第35話 甘々ですね!!
焼肉をした次の日、旅人さんはまたすぐに旅に出た。
岩塩や野菜の種なんかの代金代わりに、俺がちょくちょく作っていた糸巻き棒や、お手伝いで貰った蜜等を渡しておいた。
何度もいらないと断られたけど、なんとか受取ってくれるまで粘って良かった。
「次に来るのは夏の終わり頃かも知れない」と言われ、少し寂しい気持ちになった。
いつか成長したら、旅に連れて行ってくれるのだろうかとふと思う。
そんな事を頭に浮かべながら俺は今、じぃちゃんの枝を切っていた。
「じぃちゃん!! ある程度言われた所は切ったけど、他は無い??」
《ほっほっほ、良い感じじゃの。また伸びたら頼むからの》
じぃちゃんが花を咲かせてくれると言ってから、定期的にこの作業を何度も頼まれているが、どんな花か楽しみで苦にもならない。
そうそう、昨日みんなの前で宣言した通り、今日からファミリアの為に仕事を始める予定だ。
まぁ仕事と言っても、実際まだまだやれる事は少ないから、一つ一つやれる事から始めようと思う。
朝の瞑想と水心の業を終えてから、朝食を素早く食べ、キラ兄さんとの特訓までの間に、料理の仕込みを始める。
大きめの平たい石を火にかけて、焚き火を起こし、石を熱しておき特訓までに木の実を炒っておく。
ちょっと焦げ目が出来てたから大丈夫だと思うけど、特訓の時間が来た。
また今日も、キラ兄さんにボロボロにされた……
回復魔法をかけ治療したあと、昼食を食べまた焚き火に火をかける。
炒った木の実はよけて、今度はクイン姉さんから分けて貰ったアリ蜜を石の上に、なるべく広く拡げる。
何ヶ所か拡げ終わったら、温めてる間に炒った木の実を割り、中身を取り出しガツガツと砕き、ヒスイ姉さんから分けて貰った乾燥させた果物も、細かくナイフで刻んで下準備完了だ。
俺の記憶が曖昧で、順番が正しいのか怪しかったけど、多分問題無いだろう。
ある程度アリ蜜が温まって来たら、粗く粉にした木の実と刻んだ果物を投入して、全体的に馴染ませる。
後は待つのみ。
「うひょ?? うひょひょ!!」
「まだ駄目だよ」
《ほっほっほ、なるほどのぉ。あれを作っとるのか》
「じぃちゃんは、俺の記憶があるから分かるんだね」
《ほっほっほ。皆、喜ぶじゃろうのぉ》
「本当!? そうだと良いなぁ……」
ある程度水分が飛び、色が濃い茶色に変わったら、火を消して冷めるのを待つ。
そうこうしてる間に午後からの魔法の授業だ。
「さて、鬼ごっこも見事達成したエント君!! 次はなんと!!」
その時、俺は心の中で必死に祈る。
鬼ごっこはヒスイ姉さんと仲良くなれたから結果的に良かったけれど、どんどんエスカレートしていって怖いんだよ。
「身体強化をものにしよう!! です!!」
「え?? ヒスイ先生。無属性の修行なら、違う魔法じゃ無いんですか?」
「甘い、甘々ですね!!」
物凄く鼻息を荒くして、先生は叱った。
「無属性魔法は、確かに多種多様な変わった魔法が多いですが、難易度はかなり高くなります。その点、身体強化は比較的直ぐに使える分、軽く考えている愚か者が多いんですよ……愚か者が」
何も二回言わなくても……
「ふふふ、と言うのも身体強化は極めると、とても強力な魔法になるからです。実際、全ての身体能力が飛躍的に上がる為、戦う時も逃げる時も必ず役に立つ優れた能力なので、是非学んでおいた方が良いでしょう」
確かに少しは身体がしっかりして来たとはいえ、まだまだパワーやスピードは足りないと思う。
「そこで、エント君が頑張れるように、特別講師をお呼びました!!」
(特別講師!?)
ブォオオオオオン!!
「ぉおおおおおおお!! キタコレ!!」
凄い音と伴にやって来たのはそう!!
ジャイ兄さんだ!! ヒャッハー!!
《ヒスイ姉さん早かったかな〜〜??》
「ジャイアン丁度良かったわよ。と言う事で、エント君には身体強化を使って、ジャイアンと打つかり稽古をして貰います」
「勿論です!! さぁ、やりましょう!! 今すぐ!!」
「…………」
最初はやれるかしら的な挑戦的な顔だったのに、俺がちょっとやる気を見せた途端、ヒスイ先生は何コイツ的な軽蔑の眼差しをした。
なんて失礼な!!
《エント〜〜凄いやる気だね〜〜負けないよ〜〜》
そして、じぃちゃんの目の前に広がる草原で、さっそく打つかり稽古が開始された。
(あぁ……なんてこった。まさか巨大カブトムシと相撲をする日が来るなんて、これぞロマン!!)
俺の気持ちはもはや最高超だ。
しかし、いざ冷静に真正面から見てみると、あの二本の角の厄介さが良く分かる。
「うぉおおおおおおお!!」
兎に角、身体強化を纏い俺は突っ込んだ。
ヒョイ!!
あっという間に下角に引っ掛けられて投げられた。
「やっぱりぃいいいいいい!?」
ドサ!!
想像以上に角のリーチが長く、真っ向勝負は不利だ。
「なら!!」
身体強化を足に厚く掛け、角が届く手前で周り込んで突撃したが……
グルン、ヒョイ!!
ジャイ兄さんも俺の動きに合わせ、身体を回して簡単には近付かせてはくれなかった。
「ぐぇ!!」
《エント大丈夫〜〜??》
《ほっほっほ、エントが飛んどるのぉ。面白いのぉ面白いのぉ》
「エント君、身体強化を上手く使うんですよ」
「せ、折角ジャイ兄さんとやれるんだ……はぁあああああ!!」
…………
……
「ま……まだ……やれ……」
ドサ!
「そこまで!!」
俺は何度も何度も立ち向かって行ったが、結局、もうホントにこれでもかってぐらい投げられまくった。
《エント頑張ったね〜〜僕びっくりしたよ〜〜》
「ジャ、ジャイ兄さん有難う……また、またお願いします!!」
《ほっほっほ、よう頑張ったのぉ》
「えぇ、ジャイアンを呼んで正解でしたね」
《じゃあ夕方のパトロールしてくる〜〜》
「あ、ジャイ兄さん!! 待って!!」
《何〜〜??》
俺は朝から作っていた例の物を、ふらふらした足取りで急いで取りに向かった。
石の上に出来た物を見れば、上手く出来ているようで、ほっと息を一つ吐くと、大きめのそれを持ってジャイ兄さんの所に戻った。
「ジャイ兄さん!! 俺が今朝から作ってた特性の飴なんだけど、良かったら食べてみてよ!!」
《あめってなんだろ〜〜?? パトロールが終わったら食べるね〜〜エントありがとう〜〜》
ジャイ兄さんはそう言うと、カックいい背の羽を広げた。
ブォオオオオオン!!
内心その場でちょっと食べて欲しかったけれど、自分の事よりパトロールを優先するジャイ兄さんはやっぱりかっこいいと思った。
「ジャイ兄さんかっけぇえええ!!」
いや、我慢出来なくて叫んでた。
ちょっと先生、そんなに冷たい目で見ないで下さいまし、照れるじゃないですか。
「コホン!! それでエント君……その今言っていた飴って、私の分もあるのかな??」
「あ、ヒスイ姉さんこっちにあるよ!!」
ヒスイ姉さんを料理していた石板まで急いで案内した。
大き過ぎるのは食べ辛いからと、前もって砕いた欠片の中でヒスイ姉さんの一口サイズに合うものを選んで渡すと、姉さんはスンスンと匂いを嗅いで「甘い香りがするね」と言って、それをぺろりと舐めた。
「!?」
目を大きくして固まったヒスイ姉さんは、すぐに飴を口に放り込んだ。
「ど、どう!?」
「おいひぃ!! エントこれあみゃくておいひぃよ!!」
「よ、良かった〜〜」
肩に乗っていたうひょも、それを見てなのか頭をガジガジ噛んで催促してきたので、うひょの口にも入れてやる。
「!? むひょぉおおお!! むひょぉおお!!」
「口の中で長く楽しめる食べ物なんて面白いね。香ばしい粒は木の実かな??」
「そう!! 飴は舐めて楽しむのも良いし、噛んで食べるのも良いからファミリアの皆にも喜んで貰えるかなって思ってね」
「とっても素敵な食べ物だと思うわ!!」
突如、ボヨンと柔らかい双丘が俺の顔面を覆い、えらいえらいと優しく頭を撫でられる。
(おうふ……これは本当に作ってヨカッタナ)
そのあと姉さんに、飴は傷みにくい事と栄養も濃縮しているから豊富な事から、非常用の食糧に向いている事などを説明して、ヒスイ姉さんが作るお弁当におやつとして入れるのはどうかとか、非常用としてどのくらい作っておいた方がいいのかなど話し合った。
その日の夜の事だ
俺が葉っぱ布団に入って、今日の出来事を頭に浮かべて楽しんでいると、どこか遠くの方から微かに声が聞こえた気がした。
《うま〜〜い!!》
なんとなくジャイ兄さんの喜ぶ声のような気がして、とても良い気分のまま船を漕ぎ出したのだった。




