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第29話 鬼ごっこ



「わかりました。『ハードコース』ですね」


「いやいや!! ちょっと待ってぇ!!」


 何故か強引にハードコースにされそうになる。


「せ、先生!! ちょっと待って下さい!! まずは説明をお願いします!!」


「…………」


 物凄く面倒臭そうな顔で見て来たけど、ここはたぶん譲ったら駄目なやつだ。


「……仕方ありませんね」


(あ、危なかった)


「最初に言って置きますが、『ヒールウォータ』は今のエント君なら直ぐに出来るようになると思います」


「ほ、ほんとですか!?」


「えぇ、ですが、ただ出来るだけでは駄目なんですよ」


(出来るだけでは駄目??)


「回復魔法は普段の生活で使うより、緊急時に使う事の方が圧倒的に多いのです。いかに早くしっかり回復出来るか、いわゆる熟練度が重要になります」


「なるほど、つまりコースの違いは熟練度の違いという事ですか??」


「そうです。まず『イージーコース』ですが、キラとの特訓でいつも私が魔法で傷を直していますが、これからは自分で治す事により、熟練度を上げるというのが『イージーコース』です」


「おおお、無駄の無い良い練習ですね!!」


「次にちょっと(・・・・)だけ大変な『ハードコース』ですが、成長スピードは約三倍!! さらに今なら、木霊や身体強化の熟練度もついてきます!! 今だけの超お買得コースになっています!!」


(ちょっとだけ大変て言葉、矛盾してません!?)


「……ちょっとって、どれくらいですか??」


「ちょっとは、ちょっとですね」


(顔は笑っているのに、なんだこのプレッシャーは……)


「じゃあ、『ハードコース』か『イージーコース』どちらにしますか??」


「じゃあ、イージーむぐ!?」


 シュルシュル!!


 姉さんによる木魔法の蔓が、俺の口をふさぐ。

 

「ん゛ん!?」 


(なんで!?)


 あの笑顔のままヒスイ先生がゆっくりと近付いて来る。


(怖い、怖いよヒスイ姉さん!!)


「エント君……もう一度、選ばせてあげますね??」


《ヒスイ先生!! どうしてそこまで『ハードコース』に!? そんなに勧めるんだったら最初から『ハードコース』でいいんじゃ!?》


 俺は木霊でそう問いかけた。


「正直、私も辛いんです。エント君が何処に行っても生き残れるようにするには仕方無い事なんです。でも、同意無しだともしも万が一死んじゃったりなんかしたら、寝覚めが悪いじゃないですか……」


(いやだぁぁああああ!!)


「さて、最終確認です。『ハードコース』なら首を縦に、『イージーコース』なら首を横に動かして下さい」


 俺は急いで首を横に振っろうと力を込めたが、蔓で首をガッシリ固定され、まるで動かせない。


 それどころか、徐々に姉さんの蔓が後頭部をグイグイと前方に押し付けて来る。


 選択肢の無い選択……あ、名言ぽい。


 

 

 結局、次の日から『ハードコース』を受講する事になった。

 

 まず、午前中のキラ兄さんの実技が一段階アップする。


 今までのキラ兄さんは、大鎌での攻撃は無しの模擬戦だったけれど、それが有りとなった。


 キラ兄さんの技量のおかげで何とか浅い傷で済んではいるが、肌がヒリ付くような緊張感で難易度が一気に上昇する。


 浅い傷とはいえ傷だらけにはなる訳で、その場でヒスイ姉さんに『ヒールウォータ』を教わると、姉さんの予想通り直ぐに覚える事が出来た。

 

 


 でも、午後はもっと(・・・)ヤバかった。


 それはーー




 ヒスイ姉さんによる、通称【鬼ごっこ】。




 なんだ『鬼ごっこ』かと思うだろ?? 


 最初は俺もそう思っていた。


 場所はファミリア近郊の森。



《いーち、にーぃ、さーん……》



「はぁはぁ!!」


 俺は足に【身体強化】を全力で掛け、森の中を疾走している。


《きゅーう、じゅう!! 今回は何処に行ったかな?? この辺かなぁ??》


 ドスドスドス!!


 細い根が地面から槍のように突き出てくるのをやっとの事でギリギリ躱す。


《……ソコネ》


 ドス!! ドス!!


「いてぇぇえええ!!」


 足の脹脛(ふくらはぎ)に、針の穴程度の風穴が空く。


《また数えるから急いで治して逃げてねぇ。いーち、にーぃ、……》


【ヒ、ヒールウォータ】


 急いで覚えたての回復魔法を使うものの、想像以上の痛みでまるで集中出来ず、全然間に合わない。


「くそぉおおお!!」


《はーち、きゅーう、じゅう!! どこかなぁ?? 血の臭いがするなぁ。ここの辺かなぁ??》


 ドスドス!!

 

「ぐぁああああああ!!」


 今度は反対の脹脛に穴が空く。


 何故ヒスイ先生は場所が分かるのかを悲痛の中で聞くと木霊を使って索敵していると言う。


(音波を使った索敵方法なのか!?)


 俺の回復速度が見る見る遅くなり、ヒスイ先生がもう限界だろうとそう判断したらので攻守交代となった。


 一旦回復時間を取って次は俺が鬼の番。


「そこだ!! あれ!?」


 身体強化で移動スピードを上げても、木々に潜って移動するヒスイ先生にはまるで通用しない。


「エント君、使えるものは何でも使って良いですからね?? クスクス」


(ヒスイ先生、最初「私も辛いの」とか言ってたの絶対嘘だろ!?)

  

 今の俺には木霊の索敵は使えない。


 ならばと、身体強化や木属性魔法を使ってみたけど、ヒスイ先生の移動速度が速すぎて話にならない。


(でも、鬼役なら少しは休めるな……)


 しかし、そうは問屋が降ろさなかった。


「はい、十分経ったから交代ね」

 


「い、いやだぁぁああああ!!」



 俺の『ハードコース』な修行は、こうして始まったのだった。

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いつも読んで下さりありがとう御座います!

劣等魔族の成り上がり〜病弱なこの子の為にダンジョンで稼ぎます〜


こちらの新作も是非お楽しみ下さい!
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