第52話 居場所
《何故じゃ……友よ》
「そぅ、今すぐと言う話ではない。ただ、この子達の事を思うなら、一度外の世界を見せるべきだと私は思うわ。何故か……の答えは、過去にジャックの件があったからと言えばわかるかしら??」
《……》
「貴方はリーダーとしても、父親としても優秀だとそう思う。そして何より愛情深い。一見とても良い事に思えるけれど、時としてそれは子供達を苦しめる事にもなりかねない」
彼女は兄弟達をぐるりと見渡す。
「ヒスイ達は人の生活する村や町に行きたいと思う??」
「有り得ない。危険しか無い場所に、わざわざ行来たいとは思わないわ」
「あたいもないね。正直、人が作る服なんかには興味あるけど、人族がわらわらいる場所なんざこれっぽっちも行きたいとは思え無いねぇ」
「僕も〜〜この森がお家だから〜」
「シュ、シュシューシュ」
「キラ兄と同じよ!! 私がすべき事はこの森にあるわ!! それに刺す相手は幾らでもいるからね!!」
「あらあらまぁまぁ、私も子供達がいるこの場所が一番ねぇ」
彼女の質問に対して、姉さん達の答え概ね予想通りだった。
「じゃあエントはどうかしら??」
え、違うの?? みたいな顔でみんな見てくる。
「……」
《ほっほっほ、エント、正直に答えてみるとえぇ》
「……いつか、いつか色々な場所を見てみたいかな。結局の所、ここが俺にとって帰って来る場所なのかも知れないし、もしかしたら、他の場所を見つけるかも知れない。ただ、皆を見ていると、自分の意思でちゃんと居場所を決めていて、それを今は羨ましく思ってる。多分、それって探したいって事なのかもしれ無い……かなって」
「そぅ、エントは純粋な魔物ではない。ナナについても今後どう考えるようになるかわからない。だからこそ、今のように考える事も彼らにとっては当たり前の事なのよ。これで分かったかしら??」
《ほっほっほ、こりゃ一本取られたのぉ。儂はいつも大切なところで間違えそうになる。友よ有り難うの。また間違うところじゃったよ……》
「良いのよ。家族の話に口を挟んで悪かったわね」
《ほっほっほ、可愛い子には旅をさせよと言う事じゃのぉ。じゃがこの子達はまだまだ未熟、ナナは来たばかりじゃし、はてさていつ頃とするのが良いか……》
「この世界では、人族は十四歳から成人扱いされているし、エントの話を聞く限り、彼は九歳位でナナも同じ様なものでしょう。あと五年、それまでに、ここで生き残る力を磨かせるのが良いんじゃないかしら?? それに、早すぎる別れは魔王樹も兄弟も辛いでしょう??」
「あ、あたいは嫌だ!! こんな弱っちくて、アホなエントが人の世界に行くなんて、直ぐに騙されて肉にされちまうのがオチじゃないか!!」
いつの間にか俺達の後ろにいたアラ子姉さんに、思いっきりハグの刑にされる。
「ね、姉さん、胸ぇ……息ぃ……」
《アラ子〜〜エントなら大丈夫だよ〜〜本当は分かってるでしょう〜〜??》
「シューシュシュ」
「そうね、キラと同意見。別に一度旅立つからと行って、二度と会えなくなる訳じゃないし、心配するのならその部分を教えてあげるのが、お姉さんの役目じゃないの??」
「あぅあ……あぅ」
アラ子姉さんの胸で苦しんでいるのを見て、ナナが助けようとするのまでは良かったがーー
ガバ!!
「嫌だぁあ!! やっと、私にも弟と妹が出来たのにぃ!!」
「ぁう!?」
可哀想に、ナナも巻き添えになる。
アラ子姉さんは人一倍警戒心が強いけど、愛情も人一倍だからな。
苦しいけれど、少し震えながら泣き叫ぶアラ子姉さんの言葉に、どこか胸の辺りに暖かいものを感じた。
(顔に当たる胸も暖かーー息がぁああああ!!)
なにわともあれ、その後アラ子姉さんも渋々納得してくれたようで、ようやく俺は息を吹き替えした。
俺はだいぶん後になってからも、良くこの日の事を思い出す。
あの時、旅人さんが話をしてくれなかったら、じぃちゃんやファミリアの皆に甘えるだけ甘えしまった後、自分のしたい事がもし見つかったとしても、申し訳無い気持ちで、言い出せずになっていたかも知れない。
それはそれで良いように思えるけれど、俺が決めた生き方とは違っていただろう。
その日以降、俺の生活は大きく変わった。
朝起きてから午前中は、ナナに読み書きや簡単な算数を教えつつ、料理を一緒に作ったり、兄さん姉さんの仕事が大変な時は手伝いしたりと兎に角忙しい日々を送った。
ナナは最初は警戒心が高かったけれど、俺より根本的に肝が座っているのか直ぐに慣れて行った。
言葉を覚え始めてからは「にぃちゃ!! にぃちゃ!!」と呼んで来て、心がキュンとしてしまうのは自然な事だ……自然な事だよね!?
俺はどんどんシスコン化しているのだろうか。
自分が少し怖い。
午後からは、ヒスイ先生の魔法授業をナナと何故かアラ子姉さんと一緒に受けた。
アラ子姉さんには、もう必要ないんじゃないかとも思ったけれど、別れが明確になって、少しでも一緒にいたいのだとヒスイ姉さんがこっそり教えてくれたので、何も言えなくなった。
そうそう、魔法の授業で驚いた事がある。
ナナが初めて水心の儀を試した時、例の殻の中で、水の上を浮かぶ葉っぱが、バチバチッ!!っと青い電気を走らせ、バラバラになった事だ。
雷属性は無属性よりもさらに珍しく、本来は複合魔法でやっと発生させられるような魔法らしい。
他にも闇属性の才能もあり、珍しいものだらけのナナだったが、生活魔法はやっとといった感じだ。
ナナに闇属性の適性がある事を知ったアラ子姉さんは、自分と同じだと滅茶苦茶嬉しかったのか、いつもより強力なハグの刑が発動し、危うくナナが死にかけたのは今となっては良い思い出だ。
家族との楽しく忙しい時間は、あっと言う間に過ぎ去って行きーー
俺は十四歳になった。




