第51話 ナナ
少女の着替えが終わり、じぃちゃん達と合流した。
アラ子姉さんが即席で作り上げた黒いワンピースには、お尻の部分に穴が有り、しっぽが出せるように改良されていた。
少女もお気に召したようで、髪の毛と同じ青みがかった銀色のしっぽをブンブンと今も振っている。
「そぅ、魔族の角にしっぽ……さすがホムンクルスね。色々混じっている」
小さな顎に手を置き、旅人さんは興味深そうにそう言った。
《さて、ある程度話し合いは進んでおっての。まずは、ファミリアにその娘を入れるのはみんな問題無いと言うとる。但し、基本エントが面倒を見る事が条件じゃ。しかし、それとは別に中々決まらぬ問題があってのぉ……》
皆、うんうんと首を縦に振り、困った顔で頷く。
想像以上にあっさりとファミリアへ加入出来て良かった反面、気になる事案が有りそうだ。
「問題??」
《その娘の名前じゃあああ!!》
思わず転けそうになったが、確かにいつまでも『この娘』とかは不便だし、一生付いて回るものだから大事と言えば大事だ。
魔王樹ファミリアにおいて問題が起こった場合は、基本的にじぃちゃんや兄弟達の同意を持って決めるルールになっている。
(俺の時はじぃちゃんのゴリ押しだったみたいだけど……)
《儂はホムンクルスからとって、ホム子がえぇと思うんじゃ!!》
「浅はか!! 女の子なんですよ!? やっぱり銀髪を異国語に変えて、シルバーのシルちゃんですよ!!」
「ヒスイ姉さん……どうしてあたいの時に、頑張ってくれなかったんだい……うぅ」
「あらあらまぁまぁ、やっぱり、順番て大事だと思うから、数字を文字ってキュウちゃんなんて、良いんじゃないかしら」
旅人さんは外野で楽しそうに微笑み、見守るポジションで居るようだ。
(名前かぁ、女の子の名前を考えるなんて今までやった事もないしなぁ。ゲームのキャラクターとかでは結構あるけど、どうしてもカッコイイ名前を付けたくなるから……アルテミスだとか、アテナとか、あ、でもこの世界では実際に女神がいるし、そんな名前を付けるのは何だか良くない気がする……んーー)
キラ兄さん、ジャイ兄さんは不参加表明なのか白熱した場所から距離を取ってだんまりを決め込む。
さすが兄さん達、こういうのも隙がない。
そこから一時間経っても、少女の名前は中々決まらなかった。
みんな肩で息をして、少し間が出来た時だ。
「そぅ、エントはどう思うの??」
まさかの旅人さんからキラーパス。
「え゛??」
ヒートアップしている兄弟達が一斉に俺をギラリと見た。
《ほっほっほ、まぁホム子よりえぇ名前はないじゃろうが、エントもファミリアの立派な家族じゃ。言うてみぃ》
「シルちゃんより可愛い名前があるのなら、キイテアゲルヨ……」
「いつ刺しても良い子で、刺っちゃんが良いよ!!」
「あらあらまぁまぁ、キュウちゃんが一番ですよ」
(な……なんだこのプレッシャー。あと、どさくさに紛れて刺っちゃんてなんだよ!?)
「そ、そうだなぁ。俺ならーー」
隣に引っ付いてる少女を見て思い浮かんだ名前。
「『ナナ』が良いかな」
急に胸の辺りがチリッと痛む。
「あ゛ぅ」
少女も同じなのか、胸を抑え少し苦しそうにしていた。
「大事か!?」
「はぁ…はぁ…」
突然の異変に皆集まったが、大事には至らず直ぐ元に戻ったようでほっとする。
《これは……まさか》
「そぅ、そういう仕掛けなのね」
『鑑定』
何故か旅人さんは、再び少女に触れて鑑定した。
「やはり、名前が『ナナ』になっている」
《「「「……」」」》
「エント〜〜??」
ヒスイ姉さんが素敵な笑顔で、何か呪いのような事をブツブツ言いながらこちらにゆらゆらと近付いて来た。
近づくに連れ聞きたくなかった声がーー
「……ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ」
(い、いやぁあああああああああ!!)
『身体強化』!!!!
足に全力で魔法をかけると、一刻も早く逃げようとしたが、身体が痺れて動けない。
「!?」
あれ?? はは……太ももに何かが刺さってるぅ!?
見慣れた派手な模様のお尻と、貫通した針。
ふわりと甘い蜂蜜の香りと伴に、耳元からは呪文のような囁きが聞こえた。
「……ユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズユルサズ」
「ひやぁああああああああああああ!!」
《ひぃ……》
(だからなんで、じぃちゃんも怯えてんだよ!? ぎゃぁぁぁ!!)
閑話休題
俺は少し唇を尖らせながら、毒消し草を太ももに塗り込むと、回復魔法をかけながら再び話し合いに参加した。
《ゲフンゲフン、さて正式にその娘の名前が『ナナ』と決まった故、これからナナをファミリアとして迎える事とする。魔女の契約は少々特殊での、ただ友と調べた結果、内容的には問題無さそうじゃ。それと、最初に話した通り、ナナはエントが面倒を見るようにのぉ》
(ま、俺が決めた事だからな)
「分かった」
《ほっほっほ。では話し合いはここまでじゃ。他の子らも協力を惜しまないようにのぉ》
やっと長い話し合いが終わり、立ち上がろうとした時だ。
「ちょっと、良いかしら??」
ここに来て旅人さんが、片手を上げて発言を求めた。
《……友よ。分かっておるとは思うが、これはファミリアの話し合いじゃぞ??》
「そぅ、分かっているわ。ただ助言だけさせてくれないかしら??」
《……ふむ、聞こうかの》
「そぅ、有り難う」
旅人さんからの話だ、世間話、なんて事は無いだろう。
皆、改めて腰を降ろすと彼女の言葉に耳を傾けた。
「単刀直入に言うと、エントとナナはここを旅立つ方が良い」




