第36話 俺達の戦い 前編
あの後、ジャイ兄さんから飴の感想を聞いたところ、「凄く美味しかった〜〜」と言ってくれて、俺はとても嬉しかった。
それからジャイ兄さんは、是非お友達にもお裾分けしたいと言うので、俺は心良く受け入れた。
(ジャイ兄さんのお友達かぁ……くふふ、凄く楽しみだ)
さっそく飴を作り、アラ子姉さんが作ってくれた巾着袋に入れると、直ぐにジャイ兄さんに乗ってその友達の場所へ向かった。
「うひょおおお!! うひょぉおお!!」
念の為という事で、シートベルト役のうひょも付いて来た。
《ごめんねエント〜〜みんな喜ぶよ〜〜》
「ジャイ兄さんの頼みだし、それに普段面倒を見て貰ってるんだから、恩返しさせてよ。寧ろ、お友達に会えるのが楽しみで仕方無いぐらいさ」
それから暫く飛んで行くと、ジャイ兄さんが徐々に下降し始めた。
そろそろ目的地なのだろう。
《お待たせ〜〜みんな〜〜例の飴持って来たよ〜〜》
薄暗い森の中で着地すると、ジャイ兄さんが友達を呼ぶ。
暫くすると、森の中からガサガサと音を立て、何者かがこちらにやって来るのが分かった。
《おせぇんだよグズが!! エンペラー様を待たせるなんて、やっぱりグズ以外何者でもねぇな!!》
(は……??)
文句を言いながら現れたのは、ジャイ兄さんと変わらない大きさのでかい真っ黒なクワガタムシだった。
さらに似たようなサイズのクワガタや、カブトムシがワラワラとやって来る。
その中で一際目立つカブトムシが、ドシンドシンと重厚な音を立て、現れた。
雰囲気で分かる。
恐らく、こいつがエンペラーと呼ばれるカブトムシだ。
全身は漆黒で覆われ、赤い血管のような模様が身体中に走り渡っていて、不気味に発光している。
角はヘラクレスに似て、とても長い二本角が生え、その角はノコギリの如く鋭い刃が沢山見て取れた。
凄い……凄いんだが……これは何か変だ。
《ごめんねみんな〜〜でも〜〜ファミリアの仕事もあるから〜〜》
《良いからさっさと、貢物をエンペラー様に出すんだよ!! このグズ!!》
《エント〜〜飴を渡して上げて〜〜》
《何だ!? 何故、人間なんかと一緒にいる!?》
《人間じゃないし〜〜僕の弟だよ〜〜》
《ぎゃははは!! 等々人間にも媚を売るグズになったのか!? 腹が痛てぇ!!》
《シャドウ……黙れ》
エンペラーと呼ばれるカブトムシが一言話せば、周りの者たちはピタリと口を止める。
《へ、へい!! エンペラー様!!》
エンペラは重い声で話し出した。
《ジャイアンよ、我ら甲角一族は人間などと仲良くする事などあってはならぬ……今すぐ殺せ》
《出来ないよ〜〜エントは弟だし〜〜それに人間じゃ無くて、今は人魔って種族なんだよ〜〜》
《ぎゃははは!! 皆聞いたか!? こいつどんだけ阿呆なんだ!?》
シャドウが笑うと、周りのクワガタやカブトムシ達も一斉に笑いだす。
《黙れ、クソ野郎共!!》
ジャイ兄さんが馬鹿にされて、黙ってるなんて出来なかった。
《あぁ!?》
《ほぅ……木霊を使えるのか》
《テメェ!! 人間だか人魔だか知らねぇが、俺達にケンカ売ろうってんのか!? あぁ!?》
《エント〜〜良いんだ。飴をプレゼントして帰ろう〜〜》
《ジャイ兄さんの友達と聞いて、楽しみにしていたのに……》
《はぁ?? 友達〜?? そんな訳ねぇだろ!! そいつは甲角一族最弱の腰抜け野郎だ!!》
ブチ!!
《取り消せよ……》
《あぁ!?》
《取り消せって、言ってんだろうがぁあああ!!》
俺は身体強化を足と拳に掛け、勢いよくシャドウに殴りかかった。
「!?」
捉えたと思った瞬間、シャドウは黒いモヤとなって、目の前から姿を消した。
《残念なのは、お前だよ間抜け!!》
今自分が駆け抜けた背後から、そんな声が聞こえた。
《エント!!》
ガキィン!!
間一髪のところで、ジャイ兄さんが間に入ってシャドウの両刃を受け止めた。
じゃなかったら、今頃俺は真っ二つにされていただろう。
《おいおい、グズが俺様に逆らうなんて、今日はどうしちまったんだ?? エンペラー様……良いですよね??》
《……構わん》
《ぎゃはははは!! 野郎共、教育の時間だぜぇえええ!!》
多勢に無勢の、一方的なリンチが始まった。
ドォオオン!!
《ぐぅ!!》
周りをぐるりと大型昆虫達に囲まれ、目の前でジャイ兄さんが吹っ飛ばされる。
「ジャイ兄さん!!」
「うひょぉおお!! うひょぉおお!!」
ジャイ兄さんは常に俺を庇い、脚の下で俺を守り続けて、沢山のクワガタやらカブトムシの攻撃を一方的に受け続けた。
やがてジャイ兄さん脚から力が抜け、殆ど動けなくなってもリンチは終わらない。
《も……もう、もうやめてくれぇえええ!!》
《ぎゃははは!! こういう事は徹底的にやっとかねぇとなぁ!!》
バキ……バキバキバキ!!
突然、目の前から俺とジャイ兄さんを囲んで、禍々しい黒い木が生え出した。
その木の一部が集まり、やがて一つの木の形になった。
《もう、その辺でえぇじゃろう??》
《魔……魔王樹だと!? テメェ等やっちまえ!!》
《待て、シャドウ》
突然の出来事に対して、即座に戦おうとするシャドウ達をエンペラーが止めると、じぃちゃんに向かって話し出す。
《今回の件、手を出して来たのはそちらが先。我ら甲角一族に一度でも刃を向けた者は、殺さねばならん掟だ》
《多勢に無勢でかの?? 何とも情けない一族じゃのぉ。ほっほっほ》
《……魔王樹よ。その発言、我らと戦争する……そう捉えて良いのだな??》
《ほっほっほ、別に今お主らを消しても……カマワンノダガナ》
「ひぃ!?」
激しい突風と伴に、本能が悲鳴を上げるほどの圧倒的プレッシャーが、辺り一帯を覆い尽くしていった。
(ま、まともに、い、息が出来ない……何だこの重圧!?)
甲角一族と名乗る昆虫達も、同じように苦しそうに藻掻いていたが、エンペラーだけは変わらない様子だった。
《じゃが、それではこの子達の為にならんからのぉ……》
じぃちゃんの放つプレッシャーは、話が進むに連れて次第に軽減されていき、やっと息苦しさから解放された。
《そうじゃ!! うちのファミリアと甲角一族で決闘しようかの!? それぞれ一人づつ戦い、先に二勝した方が勝ちじゃ。我がファミリアからは勿論、当事者のジャイアン、エントーー》
《何を勝手な事をーー》
「うひょおおお!! うひょおおお!!」
《ほっほっほ、やる気満々じゃし、うひょにするかの》
ドゴォオオオオオン!!
エンペラーは角を地面に叩き付け、怒りを爆発させた。
《……舐めているのか?? そんな雑魚共と真面目に決闘などーー》
《そちらが勝ったら、魔王樹ファミリアのこの一帯を甲角一族に譲ろう》
《……本気か??》
《本気じゃとも、但しお主等が負けたなら一族全員で詫て貰うからの。そうじゃのぉ、決闘日は今日から丁度一ヶ月後でどうじゃ?? それ位準備期間があった方が盛り上がるじゃろうて》
《……良いだろう。こちら側は誰を出すか決めたら使いを出す》
《楽しみじゃのぉ!! ほっほっほ》
こうして、甲角一族と俺達の戦いの火蓋は切って落とされた。




