第66話 貴方が持つそれは
即座に『山彦』を使う。
入って来た情報は、酷い有り様だった。
ゴブリン四匹に運ばれているのは、若い冒険者風の女性。
両手両足の腱を噛み切られ、そこから血が滴り落ちて必死に叫んでいる。
「先に行く!! ナナとパンドラさんは追い付次第、周辺の魔物を狩れ!!」
身体強化を脚に纏い一気に距離を詰める為、駆け抜けた。
「い゛ゃぁああああああああああ!!」
徐々に女性の悲鳴が大きくなる。
近付く気配、『忍び足』も展開して最速で向かう。
『魔刀』
右腕から一メートル程の魔刀を作り出し、足の方を持っているゴブリン二匹を見付けるや否や、頭を横一文字に刎ねる。
「ギギ!?」
(誰も見ていないなら!!)
『グロウ』
前にいたゴブリン二匹の足を植物を操り固定すると、相手が戸惑う中俺は右腕を振り上げた。
困惑しているゴブリン達は怯える目で俺を見た。
「悪いな……」
ザシュ!!
念の為すぐに植物は元に戻し、地面に転がる女性に急いで駆付ける。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あ゛ぁあああああああ!!」
緊張の糸が切れたのか、さらに涙と鼻水で顔はグチャグチャになって泣き叫ぶ。
だが、一目彼女の傷を見てわかった、思った以上に傷が深い。
傷付いているだけなら俺の回復魔法で治癒出来るが、手足の腱ごと肉を食われている。
「……落ち着いて聞いて下さい。このままだと、血が流れ出過ぎて貴方は死んでしまいます。幸い俺はヒールウォータは使えますが、欠損部分の修復は不可能です……言っている意味がわかりますか??」
「ぅうう……」
もう元には戻らない事を理解し、彼女の顔からはまた涙が流れた。
(許してくれ)
『ヒールウォータ』
俺は急いで回復魔法を使い、出血が酷い箇所から治療していった。
「兄さん!!」
「エント君大丈夫!?」
ナナとパンドラさんがようやく来た。
二人の衣服に付着した血痕から、ここに来るまでに何匹か仕留めたのだろう。
「大丈夫だ……それよりこの人を保護する。ナナは気配察知しつつ前方を進み、パンドラさんは俺の後ろで殿を頼みます!!」
血が流れ過ぎたのか青白くなった女性を背負うと、来た道を少し避けつつ急いで戻った。
他の魔物達が血の臭いで集って来る可能性を考え、少しルートを変える必要があった。
残念ながら彼女を町まで運べば一段落……とは行かず、背中から聞えた一言で事態はまた急変する。
「モ、モリーが……まだ……先に、連れて……行かれて」
(な!? もう一人仲間がいたのか!?)
走りながら何が最善かを搾り出し、ナナとパンドラさんにこれからの対応を説明した。
「このまま森を抜けたらナナとパンドラさんはこの人を町へ連れて戻ってくれ!! 俺はさっきの場所まで戻って、この人の仲間を助けに行く!!」
「だ、駄目ですよ!! 一人だなんて死にに行く様なものです!!」
「大丈夫です!! うひょも居ますから」
「そう言う問題じゃ有りません!! 一度戻って救出クエストを発行して、高ランクの方に頼むのが普通です!!」
ズキッ!!
「……普通、だと??」
「兄さん??」
前を見て走りながら、ナナは俺の僅かな異変を感じとったのか、心配そうに声を掛けた。
「だ、大丈夫だ」
「……もし、パンドラさんが言う普通の対応をして、結果が良くても悪くても、それも結局普通の事だったって終わるんです。そこに自分の意識は無い」
「で、でも!!」
「俺には、俺の決めた生き方がある!! 貴方の持ってる普通では、求める現実に間に合わないんですよ!!」
「ッ!! 必ず……戻ると約束……して下さい」
「勿論です!!」
「兄さん、その人降ろしたら迎えに行くね」
「ナナ、有り難う」
話が終わる頃には、森の入り口に到着した。
直ぐに彼女をナナに背負わせ、俺は再び森へ向かう。
「す、すぐに救援を呼びますから!! 無理しないで下さい!!」
「了解です。ただーー」
思わず口から溢れ出る言葉。
「一人の方が殺りやすいですから」
「え?? 今なんてーー」
「兄さん頑張ってね!!」
「応ともさ!!」
そう言い終わると身体強化を全身に掛け、森を駆けた。
(恐らくさっき殺したゴブリン達が向かっていた方向に仲間も居るはず!!)
再び『山彦』を一定間隔で展開しつつ急いで目的地に向かった。
…………
……
さっきの戦闘場所から暫く進んで行くと『山彦』に何かが引っかかる。
(見つけた!!)
気配をなるべく消して近付くと、山の傾斜を背後に開けた広場があった。
そこから見えるのは、およそ二、三十匹程度のゴブリン。
「ギャギャギャ!!」
捕らわれているであろうモリーと呼ばれる冒険者を、直ぐさま探し出そうと目を走らせた。
しかし、俺の片目は直ぐに何か丸いものを蹴り飛ばして、遊んでいるゴブリン達で止まる。
いや、それどころかバラバラにした手足で物真似をしているゴブリン達もいる。
俺の胸にドロドロとした激しい怒りが湧き上がるのを感じた。
「すぅはぁ……怒って良いい。だが、落ち着け」
木の影に隠れ『山彦』と目の両方で確認して見ても、他に生存者は居なかった。
「……間に合わなかったか」
もはや隠れる意味も無くなり、俺はふらりとゴブリン達の前に進み出た。
「ギャ!? ギャギャギャ!!」
ゴブリン達が気付くや否や、直ぐに近くの武器を拾うと俺を囲み込み始めた。
顔を見ればニタニタとまるで玩具が増えたと言わんばかりに笑う。
「あははははははは!! お前ら良いよーー」
突然の笑いに驚いたのか、ビクリと反応して張り詰めた空気に変わった。
「ーー何の迷いも無く、殺せる!!」
「ギャギャァアアア!!」
集団戦に慣れているのか、ほぼ同時に全包囲から仕掛けて来た。
だがその時にはもう地面に手を添え、魔力を操って木属性魔法を行使する。
『地獄剣山』!!
次の瞬間、森の木々達の細く鋭い根が地面から次々とゴブリン達を串刺しにしていく。
鬼ごっこの時に初めて見たこの技は、森の中では絶大な効果を発揮する魔法だ。
地面からは元より対象者から逃げようと思っても、周りに木があればそれらも槍となって襲いかかる。
避ける方法は空しか無いが、出来たとしても無傷では済まない。
「はぁはぁ!! ま、まだ、ヒスイ姉さんみたいに広範囲は無理か」
息を荒げ周りを見ても、生きているゴブリンなど存在しなかった。
穴だらのゴブリン達は、まるで飾ってあるマネキンのようだ。
その後は、モリーと言う冒険者の体を集め最後に頭を拾った。
悲痛な表情の顔にそっと手を添え瞼を閉める。
「……遅くなってごめん」
「……うひょ」
亡骸はなるべく本来通りの形にして並べ、最後にギルドカードを胸の上に置き手を合わせる。
そこから救援が来るまでの間はゴブリンから魔石を抜き取り、左耳も切り取って一箇所に集めておいた。
全て終わった頃、ナナとパンドラさんがベテラン風な冒険者を連れて来たが、もうやれる事も少なく遺体をその場で埋めるとギルドカードのみを回収して町に戻った。
その後俺はパンドラさんに何故か止められたが、最初に救った女性冒険者の様子を見に治療院と呼ばれる施設に向かうのだった。




