第61話 嫌な奴の捌き方
冒険者三日目、朝からナナと日課の瞑想を行った後、朝食を食べ冒険者ギルドに向う。
ヒスイ先生の言いつけを守り、よっぽどな状況じゃない限り、瞑想は毎日続けている。
冒険者ギルドの建物に入ると、パンドラさんがクエストボードの近くで待っていた。
(ちょっと待て……何故それにした!?)
今日のパンドラボックスは、ド、ピンクだ。
俺は頭を抱え、場合によっては色を変えて貰う必要もあると思いつつも挨拶する。
「パンドラさんおはよう!!」
「あ、お、おはよう御座います」
簡単に挨拶を済ませて、念の為クエストボードを確認すしても、特に代わり映えしない。
「ギャハハ!! 今日はピンクだってよ!! 冒険者なのにピンク!!」
背後から声がしたので振り返ると、何処かで見た事がある人物だった。
「聞いたぜぇ!? 薬草採取は得意らしいが、一角兎程度の獣すら満足に納品出来なかったんだってな!? 俺なら恥ずかしくて冒険者なんて辞めちまうぜ!! ギャハハ!!」
たしか冒険者登録の時にお世話になったドーン先輩だ。
「そそそ、そんな事……ふがふが!!」
小馬鹿にしたような態度でそう言われ、パンドラさんが反論しようとした瞬間、俺はピンクの箱を鷲掴みにして後ろにポイッと下がらせる。
まぁパンドラさんの気持ちも分かるんだけど、そうじゃ無い。
ナナは無言で観察しているのか、今回は大人しくしている。
(どっちがお姉さんなんだか……それはそうと、このドーン先輩は粘着質そうだから、今の内に一手打って置くか)
「先輩、有り難う御座います!! そんなに心配してくれてたなんて嬉しいですよ!!」
「はぁ?? 頭おかしいのか?? 馬鹿にしてんのもわからねぇなんてな!! ギャハハ!!」
「そうだったんですか、でもそう言われるとやる気が出て来ましたよ!! 今はまだまだですが、俺達頑張りますね!!」
「お!? おぉ……」
「さぁ、皆行こう!!」
頭にはてなマークを浮かべるナナと、腑に落ち無い顔のパンドラさんを引き連れ、ギルドを出て北門に向かって歩き出した。
「エ、エント君待って!!」
ギルドを出て直ぐに、パンドラさんは立ち止まり、少し憤慨した声で呼び止めた。
「どうかしましたか??」
「……く、悔しくないんですか!? あんなに大勢の前で馬鹿にされて!!」
通りすがりの人々が、なんの騒ぎだと注目を集め出す。
「悔しくないですよ??」
「う、嘘です!! 私はこんなに悔しいのに!!」
よく見れば、彼女は手の平を強く握りしめ小刻みに震えている。
「はぁ……パンドラさん、取り敢えず歩きましょう。目的地でさっきの対応についてちゃんと説明しますから」
「パンドラさん行こう、ね??」
ナナがそっと手を添えると、パンドラさんもようやく歩き出した。
道中ずっと、何とも言い難い雰囲気のまま、今日の目的地に到着した。
今日は、昨日より少し西側で薬草採取する予定だったが、まずはパンドラさんへの説明から解決しないと気持ち良く採取出来ないだろうと、彼女に向き直ると説明を始めた。
「パンドラさん。さっきの件ですが今後も同じような事があるので、前もって教えて起きますね」
「……はい」
自分だけが悔しかった事に、罪悪感やら恥ずかしさやらで、感情が上手く整理出来ない様子のパンドラさんだが、話は聞いてくれそうで少し安心だ。
「良かった。まずあのドーンさんはズバリ自己顕示欲の塊だと思います。おそらく、我々のような新人冒険者を馬鹿にして、自分が優れている事に幸福感を得て喜んでいるんです。冒険者をやっている方はそう言った方が多いでしょう??」
「た、たかし……」
(たかしって誰や!?)
「ゴ、ゴホン。大事なポイントなので良く覚えておいて下さいよ。人は誰かを馬鹿にすると優越感で気持ちが良くなる。そしてそれは……」
「しょ、しょれは!?」
(もう……怒って良いですか??)
「癖になるんですよ」
「癖……ですか?? 確かにそう言われるとそんな気がしますが、でも、だからしっかり言い返して置かないと駄目なんじゃ無いんですか!?」
「違います。言い返しても向こうはまた違う事を馬鹿にして来て
、更に優越感を味わい、そこで満足するまで続けて来るでしょう」
「ぐぬぬぬ!! 確かにそんな風になりそうです」
「なので、私は馬鹿にされたままでも、前向きな発言をした訳です。俺達では優越感に浸れ無いって事を、無意識の内に覚えさせる為にね」
「ほぁあああ!! エント君はまだ小さいのに、す、凄い考え方をしているんですね!!」
「小さくありませんからぁあ!! それにこれは俺達の爺ちゃんの受け売りってだけですよ」
「身長気にしてたんですね……」
「今、成長期ですから、気にしてませんよ」
上手く笑えているだろうか??
「兎に角!! 今後もああ言った輩は現れるでしょうから、その時は逆に気持ち良くしてやるものかって気持ちで、有り難うや、頑張りますで対応しましょう。俺達はそんな時間より、やらなきゃならない事が沢山ありますからね」
「はい!!」
俺の話に納得がいったのか、とてもスッキリした顔でパンドラさんは返事をした。
「兄さん……」
「どうしたナナ??」
「ナナはまだ難しい事は良くわからないんだけど、敵か分からない時はお話して対応するって事だよね??」
「そうだ」
「わかった。でも敵なら……殺……も……ね」
後半の部分は声が小さくてよく聞こえなかったけど、ナナも理解してくれたようだ。
「さて、少し時間が遅れているので、頑張って薬草採取しましょう!! 昨日と同じくらい取れれば、今日も午後は一角兎の納品クエストがてら、戦闘訓練をやる予定です」
「「おおお!!」」
…………
……
結局、その日の午前中は薬草が四百本も集まり、午後から無事、戦闘訓練を行う事にした。
「今日の特訓だけど、まずはナナがダークバインドで獲物を捕縛、パンドラさん攻撃から、俺が追撃ってパターンを練習します」
闇属性魔法レベル二で使える『ダークバインド』は相手の影を実態化させ捕縛する魔法だ。
素早く小さい一角兎は、練習相手に丁度良い。
パンドラさんにはナナの魔法発動から、すかさず攻撃して貰うん予定だが、捕縛成功時と逃げられた時の両方攻撃が出来るタイミングを掴んで貰う。
俺??
俺は小霊を使ってナナとの連携を取りつつ、パンドラさんの動きを見て判断する練習をする。
俺やナナは今まで個人の鍛錬ばかりで、そういった事情もあって連携の戦闘はこれからなのだ。
正直、手探りな部分が多いけれど、だからこそ面白くて仕方無い。
ナナの気配察知と山彦で一角兎を発見し、さぁ戦闘開始だ。
『ダークバインド』
失敗
「あぁ!! 外しちゃった!!」
ナナの魔法が不発に終わるも、既にパンドラさんが接近し仕掛けている。
「はぁあああああ!!」
ドォオン!!
一角兎の下半身がふっとんだ。
(改めて見ると、魔族って凄まじいんだな……)
「あ゛ぁ…………また、やり過ぎちゃった……す、すいません!!」
「だ、大丈夫です。一角兎の納品は、ついでですから」
「え??」
「あれ?? 言い忘れてましたか?? 一角兎は今後の為の修行なので、納品は出来たらラッキー程度で良いんですよ」
「えぇ!? 滅茶苦茶緊張してたのにぃいい!!」
ガシ
冗談交じりに、少し怒ったパンドラさんは、俺の肩を捕んだ。
ボキッ!!
「ぐぁあああ!!」
「エント兄さん!?」
「え!? あ!! ご、ごめんなさい!!」
(や、やばい!!)
パンドラさんの背後から、禍々しい殺気が一気に膨れ上がるのを感じる。
俺がやばいんじゃ無い、パンドラさんがやばい!!
「オニイ……キキキ……キズツケ……ケケ……ユルサナ……イ」
不気味な動きに変貌するナナの足元には、蠢く闇が広がり始めたーー




