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第48話 神水

 

 聞き慣れた声とどこか安心する香り、気付いた時にはその人の腕の中にいた。


 彼女が持つ輝く杖は神々しいまでの光を放ち、迫った闇を寄せ付けない。


「旅人さん!?」


「そぅ、ゆっくり話したいけれど、今はこの場を納めるのが先ね。と言っても、この状況を見れば、ある程度の予想は付くけれど」


《友よ》


「おや?? 旅人、久しぶりだな。何をしに来たか知らないが、今は取り込み中でな、邪魔立てするならお前も消すが??」


 しかし彼女は魔女の脅しなど気にもせず、魔王樹や深淵の魔女を見た後、辺りをぐるっと見回した。


「そぅ、ちょっと待ちなさい。なるほど……なら……うん、大丈夫そうね」


 相変わらずな理解不能の独り言を呟き始めると、少し考えるような素振りを見せた後、何か結論付けたのかその顔を上げた。


「魔王樹、貴方の()()、エントに与えるつもりなの??」


《そうじゃのぉ。説明した後、エントが受け入れるのであれば、与えようと思うとるの》


「そぅ、深淵の魔女、貴方はいつも通り自分の研究欲の為、あれがどうしても欲しいのね??」


「そうだ。私が私である為に、この行動は必要不可欠だからな」


(さっきから、何で俺が出てくるんだよ!?)


 なぜ俺が関わっているのか分かる訳もなく、黙って様子を伺う他なかった。


「そぅ、魔王樹。エントに私から説明してもいいかしら??」


《……構わんよ》


 そう言うと、旅人さんは俺を正面に向けると目を合わせ、口を開いた。


「そぅ、エント良く聞きなさい。あの名も無き魔王樹の花は、ただの美しい花ではないの。あれは、『ソーマ』と呼ばれるモノを作り出す【禁術】」


「さっきから出て来るその『ソーマ』ってーー」


「『ソーマ』とは、霊薬と呼ばれたり、神水と呼ばれる代物で、それを口にした者は、永遠の命を手に入れる事が出来ると言われている伝説級のアイテム。恐らくあの花の中にはそれがもうある」

 

「えぇ!?」

 

 思わずじぃちゃんの星花を見る。


 どうしてそんな代物を、俺に飲ませたかったのか理解出来ない。


「じぃちゃん、今の話は本当なの??」


《……友が説明したのは、本当の事じゃ》


 普段じぃちゃんの言動は、突拍子もない事は多かったけれど、その目的はいつもはっきりしていた。


 しかし、今聞いた行動はまるで理解出来ず、理解出来ないからこそ戸惑ってしまう。


(何故ーー)


 俺の性格を良く知っているじぃちゃんは察してかその理由を話始めた。

 

《儂は長い長い年月を生きてきた。それはもう冬が何百回と過ぎた程にのぉ。恐らく儂の寿命はもう終わりに近づいとる。そんな中、最近になって、また大切なモノが出来たんじゃ。そう、お主じゃよエント。夏の初めに、蝉の話をしたのは覚えておるじゃろ??》


 この夏の事だ、忘れるはずもなく、直ぐに記憶を引っ張り出すと確かめるように頷いた。


《お主は蝉の寿命の短さに疑問を持ち、悲しんでいたじゃろう??》


(確かに余りにも短く儚い命に、悲しさや寂しさを感じたのは嘘じゃない)


《あの時……儂はお主と同じ気持ちじゃったんじゃよ》


「どういう事??」


 まるで意味が分からないでいた。


 一緒に蝉を見て一緒に悲しいと思った事を、何故わざわざこのタイミングで言うのだろう。


《お主は蝉を、儂はエント(・・・)、お主を見てそう思っていたんじゃよ》


「!?」


 それは詰まり……


《今言ったように、儂の寿命は恐らく残り少ない。じゃが、それでも数百年は生きてしまうかもしれん。しかしお主は人魔となったとはいえ、恐らく百年生きられるかどうかじゃろう。勝手な我儘と言えばそれまでじゃが、回避出来る術があるのなら、やらずにはいられんのが親と言うものじゃ……》


 じぃちゃんは紅い大きな目を伏せ、何処か寂しそうだった。


(あぁ……そういう事だったのか)


 親の気持ち子知らずとは、よく言ったものだ。


「そぅ、つまり魔王樹は、貴方に長く生きて欲しくて『ソーマ』を作った。【禁術】を使ってまでね。貴方は知らないかもしれないけれど、【禁術】とはこの世界アデナの均衡を根本から崩しかねない危険な術式、それ故に普段から禁術を使える物同士で干渉し合っている代物」


「でも!! 他に兄さんや姉さんだっているじゃないか!! 俺だけなんておかしいだろ!?」


 そう言って、兄さんや姉さんを見れば、みんな予想外の表情で俺を見詰めていた。


「エント、私達はみんな純粋な魔物。貴方は自分も同じだと思っているかもしれないけれど、純粋な魔物やさらに知性を持つ魔物はこの世界では希少で実は長生きなのよ。長女である私でさえ、少なくともまだ数百年は生きられる。だから……もしエントが望むなら構わないと、爺と皆で話し合っていたの……黙っていてごめんなさい。でもそれは!! ファミリアの皆、もう貴方が家族として好きで、大切で、大事で、もっと沢山一緒にいたいって、そう思ったから!! だから……」 


 ヒスイ姉さんの綺麗な瞳に、スゥッと涙が浮かぶのを見せられ、胸がギュッと締め付けられるような、そんな切ない気持ちになった。


《無論、儂らの一方的な思いじゃ。無理強いはせぬ》


(永遠の命か……)


 今までそれを願わなかった事が無いとは言えない。


 小さい頃、夜になると不思議と毎晩、死について考えた。


 その度に自分の意思や記憶が無くなってしまう事に震え、恐怖したのを思い出す。


 そうだ、死が無ければどんなに良いだろうかと何度も思ったっけ。


(俺はどうすれば良い)


 旅人さんを見ても、「エント、これは貴方の選択。自分で考えなさい」と、至極当然に返される。


「はい……」


 死からの解放。


 過去の世界でも王様や皇帝と呼ばれる数多くの権力者達でさえ、最後の最後まで求めて止まなかったもの。


 そして、それは誰一人として手に出来なかった。


 選択する必要も無い選択。




 普通(・・)なら。



 

 何故か俺は悩んでいる。

 

 何故、悩んでいるんだ??


 ひとたび永遠の命を手に入れた自分を想像すれば、死からの解放によって、涙を流して喜ぶだろう。


 食べたい物を食べ、見たい物を見て巡り、遊びたい時に遊び、それはそれは幸せなのかも知れない。


 だけど……その後は??


 もしかしたら、飽きる。


 それだけじゃない。


 じぃちゃんが死に、魔物である兄弟達さえも見送り、新しく愛すべき者が出来たとしても、また永遠と見送るのだ。


 それは、余りにも辛い。


 そんな悲しみを抱え、永遠に生きるという事。


 それは言うなれば呪いと言っていい。


 食べ物は味気無く、見る風景は全て灰色と化し、無気力となるだろう。


 やがて惰眠を貪る毎日になるかも知れない。


 それは果たして、本当に生きているって言えるのだろうか??


 ふと、あの時の蝉を思い出す。


 夏の歌を精一杯歌う、あの蝉だ。


 力強く、それでいて生命を感じさせる存在感。


 あの蝉は確かに生きていた(・・・・・)




 「じぃちゃん有り難う。俺ーー」

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いつも読んで下さりありがとう御座います!

劣等魔族の成り上がり〜病弱なこの子の為にダンジョンで稼ぎます〜


こちらの新作も是非お楽しみ下さい!
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