! あんたがもっと早く来ていればモリーは死ななかったのに!!」
そう声を上げわんわんと泣き始める。
「ごめんなさい……今は興奮気味だから、今日はもう帰って貰った方が……」
リチェルさんが、少し悲しい表情で俺の肩に手を置く。
「有り難う御座います。でも、自分で関わると決めたので、もう少しだけ、ルカさんと話をさせて下さい……」
「はぁ、わかりました。私は隣の部屋の方を看護して来ますから、何かあったら言って下さい」
リチェルさんが行った後、少し落ち着きを取り戻した彼女がぽつらぽつらとまた話し出した。
「これから……どうやって、私は生きて行けば良いのよ……手足が動かないこんな身体で、どうやって生きて行けば良いの!?」
再び悲痛な叫びか部屋に響き渡った。
「いっそーー」
「死んだ方が増し、とでも言うんですか??」
「あんたみたいな若造に何が分かるって言うのよ!!」
「貴方の気持ちは分かりません。でも、モリーさんの気持ちなら少し分かります」
「何を……」
首から掛けているあの少女の灰を握りしめ、ルカさんの目を見詰めながら続けた。
「あの森の惨状から言って、モリーさんは貴方を逃がそうと犠牲になったように思えます。違いますか??」
「それは……」
「なら、自分の命よりも貴方に生きて欲しかったという事だ。絵本に出て来る英雄のような良くある話で終わらせて良い事じゃ無い。これは物語の中じゃ無いし現実だ。滅茶苦茶怖かったはずだ。出来るなら自分も死にたく無かったはずだ。そんなモリーさんが必死に助けた貴方が……貴方が自分で死にたいなんて言うんじゃない!!」
ルカさんは下を向き、苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「……これは俺のじぃちゃんの受け売りですが、大切なものが無くなった時、どうしてもそればかりを考えてしまう。それは仕方無い事で、好きなだけ泣いて涙が枯れるまで泣いて、全部出しきった後……今あるものをゆっくり数えると良いと教わりました」
「何も思いつかない!! 私には何も残って無いの!! 生きる意味すらもう無いのよ!!」
「生きる意味だと?? それは一体誰が決めている?? 勝手に諦めて、勝手に自分で決めてるんだろ!?」
「……ぅう」
「すいません……言い過ぎました。もう行きますね……これはギルドから預かったモリーさんのギルドカードです。手続きは終わって、預かって来ました。もう、ただのカードですが、貴方にだけは意味がある」
一枚の銅で出来たギルドカードを、彼女に渡し俺達はその場を後にした。
部屋の入口まで進み後ろを振り返ると、ギルドカードの裏側を見て彼女は固まり、その後また泣き崩れる姿が見えた。
モリーさんの想いが伝わったなら良い。
出口近くでリチェルさんに帰る旨を伝え、ふっくら亭に戻る。
夜道を歩きながらこの世界の夜空を眺め、いつも綺麗だと鑑賞に浸る。
「兄さん、兄さん!!」
「どうした??」
「あのギルドカードの裏には何が書いてあったの??」
「ああ……ナナは見てなかったか」
それはモリーさんの血で書かれていたメッセージだった。
死の間際に絞り出したモリーさんの命で書かれたメッセージ、それはこう書かれていた。
生きろ
俺が出来なかった命の使い方。
そんなモリーさんを素直に凄い人だと思うし、少し羨ましくも感じる。
「ところでナナ、あのルカって人と帰り際何か話してただろ?? 何を話してたんだ??」
「兄さんには秘密。乙女同士は秘密を守るもんだって、ヒスイ姉さんが言ってたし!! ふふふ」
「はぁ、姉さんは何を教えてんだか……」
「それより兄さん……ナナお腹ペこぺこだよぉ」
「そうだな、今日はナナ頑張ってくれたから、ふっくら亭で好きなもん頼んでいいぞ」
「本当!? やったー!!」
今日は討伐、救出、お見舞いとイベント盛り沢山な日だった。
悲しい出来事もあったけれど、一人の冒険者の軌跡に触れ、自分の中で感じる熱いものを確かめながら、宿に戻った。




