第45話 夏の歌
ジィィィィィィィィ ジィィジジ……ジ……
最近では、蝉の音も少しづつ静かになり、夜もまた涼しくなって来た。
夏もそろそろ、終わりに近付いているのだろう。
「ねぇ、じぃちゃん。この世界には俺のいた世界と似ている部分が結構あるよね??」
ふとそんな事が思い浮かんで、じぃちゃんの硬い枝を落としながら尋ねた。
《ほっほっほ、そうじゃのぉ。この世界には過去に何度か異世界から召喚された者達がおっての。その者達が広げた文化が混ざり、良くも悪くも似ておる部分があるのは事実じゃな》
「召喚か……なるほど」
ヒスイ姉さんから聞いた過去の話、そして、あの手術の時に見た夢が現実だとしたら、彼らは召喚された者かもしれない。
「それと魔物は別にしても、植物や昆虫も似たような生き物が多いよね??」
じぃちゃんから落ちた力尽きた蝉を見る。
《ふむ……もしかしたら、この世界を作った神様はエントのいた世界を作った神様と近しい存在なのかもしれんのぉ》
案外じぃちゃんの予想は的を得ているような気もしたが、神様の事情なんて俺に分かるはずもなく、今度は別の事に興味が移る。
「そう言えば、こっちの蝉の寿命もやっぱり短いの??」
《そうじゃのぉ。数十年地面の下で育ち、地上に出て夏を歌うのは、やはり一週間程度じゃな》
「そっか……蝉って不思議だよね。昔から思ってたけど、地表に出てからちょっとしか生きられないのに、何故か存在感があるっていうか……」
《刹那的な時間を一生懸命生きるその様は儚く美しいのぉ。じゃから惹かれてしまうのじゃろうて》
「ここに来てから、ファミリアの皆に大切な事をたくさん教えて貰ったけど、一生懸命生きるって簡単なようで凄く難しいってわかったんだ。そう思って見ると、蝉ってやっぱり凄いなぁ……」
《……そうじゃ。儂の花はもうそろそろ咲く予定じゃ。楽しみにしておくとえぇ》
「本当!? 結構頑張って手伝ってたけど、正直、いつ咲くのかずっと気になってたんだ。あのドデカイ蕾がそうだよね!?」
俺は顔を上げて、それを確かめる。
数十メートルにも及ぶ巨大な蕾は、薄黒い色をしていて、今からどんな花が咲くのか楽しみで仕方無い。
《ほっほっほ、そうじゃのぉ。次の満月……それこそあと一週間と言ったところかの。花開く時はファミリアの皆を集め、宴会と洒落込もうかの》
「それ良いね!! 皆が集まるなら、俺も料理頑張るよ!!」
《うむうむ》
ブォオオオオオン!!
《エント〜〜エンペラーの所に行くよ〜〜》
ジャイ兄さんがそう言って、迎えに来てくれた。
自作の飴を手土産に、あれを試したくてエンペラーの元へ行く予定だった。
うひょと俺は慣れた動作でジャイ兄さんに乗ると、甲角一族の住んでいる森へとさっそく向かった。
「エンペラーさん、ついでにシャドウこんにちわ!!」
《よく来たな、エント》
《テメェ!! ついでって、どういう意味だ!! ああ!?》
エンペラーとシャドウの他にも、俺達が来た事を知って巨大カブトムシやらクワガタがぞくぞくと集まって来る。
俺はシャドウをからかいながらも手土産の飴を配っていく。
《うみゃああああああ!!》
シャドウが目を輝かせ、うまうましている光景は、なんだか笑ってしまった。
(あいつも喋らなかったらカッコイイのにな……)
《エント、土産に感謝する。ところでジャイアンから聞いたのだが、私に頼みがあるそうだが??》
《よく分から無いけど〜〜お願いがある事を〜伝えておいたよ〜〜》
「ジャイ兄さん有り難う。エンペラーさん、実は俺、やってみたい修行があって、是非、協力して欲しいんだ。上手く行くかは分からないんだけど……」
《ほぅ、面白そうだな。言ってみろ……》
ここまで来たらわかるだろ?? あれだよあれ!!
【グラビティ】
「うぉ!? こ……これは思ったよりキツイな!?」
《これが一番弱いのだがな》
そう!! かの有名なベ○ータ様が良くやっていた、あの重力トレーニングを試したかったんだぁ!!
男なら一度はやってみたいだろ!?
「うおおおおおおおお!!」
重力範囲内のギリギリ内側で、ランニングと言うよりかはウォーキング程度のスピードで、歯を食いしばりながら進む。
《ぎゃははははは!! 何だあれ!? 馬鹿な事やってらぁ!!》
シャドウが爆笑しながら野次を投げた。
(ふ……お前にはわかんねぇだろうが、これは男のロマンなんだよぉお!!)
《エントよ、これは効果があるのか??》
エンペラーも、俺の行動は奇妙に見えるのだろう。
「普段より重力で身体が重くなった分、負荷が増して全身の筋肉が鍛えられる……はず!! ぐぬぬぬ!!」
《ぎゃははは!! 阿呆だ!!》
少し離れた場所で尚も笑い転げるシャドウ。
《ふむ……シャドウよ。お前もエントと走ってみろ》
《え……えぇ!? エンペラー様!! 何故俺も!?》
《お前はエントに勝負で負けた。勝った者から学ぶの良いと思ってな。それとも何か?? 負けっぱなしで甲角一族ナンバー2を語るつもりではないだろうな??》
《ぐ!! わ、わかりやしたよ!! やれば良いんでしょ、やれば!!》
「ぷ……」
《テ、テメェ!! 今笑ったな!?》
俺は可哀想な子を見るような顔で、ゆっくりと頷き返した。
《ゆ、許さねぇ!!》
シャドウはカンカンに怒りながらエンペラーの作る重力領域に踏み込んだ。
《っうぐ!? や、やっぱりエンペラー様の『グラビティ』は、キッツイぜぇ……》
そんな形でシャドウとの重力鬼ごっこを開始したが、思った以上に真面目にトレーニングしてしまい、終わる頃には産まれた子鹿のような足になってしまった。
ヘロヘロな状態になった俺はエンペラーにお礼を言い、ジャイ兄さんとうひょで、暗くなる前にファミリアの元へ戻った。
帰り際、空から見た月は殆ど丸く、満月が近い事を知らせるのだった。




