第27話 涙の後に
アラ子姉さんに作って貰った服をじぃちゃんに見せた。
《おおお、良かったのぉ!! 良ぅ似合っとるわい。ほっほっほ》
通気性、肌触り、丈夫さ、そして何より軽い。
《どんどん儂に似て来て嬉しいのぉ。ほっほっほ》
「え?? 全然似て無いけど??」
《ふぁ!? わ、儂の葉っぱと、エントの髪は同じ色じゃし、儂の幹とお主の貰った服も同じ黒じゃろう!? 故に、お主のおった世界で何と言ったか…………そうじゃ!! ペアルックというやつじゃの!!》
「…………」
そんな他愛無い話をしていると、アラ子姉さんが帰って来た。
《アラ子やエントも喜んでおる。服を作ってやってくれて、有り難うのぉ》
「アラ子姉さん有り難う」
「べ、別に大した事じゃ無いし!!」
照れ隠しでそっぽを向く姉さんは少し顔が赤い。
《ほっほっほ、そろそろ頃合いかの》
「頃合い??」
姉さんを見ても、同じ様に首を傾げていた。
ギ……ギギギ!!
いつも閉じていたじぃちゃんの紅い目が、ゆっくり開いて行く。
《お主らに聞こう。この数日の間エントはアラ子を、アラ子はエントを凄いと思った部分をこの場で答えよ》
「な!? このガキにそんなもんある訳……」
《アラ子や、儂のこの眼は知っておるじゃろぅ??》
「ぐ……」
(じぃちゃんの眼?? ただ紅いだけじゃないのか??)
《エントはまだ知らんかったか。儂の眼は【真実の眼】と言うての、嘘か真かがわかる代物じゃ》
ナニソレカッコイイ!!
《使い過ぎると嫌われそうじゃからのぉ。普段は使わんし、今回は特別じゃ。さて、どちらからでも構わんぞい??》
アラ子姉さんは気まずそうに躊躇っているし、少し恥ずかしいけど中身は大人である俺から言う事にするか。
「昨日の一件でたまたまだけど、俺はアラ子姉さんの過去を知った。それを聞いてはじめ馬鹿だと思ったよ」
「な!? コイツ!!」
バキ!! バキ!!
《アラ子や、最後まで聞かんか》
じぃちゃんの根がアラ子姉さんの行動を止める。
「でも、一途な想いを貫くアラ子姉さんを凄いとも思った。もちろん、俺から見たら強くて美人で、裁縫も得意で、実は優しくて、沢山凄い事はあるけれど、自分の気持ちを信じた姉さんの生き方が一番凄いって、そう思った」
「…………」
アラ子姉さんは何度も口を開け閉めして、何かを言いそうになっていたけど、結局何も言わずに口を閉じた。
《ほっほっほ、エントは本気でそう思っておるのぉ。えぇじゃろ。次はアラ子の番じゃ》
「…………」
《アラ子》
「…………人間は嫌いだ。だけど、コイツは元人間で、でもあの時の人間と違うのはわかってんだよ!! チビで弱いし、ちゃんと見てないと直ぐにどっかに行っちまうし、訳がわからないクソガキだ!!」
(あれ?? 俺また怒られてる?? ナイテイイデスカ??)
「…………けど、弱いから強くなろうとしている。下手くそだから上手になろうとしている。諦めが悪いのは、い……いいんじゃないか??」
(アラ子姉さんに初めての褒められ……た?? のか??)
《ほっほっほ、嘘では無いが足りんのぉ。まだ、言っていない事があるんじゃろ?? それともエントが言えて、アラ子は言えんのかのぉ??》
「ぐ……」
(今日のじぃちゃんはちょっと意地悪だな。まぁ、アラ子姉さんはそうでもしないと言わないかもだけど)
「……そう……あ、あたいを……ごにょごにょ」
《「ん??」》
「殺そうとしたあたいを、まだ姉さんって言って来る根性が凄えって!! 言ってんだろぉおおお!!」
ドロッ
アラ子姉さんはそう叫ぶや否や、黒い液体に変わりじぃちゃんの根から抜け出すと、逃げるように森へ向かった。
(アラ子姉さん泣いてたな……)
《や、やり過ぎたかの?? ほ、ほっほっほ》
突如、辺りの空気が重々しく変わり、後ろから声が聞こえて来た。
「ジイ、エント……ゲンテンダ……ネ」
ギ、ギ、ギ!!
声がした方へ、強張る首を回した。
《「ひぃ!!」》
そこには直視出来る程の禍々しいオーラを纏い、未だかつて無い激怒なヒスイ姉さんが居た。
く、く、口から、け、煙が出てるぅ!?
「エント……追いかけなさい。女の子を泣かしてそのままなんて、ユルサナイ!!」
「も、もちろんです!!」
俺は脇芽も振らず、全速力でアラ子姉さんを追いかける。
じぃちゃん……ごめんな。
《エ、エント!! 儂を置いて……いやぁぁああああ!!》
後ろから、じぃちゃんの悲鳴が鳴り響いたのはキノセイダ。
いつもの場所にアラ子姉さんはいた。
脚を折りたたみ、上半身を囲んで丸くなっている。
「アラ子姉さん……」
「帰れ!! だから嫌だったんだよ!! 最初に殺しておけば……何も知らないまま殺しておけば、こんな気持ちにならなかったのに!!」
(あぁ……やはり姉さんはまだ人間が好きなのだ。だけど、一心に信じて裏切られ、もう信じる事が怖いのかもしれない)
「……俺は姉さんが怖かった。殺されるかもしれないと思うと怖かったよ。でも、まだ少しだけだけど、一緒にいてアラ子姉さんの事を少し知って。怖いって気持ちが減って行くのを感じる。むしろ、アラ子姉さんと居て楽しいって思う事もあった。だから俺は、アラ子姉さんの事が怖く無くなって来たんだ」
「これでもかい!!」
ドン!!!
凄い速さで目の前に移動し、俺の両足の間にアラ子姉さんの脚が突き刺さる。
(お……俺の息子がひゅっとなったよ!! ひゅってぇえ!!)
でも、よく見るとアラ子姉さんの脚は震えていた。
ここで頑張らなきゃいけない、そう思った。
「姉さん。ちゃんと顔を見て話したいんだ。高すぎるから低くなって」
人の手で泣き顔を隠している姉さんは、素直に脚を曲げてゆっくり上半身を低くする。
俺は少し躊躇いながら、そっと抱きしめて伝えた。
「俺はエント。ただのエントだ。約束する、俺は姉さんを裏切らない。騙さない。もしもそんな事をする悪い人間になっちゃったら……その時は俺を殺してもいいから」
「でも……あたいは……人間が……」
「人間を信じるのが怖い?? 違うよ姉さん……俺と貴女の話をしているんだ。人間じゃない。俺だ。俺を信じてくれ」
「!?」
「だから、俺を見て。俺を家族として認めて欲しいんだ。アラ子姉さん」
「うわぁぁあああああん!!」
その後、暫くそのまま背中をポンポンしながら、姉さんが泣き止むのを只々待った。
ヒスイ姉さんが様子を見にやって来て、仲直り出来た事を伝えると、三人でじぃちゃんの元に戻った。
《アラ子や意地悪な質問をしてすまんかったの……許しておくれ》
「……もう、いいんだよ」
《ほっほっほ、有り難うの。では、答え合わせをしようかの。どうやっても仲良くなってしまう最強の方法。ただし、一つだけ条件をクリアせねばいかん。その条件とはーー》
俺は既に何となく答えは想像出来ていた。
《ーーお互い尊敬し合うこと。ただそれだけの条件じゃ》
そう、ただそれだけの事だった。
だけどこれが難しい事を、今回初めて知った。
元の世界でも他人に対して尊敬出来る部分なんて、意識して探した事も無い。
逆に尊敬された事も記憶に無い。
皆、上辺だけの関係で満足したように振る舞い、本当はもっと仲良くなりたいのに、方法が分からず藻掻いていたように思う。
相手の尊敬出来る部分をこちらが意識して知っていれば、まず50%仲良くなれるというこの考え方は、意外に凄い考え方かもしれない。
《アラ子よ、エントよ、良く覚えておくんじゃ。考え方を知っているか、知らないかが重要なんじゃ。知る事の大切さを覚えておくようにの。ほっほっほ》
「分かったよ。じぃちゃん」
「ち……覚えておくよ」
それから俺とアラ子姉さんの関係はどうなったかと言うとーー
「エント!! ほら、汗これで拭くんだよ!! 風邪引いちまうじゃないか!! 早く上着脱ぎな!! あたいが洗っておいてやるから!! え!? 顔が赤い?? ば……馬鹿言ってんじゃないよ!! そ、そんな訳なむぐ!?」
アラ子姉さんは、ブラコンになった。
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