第64話 ぎゅっ
パンドラさんの過去を聞いた。
それは切なくて悲しい、でも何処か暖かい話だった。
彼女が言うには、母親と別れた後、運良く魔の森を抜けた辺りでギルドマスターであるガイアさんに保護されたと言う。
「パンドラさん、でもどうしてそんな大切な話を……」
「わ、私に優しくしてくれた人は、今までお母さん以外はじぃじだけだったんです。でも、このままじゃ駄目だって、ずっと悩んでいたんです。そんなある日、貴方達に出会った……最初はすぐに不気味がられて嫌われるだろうと、そう思っていました。でも、でもそうじゃなくて……まだ数日だけど、とっても嬉しかった、嬉しかったんです……」
必死に気持ちを伝えようとするその姿に、胸の辺りの温度が少し上がるのが分かった。
「私のせいで、エント君が傷ついたのに、君はまた冒険しようと言ってくれた。ナナちゃんにまで謝られて、私の方がお姉さんなのに……」
ズキッ
不意に頭痛が走った。
「だから、勇気を出してまず私の事を教えようって、そう決めたんです」
考え無しの行動過ぎる、そう頭に浮かんだけれど、この人らしい気もする。
「はぁ、僕等が魔族の間者だったらどうするんですか??」
「どどど……どうにでもなれです!! もう決めたんです!!」
ナナの方を見ると、ニコニコと嬉しそうに笑っている。
(この人は、裏表を上手に使い分けれるような器用なタイプじゃないか……逆にそれが心配になるくらいだしな)
「過去のお話だけじゃありません!!」
彼女は何を思ったか、震える手で箱に指を添えた。
「「!?」」
ガチャ!!
唐突に箱を取ったパンドラさんは、その紫のロングヘアが柔らかくサラサラと舞い降り、額の上からは光沢のある黒い角が一本生えている。
肌は乳白色で、程よい赤みが可愛さを引き立てて見え、輝く金色の瞳は俺を脅えるように見詰めて来る。
「わぁ!! パンドラさん美人さんだね!!」
「こここりにゃ……」
頬を押さえ、彼女はクネクネと変な踊りを踊り出す。
(あ、やっぱりパンドラさんだ)
一瞬、別人のようで不覚にもドキッとさせられてしまったけれど、蓋を開けて見ればパンドラさんに変わりは無かった。
彼女は俺の反応も待っている様子だったが、あえてじっと観察し続ける。
ふむふむ……ふむふむ!!
(揺れる胸、Dカップ!!)
「……ニイサン??」
後ろから刺されるような威圧感を感じて、慌てて話を進めた。
「パ、パンドラさんの覚悟はわかりました。正直そこまでされると、逆にこっちが申し訳無くなってしまいますね」
《ナナ、聞こえるか?? これからもパンドラさんと付き合って行くなら、このタイミングで最低限の情報を出しても良いと思うんだけど、良いかな??》
小霊で先に内容を知らせ、ナナを見ると静かに首を縦に動かした。
「い、いえ!! こっちが勝手におおっぴらにしただけですし、それに信用して貰えるまで時間をかけて……じっくり、待ちますから……うぅ」
しょんぼり顔になった彼女は塞ぎ込んで、そう言った。
(はぁ、そんな顔するなよ……全く)
「パンドラさん。秘密を守ってくれるなら、俺の秘密を教えます。ナナのあの件は、実は俺もまだ分からない事が多くて……それでも良いと言ってくれるなら、今回の件はそれで手を打ちませんか??」
「い、良いんですか!?」
「約束を守ってくれるならです」
「ひゃい!!」
『身体強化』
彼女が同意したのを確認した後、俺は目視出来る程の濃度で全身に強化展開させた。
「え、えぇ!? 無、無属性魔法!?」
「えぇ、宿の酒場で無属性魔法の噂も集めてたんですけど、やっぱり余り良い噂は聞かなかったですし、ギルドの報告書にも書きませんでした」
そう、ヘルメスにおいても他の属性魔法は利便性や実用性が高い認識で、その反面、無属性魔法は他属性の適性が落ちるだけでなく、さらに熟練度も上げにくいのか、多少早く動ける程度の残念魔法扱いだった。
ちなみに彼女の前で見せた火属性魔法は、初級魔法のみで問題ない。
心苦しいけど、さすがに木属性魔法の事はまだ言えない。
「それで……でも、全身を覆うなんて凄いですね。まるでーー」
「お母さんみたい、ですか??」
「!?」
「『死葬』は私の魔法の先生から聞いた事があります。魔石をわざと暴走させ、飛躍的に魔力の絶対量を上げる。しかし代わりに、使用者はその代償として命を失ってしまう……そんな切り札的な技。そしてそれは、無属性魔法だと言う事を……」
「……ッ!!」
過去の記憶を思い出したのか、両手で口元を押さえ必死に泣くのを我慢する。
バシッ!!
「痛!!」
後ろからナナが叩いて来た。
「女の子泣かせるなんてユルサナイ!! ちゃんと慰めて上げて!!」
「な、慰めてったって」
「ぎっ……し……はい……」
「え??」
「ぎゅってしてくらはい!!」
「ええ!?」
ナナを見ても睨み返して重く頷くだけだ。
「はぁ……わかりました。でも、加減して下さいね!! ね!?」
「あい……」
心配なので身体強化の濃度を上げておく。
(だって、一日にニ回も骨を折りたく無いもん!!)
色んな意味で心臓が早まる中、彼女にそっと寄り添いハグをする。
俺の背中に彼女の手が回り……
ギシッ……ギシッ!!
(ぐぉ!? ま、まだ大丈夫なはず。それより、またこのパターンかよ!?)
ムギュ!!
俺とパンドラさんの身長差は絶妙な高さで、Dランクのマシュマロのような双丘が俺を襲う。
(むぐぅ!? い、息が出来ん!! 命の危険があって、さらに妹に見られて楽しめる程、マニアックじゃ無いからぁあああ!!)
堪らず息が出来る角度に顔を動かしてみればーー
「ん……ぁう」
(変な声出すなぁぁあああ!!)
ギシギシッ!! グキッ!!
「ギブギブギブ!!」
何とか一命を取り留めた俺は、ようやく解放された。
「あ、あの!! 有り難う御座いました!!」
物凄く満足そうな顔になり、良かったと胸を撫で下ろした。
でも……涎を垂らすほど喜んでクネクネ踊りまくる、目の前のパンドラさんを見ていると、何だかイラッとする。
本当はもう少し時間が経ってからのつもりだったけど、こういうのも纏めて片付けた方が良いし、何よりちょっと仕返ししたい。
「実はもう一つだけ秘密がありまして……」
目で合図して、ナナに俺の皮袋を持って来て貰った。
「これを見て欲しいんです」
(クククッ!! さぁ、驚くがいい!!)
パンドラさんは言われるまま、素直に皮袋を覗き込んだ。
「うひょ!!」
突然出て来たうひょを見て、パンドラさん無言で固まった。
無言で見つめ合うパンドラさんとうひょ。
「きゃああああああ!!」
(ふははは!! ざまぁみろぉおおお!! 作戦成功だ!!)
「滅茶苦茶かわいいですね!!」
ズゴォオオオン!!
俺は多いにずるコケた。
うひょは照れているのか、クネクネ変なダンスを踊り始める。
パンドラさんも変な踊りをクネクネ踊り出した。
(まさか!? 同族なのか!?)
「え、か、可愛いですか?? それだけ!?」
「可愛いは正義デス!!」
何はともあれ、その後うひょを紹介して、俺達の友達(ペットと言うと怒る為)と言う事で理解して貰い、置いて行くのも心配なので、冒険にも一緒に連れて行きたいとお願いしたら、潔く了解をくれた。
それはそうと、実はパンドラさんはもっと俺達と信頼を築きたいと意を決してギルド寮を出て来たらしく、これからはふっくら亭で一緒に生活していくとの事。
(思いっきりが良すぎるだろ!! って、あれ?? 数日でこんなに理解があって、滅茶苦茶強いパーティメンバーってついてるのかな??)
目の前のクネクネとダンスを踊る彼女を見て考えてみる。
「いや、無いな……」




