第37話 俺達の戦い 修行編
甲角族との争いの後、直ぐにヒスイ姉さんが来ると、一緒にジャイ兄さんを回復魔法で治療した。
やっとの思いでじぃちゃんの所に戻り、気を失っていたジャイ兄さんにどうなったのかを説明すると、ジャイ兄さんは凄く落ち込んでしまった。
《ファミリアにまで迷惑かけて〜〜ごめんなさい〜〜》
「ジャイ兄さんは悪くない!! 俺が頭に来て、殴りかかったりしたから……」
「うひょ!! うひょ!!」
《でも〜〜》
《ほっほっほ、家族が馬鹿にされて怒るのは、至極当然な事じゃと儂は思うがのぉ》
「爺……それは良いけど、そんな条件飲んで良かったの??」
負ければ魔王樹ファミリアの少なくない縄張りが奪われてしまう。
「そうだよ!! ジャイ兄さんは勝負になるかも知れないけど、俺やうひょじゃ厳し過ぎーー」
「うひょぉおお! うひょおおお!!」
ガポ!!
「ん゛ーーーー!?」
『馬鹿にするな』って事のようだ。
《儂は勝てぬ勝負などせんよ。お主らなら充分勝てると思ったから提案したまでじゃ。その為の時間も取ったんじゃ。ヒスイ、さっそく甲角一族達との戦いに向け修行を組み立ててくれんかの?? 他の子らも必要とあらば協力するよう儂から頼んでおくし、皆にも協力して貰わねばのぉ。ほっほっほ》
どうやら、俺達の喧嘩はファミリアの喧嘩、という事になるらしく、大事になった責任感で目眩がしそうだ。
「ふふふ、イイデショウ……」
いつの間にかヒスイ姉の目元には、先生モードの時に装着しているメガネがギラリと光り、醜悪な悪党のようにグニャリと嗤笑した。
「いやだぁああああああ!!」
「うひょぉおおお!! うひょぉおおお!!」
《ヒスイ姉〜〜宜しくね〜〜》
(みんなやる気だけど、あの顔ちゃんと見えてる!? 絶対やばいって!!)
そして、またまた地獄の修行が訪れた。
やめたいのに、やめられない。
例えるのなら、それはまるでーーかっぱ○せん……じゃねぇよ!!
寝不足でいよいよ頭も可怪しくなって来た。
初めは常に身体強化を使い続ける事を義務付けられた。
薄くても構わないから、全身を強化するよう言われたが、これが滅茶苦茶難しい。
全身を身体強化するだけでも時間が掛かるのに、『常に発動』なのだ。
常にとはーー
「……痛!!」
真夜中、頭に何かが当たって、眠りそうになったところを起こされる。
「ぷっひょぉおお!!」
うひょが、目の前で木の実を投げ付けて来た。
もう何度も何度も、身体強化が解ける度に起こされている。
(マジかよ……こんなの出来る訳ねぇだろ!?)
そう思って隣を見れば、ジャイ兄さんは身体強化を全身に纏いながら器用に寝ていた。
修行開始と同時に、ジャイ兄さん、俺、うひょは、修行に専念する為に、常に一緒に行動する事になった。
(ぐぬぬ……ジャイ兄さんマジすげぇ。)
俺が切っ掛けで始まったんだと、上手く出来ない不満を飲み込み、再び身体強化に取り組む。
ヒスイ姉さん曰く、息をするのと同じように無意識で使えるレベルになって、初めてスタートらしい。
(ハードル高過ぎるよ……ジャイ兄さんと一緒なのは嬉しいけど、俺……生き延びられるのか……な……)
「痛!!」
(おのれ木の実!!)
初日は結局、殆ど寝ないまま朝日が昇り、朝食後はキラ兄さんと特訓となった。
当然、ここでも全身での身体強化で取り組む事になった。
睡眠不足による疲労もあって、中々集中出来ない。
「シュシューシュシュ!!」
《脇が甘い!! そこ、足の身体強化が解けはじめてるぞ!! と言っているわ》
「ぐ!!」
キラ兄さんは、魔法が解けそうな箇所が出来るとそこを徹底的に攻めて来る。
必死に解けた部分を強化しなおすと、今度は別が解けて来てしまう。
「がは!!」
(これ……ほんとにキツイ……)
ようやく休憩と言われ、その場で倒れ込んだ俺は、朦朧とする頭で他はどうしているんだろうと気になった。
ヒスイ姉さんが言うには、ジャイ兄さんはじぃちゃんと個別で稽古しているらしい。
キラ兄さんとの特訓は森の近くで行っている為、ジャイ兄さんの様子はまるで分からないけど、時折もの凄い音が聞こえて来る事から、相当激しい修行に打ち込んでいるんだと思う。
もう一人はと言えば、俺の近くにいた。
近くで……近くで口を開けて寝ているだと!?
(うひょ!! 貴様ぁあああああ!!)
俺が全然眠れて無いというのに、涎を垂らして風にゆらゆら揺られ、気持ち良さそうに寝ているうひょを見て、滅茶苦茶腹が立ったけど、怒鳴る余裕も既に使い切った。
小休憩が終わっても、キラ兄さんは容赦無かった。
「ゲボ!!」
溝落ちをぶん殴られて吹っ飛ぶ。
「シューシュー!!」
《集中しろ!! と言っているわ》
「ゲホゲホ!! すいません!!」
午後からは森の中で鬼ごっこを行うと言う。
(……もう殺して下さい)
但し、相手は兄弟達の中から日替わりで変わるらしい。
「エント!! そんなんじゃ、あたいを捕まえられないよ!! 移動する時は、少し脚へ多めに纏わせるんだよ!!」
「はぁはぁ!! クソぉおお!!」
「ち!! 馬鹿野郎!! ヤケ糞にやっても駄目なんだ!! 頭の方、身体強化解けてんじゃねぇか!! 纏い直せ!!」
…………
……
そうして激しい一日の終わりが近付いた頃、締めの修行が行われる。
《ほっほっほ。さて、今日の一本勝負と行こうかの》
午後の修行が一通り終わる夕暮れ時、ジャイ兄さんと俺との一日一回の真剣勝負が行われる。
向かい合うジャイ兄さんを見ると、あちらも修行が激しかったのか、至る所に傷が出来てボロボロだ。
(ジャイ兄さん……)
心臓の辺りがキュッと苦しくなった。
《はっけよぃ!! 始めぇえ!!》
俺は身体強化を、出来る限り厚く掛け突進する。
ジャイ兄さんも徐々にこちらに向って来る。
(ここでぇええ!!)
俺は昨日の事を思い出し、真正面から突撃しては角で引っ掛けられるのを反省し、ギリギリのところで巨大な角をステップで躱すと、側面から体当たりした。
ドン!!
ドサ……
「…………」
衝撃だけでふっ飛ばされた。
《ほっほっほ、今日もジャイアンの勝ちじゃ!!》
《エント〜〜大丈夫〜〜??》
「も……もっかい!! もう一回お願いします!!」
《ほっほっほ、ジャイアンが良ければえぇ》
《僕は良いよ〜〜》
《では……はっけよぃ!! 始めぇ!!》
「うぉおおおお!!」
ドサッ
ドサッ
ゴキッ
ドサッ
…………
……
「ま……まだだ……」
バタ
《エント!? 爺さん〜エントが〜!!》
《ほっほっほ、今日も頑張っておったからのぉ。禄に寝とらんようじゃし、少しだけ寝かせてやろうかの……》
遠くの方でそんな声が聞こえた気がする……
ベシッ!!
「痛ぁあああ!?」
頭に痛みが走り、思わず飛び上がる。
辺りを見れば、いつの間にか真夜中。
動揺している俺の前では、ニヤニヤしたうひょが木の実をスタンバイしている。
素早く身体強化を行い、俺はその感覚に集中していった。
俺達の修行は、まだ始まったばかりだ。




