第46話 花見
それから一週間が経った。
《エント〜〜ここで良いかな〜〜??》
「ジャイ兄さん有難う。そこから順番に石を並べてくれる??」
今日は朝から、超長い焚き火場を準備している。
じぃちゃんが昨日の夜、《いよいよ明日じゃ》と急に言うものだから、急遽大忙しとなった訳だ。
「エント持って来たぞ!! こんな長さので良いのか!?」
アラ子姉さんが、以前釣りの時に見つけた竹っぽい木を束にして持って来た。
「アラ子姉さん丁度良いよ、有難う!! キラ兄さんは、その木の線の外側をどんどん切って行ってくれる??」
「シューシュシュ!!」
《ふふふ、朝飯前だって言ってるわ》
ヒスイ姉さんは通訳しながら、今日初めて披露する予定の料理を火加減に気を付けながらかき混ぜてくれる。
「イチ、頼みがあるんだけど、クイン姉さんに魔王茸を分けて貰う手筈になっているから、手の空いているキラーアント達と協力して持って来てくれるかな!?」
《わかった……お……おじさん》
イチも以前と比べ、だいぶ言葉が上手になった。
「お、弟よ!! この私に仕事を振らないなんて!! 刺して欲しいの!? ねぇ!? 刺して良いって事!?」
いつものようにずり落ちそうな可愛らしい王冠を抑え、ヒメ姉さんがブンブン俺の周囲を飛び回る。
「も、勿論!! 勿論あるから刺さないで!!」
やばい……考えてなかった。
考えろ!! 考えるんだエント!! ひぃ……お尻から針が!?
「そ、そうそう!! ヒメ姉さん達は、作って貰ったお皿をここに持って来て。そのあと、焚き火用に枯れた枝なんかを、あそこにどんどん集めておいてくれると助かるよ。だから、針しまってってば!!」
何度かヒメ姉さんの手伝いをしている最中、ふと閃いて姉さんが作る巣の原料を使い、器やお皿などの形にしたところ、思いの外上手く行った。
作る工程さえ見なければ、ヒメ姉さんが巣の練習で作っている粘土状の原料は、食器を作るのにも非常に適していたのだ。
それからも工夫を重ね、ヒメ姉さんが、あれで作った粘土に、粗めの砂を少し入れ、空気を抜く為に練り込むと、遠火で乾燥させてから、真っ赤に燃える焚き火で焼き上げてみた。
結果、赤味がかった立派な食器が出来上がったと言う訳だ。
(あの時は、滅茶苦茶興奮したなぁ……)
「分かったわ!! 取り敢えず、お皿を刺しまくれば良いのね!?」
「違うからぁあああ!! お皿刺してどうするの!? 持って来てくれるだけで良いんだよ!?」
《ほっほっほ、なんじゃか凄い騒ぎになって来たのぉ》
「うひょぉおおお!! うひょぉおおお!!」
じぃちゃんを囲むように石の焚き火台をセットして、兄さん姉さん達に頼んでいた用事が終わった頃には、あっという間に夕暮れ時になっていた。
他のファミリア達もぞくぞくと集まり出して来たので、慌てて料理をサクサク仕上げて行く。
ヒスイ姉さんに見て貰っていたビッグボアのスープに、俺が育てていたタマネギに似たタマン、ニンジンぽいニジンを一口サイズに切り分け、魔王茸と干し肉をちぎって投入する。
「ふぅ……あとは、野菜に火が通って塩で味を整えるだけだ」
隣では、キラ兄さんが焼肉用の肉を食べやすいサイズに切り分け、それをヒメ姉さん達ハチ部隊がどんどん運んでくれる。
準備が終わり、一息ついて集まったファミリアをぐるりと見渡せば、改めて凄い数の魔物に圧倒される。
それもその筈、実は今回、甲角一族も招待したので更に数が多い。
《魔王樹よ。甲角一族への招待感謝する》
《ほっほっほ、沢山集まってくれて嬉しい限りじゃ。じゃが、企画したのは息子のエント、お礼はエントにしてやって欲しいの》
《そうか……エントよ、有難う》
「え!? いやいや、俺も修行とか言って無理を聞いて貰ってるし、全然気にしらないで楽しんで行って下さい!!」
そんな喜ばしい挨拶を済ませると、焚き火に火を灯しいよいよ花見が始まった。
まだ花は咲いていないけど、みんな目の前の料理が珍しいのか、徐々にその場が盛り上がっていった。
肉を食べる者は石板で肉を焼き、野菜好きは野菜好きで、生で食したり焼いたりと、好き放題に食べまくって大好評のようだ。
竹っぽい木で作った器には、特製ボアスープを入れて配ったところ、これがまた凄まじい人気ぶりで、直ぐにおかわりが殺到し、あっという間に行列が並んだ。
(嬉しいんだけど、忙しすぎてまるで休めん!!)
クタクタになって一段落した頃には、辺りはすっかり暗くなっていたけれど、焚き火の明かりと満月の月明かりで言うほど暗くはない。
《時は来た》
突然、じぃちゃんがそう呟くと、みんな口を閉ざして蕾を見上げた。
夜見る蕾はその薄暗さも相まって、漆黒に染まっているように見えたが、徐々に開き行く度に、徐々に青白く輝き出した。
一枚また一枚と、花が開く度、光は強くなる。
花びらは何百、何千もの無数の数に見えたけれど、途中からもう眩しくて、数えてなどいられなくなる程だ。
「なんて……光だ」
例えるのならそれは、まさに星だった。
強烈に輝く星を目の前で見ているような錯覚に陥る。
敢えて名前を付けるとすれば、『星華』なんて名前だろうか。
《ほっほっほ、エントよ、どうじゃ、美しいかのぉ??》
「じぃちゃん、こんな凄い花みた事無いよ!!」
(本当に凄いものを見たら、言葉が出ないってのは本当だったんだな)
《良く刻み置くんじゃよ。良き想い出はこの世において至宝の一つ。誰にも奪えぬ自分だけのもの。そして、想い起こせばまた幸せにしてくれる素敵な宝じゃ。この先、お主に辛い事が起きようとも、それはきっと、お主を助けてくれるじゃろう。そんな素敵なものじゃから……》
「魔王樹よ……それは禁術であろう??」
闇夜の森から唐突に、じぃちゃんの話を遮る者がいた。
それは、酷く冷たい声だった。




