第59話 薬草採取
パーティの資金としてまだお金はあるものの、個人としてのお金は無いも同然で、今日中に何とか銀貨12枚は稼がなければならない。
宿代が一人銀貨3枚、食事代を加えれば合計4枚は稼ぎたい。
つまり、銀貨12枚が俺達の最低条件だ。
昨日、宿で仕入れた情報とパンドラさんの持つ情報を擦り合わせた結果、この夏の時期は町の北側で薬草が取れやすいと判断してそこへ向かった。
道中は、やはり女性同志で安心感があるのか、ナナとパンドラさんの会話は弾んでいる様子だ。
「パンドラさんの帽子って、何種類持ってるの??」
「こ、これですか!? えっと今は十二種類しかありませんね」
(そんなにいらねぇよ!!)
まぁ、鈍感系主人公じゃあるまいし、パンドラさんが顔を隠すのには何か理由があるんだろうし、深くは突っ込まない方が良い。
「箱を取ると、どんな顔なのかな!?」
(おぃいい!!)
「あ、あの、その……」
「ナナ、パンドラさんが困ってるだろ。それより、この辺が言ってたエリアだから、そろそろ始めるぞ」
「おぉ!! いよいよ初めてのお仕事だね!!」
ちらりと横目で見ると、パンドラさんはほっと一息吐いて、「よし!!」と、上手く難を逃れたかのように拳に力を入れていた。
うん、そう言うのは人の目が無いところでやろうね??
「道中確認した通り、薬草は二十本一束で銀貨1枚になる。だからと言って数があれば何でも良い訳でもない。小さいものは査定すらされないし、次来た時にも収穫出来るように、考えて採取するのも大切な事だから忘れないように」
「「はい!!」」
「あと、根から取って土はほろい過ぎない事。薬草の品質に大きく関わるから忘れないでくれ。もし魔物が出た場合は、さっき話し合った通り対応する事。それじゃあ、さっそく始めよう!!」
俺達はこうして、薬草採取を開始した。
何かあった時の事を考え、それぞれ見える範囲で採取する。
「見つけたぁ!!」
ナナはさっそく薬草を見つけたようで、その場で飛び跳ねるほど喜んでいる。
一人銀貨4枚稼ぐなら、薬草八十本必要になる。
正直、薬草採取はあまり稼ぎの良いクエストでは無い。
他の冒険者ならな。
ここなら問題無いと判断し、ギリギリになって習得した木霊の新技を使う。
『小霊』
これは木霊の範囲を限定的に絞り、対象となる者だけに木霊と同じ効果を発揮するものだ。
簡単に言うと、一人だけを対象に話せる木霊って事だ。
旅人さんにも念の為チェックして貰ったけど、人気の無い場所や相手と触れている状態でなら、使っても大丈夫だと太鼓判も貰ってある。
《ナナ、この辺一帯に人の気配はある??》
遠くに見えるナナの頭が僅かに左右に動く。
《わかった、有り難う》
(さて、ならいっちょ稼ぎますか!!)
『山彦』
俺は慎重に魔力の波を創り出し、ナナの気配察知の範囲を超えない程度にまで山彦を展開していく。
直径ニ百メートル程の範囲まで情報を把握すると、念の為にパンドラさんの反応を確認してみたところ、彼女は何も気付いた様子は無く、一生懸命薬草を探している。
(本来、魔核を持つ魔物にしか効果は無いからな)
「よし、じゃあ始めますか!!」
…………
……
それから二時間程たち、太陽が真ん中に来た頃合いで、お昼休憩を取った。
「ふぁあ……疲れたぁ!!」
木陰に入って倒れ込むナナを見て、思わず笑ってしまう。
パンドラさんはと言えば、何故か固まっていた。
「な、何で……」
「どうしたんですか??」
「どうしたもこうしたも!! そ、その大量の薬草はどうやって!?」
震えた指の先には、俺が採取した薬草が二百本程の束になって置いてある。
「実は僕達には、それはもう薬草に詳しい姉がいて、薬草の採取を徹底的に叩き込まれたので、得意になっただけですよ。さ、それよりもご飯にしましょう」
嘘は言っていない。
どこか納得いかない様子の彼女に、ふんわり亭で貰ったパンを皮袋から取り出して彼女にそれを手渡すと、彼女の興味は直ぐにパンへと移って上手く誤魔化せた。
ところで、パンドラさんはどうやってパンを食べるのだろうと疑問に思っていると、彼女は首に接している前部分を下にパカッと開くと、そこからパンを入れて食べ出した。
……無駄に高性能だな。
パンを噛りながら計算してみると、昼までに取れた薬草はだいたい俺が二百本、ナナが五十本、パンドラさんは三十本で、合計二百八十本と上々の出来だ。
食事を終えた後、場所を変え二時間ほどまた作業しようと二人に伝えたところーー
「兄さん、もう目標に届いたから良いんじゃないの??」
「エント君、私は、ま、まだ頑張れますよ!?」
パンドラさんは、薬草の数が一番少なくて余程悔しかったのだろう……無駄に変な気合いが入っている。
勝負に負けた子が「もう一回!!」と言うあの現象に思えてならない。
反対にナナはいっぱい取れたからか、それとも飽きて来たのか、多分後者だと思うが、否定的な意見だった。
「ナナ、午前中はその日の生活費、午後からは各自の貯金とパーティの資金を出来るだけ確保して、装備や予備の貯金に回さないと行けない」
「なんでぇ!?」
「貯金が無いと休みも取れないし、遊んだりも出来ない。ナナは船に乗ってみたいんだろ??」
「「!?」」
「ナナ、頑張る!!」
「休みに遊びですか!? ぜ、贅沢な生活ですね!?」
「パンドラさんはギルドで働いている時、休みは無かったんですか??」
「え、えぇ。受付の仕事はあんな状態だったので、収入も殆ど無かったですし……あははは……は……」
(誰かハンカチぃいいい!!)
「ま、まぁ兎に角、新人の僕らはちゃんと考えてお金を使う事が大切だと思います。自分達の得意な部分を理解して、クエストの内容と照らし合わせ行動出来る冒険者が良いと思います。さらに、なるべく早く資金に余裕を持って、気持ちや身体にも気を配れるようにしたいですね」
「すげ、凄いです!! パーティの貯金も良く考えられているし、エント君やナナちゃんと組めて良かったです!!」
パンドラさんの事が少し分かって来た。
この人は興奮したり緊張したりすると、変な言葉が出ちゃう傾向があると、そう思った。
「そう言って貰えると嬉しいです。でもまぁ、当面の間は頑張らないと駄目ですけどね」
「兄さん兄さん!! 当面てどのくらい!?」
「そうだなぁ。一人金貨1枚分貯まったら休みにしようか」
「き、きん……た!?」
「パンドラさん!! いくら貴方でも、間違っては行けない事がある!!」
両手でパンドラさんの箱を鷲掴みにして、それ以上は言わせなかった。
「そう言う訳で、稼がないと話しは始まらないので頑張りましょう!!」
「「おう〜〜!!」」
…………
……
それからもせっせと薬草を集め、特にトラブルもなく夕方になる少し前で切り上げると、ようやく町に戻った。
「おう!! さっそく来たな!!」
ギルドに戻ると、クエストの報告をパンドラさんにして貰い、それが終わると、フーバさんのところで買い取りをお願いした。
「で?? さっそく何を持って来たんだ??」
「新人なので、無理せず薬草を採って来ました」
そう言って、俺達三人はパンパンに詰まった背負い袋から、どんどん薬草をカウンターへ置いて行く。
「はぁ!? お前らどんだけ採って来たんだよ!? ま、まぁ良い!! 品質の確認に時間が掛かる、そこのテーブルで待っててくれ。終わったら声をかける」
「宜しくお願いします!!」
言われた通り、ギルドの食事スペースにある椅子に座り、査定を待つ事にした。
「兄さん、ナナお腹減った……」
グゥッと鳴るお腹を抑え、ナナは悲しそうに言う。
「そうだな……これが終わったら、ふっくら亭の食堂で食べるか」
グゥ……
隣にも一人、腹ぺこが居るようだ。
「パンドラさんも、良かったら一緒に食べませんか??」
「もちもちろんです!!」
(疲れているせいか、慣れて来たせいかは分からないけど、もう違和感無くなって来たな……)
「そう言えば、パンドラさんは何処に住んでるんですか??」
「えっと、このギルド施設の裏側には寮があって、そこで寝泊まりさせて貰ってます」
「そんな施設もあるんですね」
パンドラさんの話によれば、職員はタダ同然で住める寮なのだが、やはり収入が少なかったのかギリギリの生活だったみたいだ。
(一体どんな生活してたんだよ……)
「おう!! 査定が終わったぞ!!」
フーバさんに呼ばれ、カウンターに向かった。
「やるじゃねぇか!! 品質は良いものがほとんどだ。根の土を残して採取して来たのは、新人にしちゃぁ上出来だ。全部で六百二十本あって、運ぶ途中に折れたっぽいのが数本入ってたが、他の品質は良いからまけてやろう。銀貨31枚でどうだ??」
「勿論、売ります……けど、その言い方だと他にも選択肢があるみたいに聞こえますが??」
「……まぁ頭の良さそうなお前なら気付くか。俺から詳しく説明する訳にはいかねぇんだが、クエストの実績報告をわざわざ取り消してまで、他所で売ろうとする冒険者も居るからな。だから毎回確認するんだよ」
「……例えば薬屋とかに直接取引する……とか??」
「がっはっは!! ライバルの宣伝をする訳には行かねぇからな。そこは自分達で調べるのが筋ってもんだ」
まだまだ情報が足り無いと改めた後、フーバさんから銀貨31枚受け取って、各自9枚づつ配った。
その際パンドラさんが、自分が採取出来た分だけでと言い出したので、明日も頑張ってくれれば良いですからと、無理やり手渡した。
パーティで決めた事はしっかり守らないと、後々積み重なってトラブルの原因にもなると、そう思ったからだ。
端数と積み立て金については別の袋で貯め、自然と俺が預かる事になった。
一々計算するのが嫌なのは直ぐに分かったが、まぁいいか。
俺達はふっくら亭に向かい、宿を確保してから初クエスト達成を祝って、ささやかな祝賀会を行った。
こうして冒険者初日目は、何とか無事に終わる事が出来たのだった。
心地よい労働の疲れと、充実した気持ちで部屋に戻るとーー
「「あ」」
扉を開けた先には、うひょが顔を真っ赤にしてこちらを睨んだ。
「うひょぉおおお!! うひょぉおおお!!」
ガポ
「ん゛んんんんん!!」




