第53話 旅立ち
いよいよ旅立ちの日。
「ナナ、準備出来たか??」
ようやく準備を終えて、ナナがやって来た。
「ちゃんと何度も確認したから大丈夫。エント兄さんこそ忘れ物してたら許さないからね??」
少し頬を膨らませる目の前の彼女は、碧みがかった銀髪をなびかせ、その整った顔で俺を睨む。
あのボロボロだった少女だなんて、誰も想像出来ないほど彼女は変わった。
この5年間で物凄く成長したナナは、何故か俺よりも頭一つ分も大きくなり、可愛いから美人へと変わりつつあるようだ。
(兄としては嬉しいような悲しいような……)
「あぁ、旅人さんのアドバイスもあって、荷物は最低限にしたし、持ち物と言っても服の換えと数日分の食糧、それに小銭だけだからな」
《寂しいのぉ……もう一年ぐらい居てもえぇんじゃよ??》
「爺、減点です。ここは「何時でも帰って来い!!」って胸を張って言う場面でしょ??」
「あ、あたいだって我慢してんだぞ!? 本当はついて行きたいのに、父親がそんなんでどうすんだい!!」
アラ子姉さんが涙目でお冠だ。
《娘達は厳しいのぉ。しょぼぉんじゃ、しょぼぉん》
「シュシューシュシュ」
「うん分かった。エント兄さん、キラ兄が「鍛錬は怠らず、森では気を抜くなよ」って言ってるよ」
ナナは不思議な子で、キラ兄さんやうひょの言葉が理解出来た。
(何度聞いても俺には無理だったけど、あははは……は)
「キラ兄さん有り難う。次に帰って来た時は、今度こそ負けないからね」
「弟、妹よ!! 最後にハグ刺して!! 刺して!!」
「「嫌だ、よ!!」」
ヒメ姉さんは相変わらずブレ無い。
「エント〜〜本当に送って行かなくて良いの〜〜??」
「ジャイ兄さんに空で送って貰うってのは、物凄くお願いしたいんだけど、いや……ここはやはりジャイ兄さんに送って……」
「兄さん!! 甘えたら自分の為になら無いって言ってたのは兄さんでしょ!? 許さないよ!?」
「クッ!! 誰に影響されたのか厳しい妹……だけどナナーー!?」
バチバチバチバチ!!
ナナの両手には、青白い電気が迸る。
「ユルサナイ……ヨ??」
《「ひぃ」》
「あらあらまぁまぁ。何だかんだいつも通りな感じねぇ。ナナはヒスイ姉さんによく似てしっかり者だから、エントを頼むわね??」
「クイン姉さん、俺これでもお兄さんなんだけど……」
「あらあらまぁまぁ、エントは少し大きくなったけど、何だか危なかっしくて心配なのよねぇ」
ファミリア全体で笑い巻きが起こる。
《ほっほっほ、そろそろ頃合いじゃ。エントにナナよ、もはや多くは語る必要はあるまい。多くを見て感じ、自分を知り、考え、行動するんじゃ。そうすれば、どんな宿命も運命に変えられるじゃろうて。気を付けてのぉ》
「「分かった」」
「エ、エント!!」
アラ子姉さんがもじもじしてやって来る。
「あ、あんた達が人間の町に行くんなら、その左眼のままじゃカッコがつかないと思って作ったんだ。有り難く受けとんな!!」
顔を真っ赤にして手渡してくれたものは、姉さんの糸で編んだ黒い眼帯だった。
「アラ子姉さん……俺の為に有り難う」
ナナにはしっぽと角を隠せるフード付きの黒いワンピースをプレゼントした。
「可愛いぃい!! 有り難うアラ子姉さん!!」
「お、お姉さんなんだから当然だろ!?」
「ふふふ、アラ子はそれを作る為に猛勉強してたものねぇ」
(勉強?? なんの事だろう??)
「ちょ!! ヒスイ姉、それは言わないって約束じゃないかい!!」
「ナナは『隠蔽』を習得出来たけど、エントは闇属性に適性が無いから念の為にって、アラ子が頑張って魔導具を作ったのよ』
(これって、魔導具なの!?)
「その眼帯は『隠蔽』の効果が付与されていて、ステータス画面を見て隠蔽したいスキルやステータスに魔力を流せば、好きなように変えれる優れ物なのよ」
「す、凄い!!」
隠蔽はナナが対応してくれる予定だったけど、もしもの時、自分で使えるのならそれにこしたことはない。
恥ずか死にそうなアラ子姉さんは、顔を紅に染めて走り去り、ジャイ兄さんの上へと撤退していった。
「さて、私からは注意事項の最終確認よ。エントは木属性魔法に木霊。ナナは雷魔法に変身。これらは命が危ない時以外は、けして人前では使わない事。良いわね??」
魔物がよく使う魔法に、はたまた過去戦争の火種にもなったスキルなのだ、人前で使えばどうなるかは想像しなくても分かる。
「「うん」」
「宜しい!! あと種族は必ず人族に隠蔽する事と、ステータスは他人には絶対見せない事。決して忘れないでね??」
「「はい!!」」
「ふふふ、返事だけは立派になって……二人共行ってらっしゃい」
少し涙声になったヒスイ姉さんの微笑みを見て、胸が苦しくなった。
俺は泣いてなんかいない……いないったらない。
ただちょっと、空を見て天気を確認してるだけだ。
バシッと締まらなかったけれど、こんな旅立ちも俺らしくて良いかなって、そう思った。
「じゃあ、行ってきます!!」
「みんな、行ってきます!!」
魔王樹ファミリアの皆に見送られて、俺達は確かな一歩を踏み出した。




