第30話 新たな力
《……それで、このままじゃと死んでしまいそうじゃから、木霊の応用を覚えたい、とな??》
今日は珍しい事に、じぃちゃんと俺の二人きりだったので、夕食の魔王茸を噛りながら思い切って相談してみた。
余談だが、今も食べているこの魔王茸はマジで凄い。
日頃あんなに激しく動き回っているのに、これを食べた後には筋肉痛など一度もしなかったし、寧ろ調子が上がっている気さえする。
初めての『鬼ごっこ』から数週間が経ったが、全然成果は上がっていなかった。
このままでは精神も肉体も死んでしまう、そう思った。
回復魔法の熟練度は少しづつ上がってはいるものの、その度にヒスイ姉さんの木属性魔法の攻撃も激しくなるばかりだった。
《なるほどのぉ。ヒスイも中々厳しい修行をするもんじゃ。じゃが、的を得た修行ではあるがのぉ》
「笑い事じゃないよ!! 今日も何回足に穴が空いたと思ってんのさ!? だから、ヒスイ姉さんが使っている木霊の応用が何とか出来れば、逃げる事や捕まえる事も少しはマシになると思うんだ……」
《なるほどなるほど、エントは頑張り屋さんじゃのぉ。どれ、なればここは儂がひと肌脱いで、寝る前に少しだけ特訓するかの?? たまにはヒスイを驚かせてやるのも面白いかもしれんからの》
「おおお!! じぃちゃん有り難う!!」
《ほっほっほ、さっそく始めるかのぉ。木霊における探知と索敵の違いからじゃがーー》
じぃちゃんの説明によると、いつも使っている木霊は地面を通して相手の身体に魔力の波をぶつける事で、相手の魔核に響かせ会話を行っている。
それに比べ探知バージョンの木霊は魔力の波を太くする必要があり、多く長く流して、自分の魔力の波が返って来るのを感じ取り、何処に何があるかを把握するというのがこの方法だ。
イメージとしては、潜水艦などに搭載されている音波を使ったソナーと言えば良いだろうか。
次に聞いたのは索敵だが、これは更にハードルが高いものだった。
簡単に言えば、探知をずっと使い続ける事なんだが、正直、今の俺が持つ魔力量にではキツイ為、直ぐに索敵の難易度が理解出来た。
理屈がわかった所で、じぃちゃんの前に座り、実際に使えそうな探知を試した。
(波を……伸ばすって……こうか??)
普段の木霊で使う魔力量を増やし、展開してみた。
《まだまだ短いの》
(もっともっと長く伸ばす……イメージ)
さらに放出する感覚を意識して魔力を込めた。
《まだまだ荒いが、まずはそれで良いじゃろう。次は返って来た自分の魔力を感じられるかのぉ??》
出す事ばかりに集中していて、それ以外の事を感じる余裕などまるでないのに気付く。
(…………わからない)
《ほむほむ、なればもう一度じゃ。次は、さらにもっと長く波を出してみよ》
(ええ!? さらにとか簡単に言われても……)
そこから諦めずに、何度も何度も試行錯誤を繰り返した俺は、とうとう可能性の糸に触れる。
ザワ……
「……ん!? なんか感じた!!」
この感覚は何と言えばいいのだろう。
上手く言葉に出来ないけど、例えるなら目を瞑っている状態で色んな方向から温い風を心臓の辺りで感じとっているかのようなそんな不思議な感覚……
《おおお!! どんどん繰り返して行けば、細かい部分まで分かるようになるからの》
ぼんやりと周りに何かがある程度しかわからないが、確かな感覚に手応えを感じた。
《補足じゃがの。出す波が上手であればあるほど、感じとれる事もより多く繊細なものとなる。故に、出す波がまずは何より大切じゃ。儂クラスになれば、エントの細かい表情や地面の下におる小さな虫達の事までもわかるがの!! ほっほっほ》
「凄!? そこまでわかる様になるの!?」
《勿論じゃよ。諦めず続ければ、いつかエントにも出来るじゃろう》
俄然やる気が出た俺は、それから毎日秘密の特訓を続けた。
勿論、その間も鬼ごっこは続いていて、木霊以外の『身体強化』と木属性魔法の『グロウ』は使い、捕まらない為に全力は尽くしたが、相変わらず穴だらけにされては悲鳴を上げながら『ヒールウォータ』を浸すら掛けまくる日々が続いた。
血の滲むような……いや、滲む修行のおかげか、どの魔法も徐々に展開時間とその効果が上昇して来たが、やはり一度もヒスイ姉さんには勝てない。
木霊を敢えて使わないのはある程度使えるようになった時、ヒスイ姉さんをあっと驚かせる為にあれから見せていない。
(ヒスイ姉さん……もうすぐギャフンと言わせるからな!!)
俺はヒスイ姉さんと別行動してる隙があれば、ひたすら探知の練習を繰り返していった。
そして、とうとう鬼ごっこを始めて一ヶ月が経過した。
その頃には自分を中心に約三十メートル範囲で、人サイズくらいまでのものなら把握する事が可能となっていた。
《ふむふむ、順調じゃの。では、いよいよ質を上げるかのぉ。エントよ魔力の波をもっと薄く静かに流すのじゃ。今のままじゃと、恐らくヒスイには気付かれるじゃろう。故に、薄く静かに波を起こすんじゃ。そして、それが出来れば……まぁえぇかの、まずはやってみよ》
確かに探知はバレたら意味が無い。
さっそくやってみたが、ある程度まで薄くしていくと、薄くなったり太くなったりして、それを直そうとすれば更に乱れていく。
何度も何度も繰り返しても、上手く出来ない。
日中散々魔力を使いまくっているのもあり、結構キツイ。
「はぁはぁ!! 駄目だぁあああ!! 無茶苦茶難しい!!」
《ほっほっほ》
「じぃちゃん、何かコツか何かないの!? 拡げて行く余裕すら無いよ……」
《そうじゃのぉ、お主は綺麗さを求め過ぎておるかものぉ。円も厚さも綺麗過ぎるの》
「綺麗な円や厚さの方が、効率的かなって思うんだけど……じぃちゃんはどんな感じでやってるの?」
《ほっほっほ、儂かの?? 儂は水をイメージしとるの。自分の周りに水溜りが出来て、何処までも何処までも拡がって行く……そんなイメージじゃの。それが儂の綺麗じゃよ》
「水、水溜まりか」
俺は再度イメージし直して試す。
目を閉じて集中する。
静かに水が徐々に拡がる様に……
最初は、厚くても良い……徐々に……薄く広く……水が……何処までも……拡がる様に……
世界が広がる様に。
《…………見事なり》
「!?」
俺はじぃちゃんの声で我に帰った。
呆然としていたのは、未だ経験した事の無い範囲の情報量と、その精度を一気に感じたからだ。
(凄い!! 今までとまるで違うものだった……)
《エントよ、まだ入り口じゃが教えておこう。木霊の真髄は薄ければ薄い程拡がり、薄ければ薄い程精度が上がるんじゃ》
(魔力の量は同じでも、薄くすれば拡がる面積はさらに拡げられて、尚且つより精度が上がるって事か……凄いな)
《これなら鬼ごっこでも十分いけるじゃろ。ほっほっほ》
この日でじぃちゃんの秘密の特訓は、ひとまず終わりになった。
そしてもう一つ教えて貰った事がある。
《そう言えば友が教えてくれたんじゃがの、広範囲で探知する木霊の事を……》
友とは恐らく旅人さんの事だろう。
旅人さんも色々訳ありっぽいがハイエルフで木霊を使える。
ハイエルフ達の中で、探知における木霊の使い方を皆こう呼んだと言う。
【山彦】
そして明日、ヒスイ姉さんとの鬼ごっこに決着をつける時が来た。




