第26話 継がる糸
目を覚すとファミリアの皆が覗き込んでいた。
《ほっほっほ、起きたかの??》
「うひょぉおお!! うひょぉおお!!」
あれからどうなったんだっけ??
「あれ!? アラ子……アラ子姉さんは!?」
視界にいない彼女に何かあったのでは、と慌てて身体を起こし周りを確かめた。
「大丈夫よ。ね、アラ子??」
ヒスイ姉さんが後ろを向いてそう言うと、じぃちゃんの影からアラ子姉さんが気まずそうに出て来た。
「ち!! あたいがやられる訳ないだろ!?」
「良かった……無事だったんだ」
アラ子姉さんの無事を知り、ほっと胸を撫で下ろすと、そこからは兄さん姉さん達に散々と言われる事になる。
「あらあらまぁまぁ、二人とも本当に無事で良かったわね。私も魔の森で生活してる時は大変だったわぁ!! 毎日心臓が飛び出しちゃうんじゃないかってくらい緊張しちゃてねぇ?? あ!! そうそう、イチが迷子になった時なんて……」
「シュー!! シュシュ!!」
クイン姉さんの長話を、キラ兄さんが絶妙なタイミングでくい止める。
(話までキレッキレなキラ兄さんまじかっけぇ!!)
「エント〜〜無事で良かったね〜〜今度はもっと早く見つけるから〜〜」
「ジャイ兄さん心配掛けてごめんね。探してくれて有り難う」
どうやらジャイ兄さんは、俺が迷子になったと知らせが入ってから直ぐに空へ飛び立ち、一生懸命探してくれてたみたいだ。
「こら弟!! アラクネぐらいにやられるなんて、私の弟としてダメダメよ!! 刺すしかないでしょ!!」
「えぇ!? やめて!! 刺さないで!?」
あのアラクネをぐらいって……ヒメ姉さんは実は強い!?
て言うか、その可愛いお尻から針出すのやめて!!
「シュシュ!! シュー」
「そうね、キラと同意見よ。アラクネ如きでこんな事になるなら、もっと鍛えないとこれからが心配だわ」
「ア、アラクネが弱い弱い言うんじゃ無いよ!!」
さすがにアラクネが弱い弱いと言われ続けたのが我慢出来なかったのか、アラ子姉さんが不満を漏らした。
「アラ子!! 弱いのに調子に乗ったから刺しちゃうんだからね!! 刺すしかない!! うん、もう刺そう!!」
「ヒメ姉なんでそんな直ぐにーー!? ちょ、やめとくれぇええええ!!」
《ほっほっほ。まぁ確かにアラ子が今までは一番か弱かったが、今はエントが心配じゃのぉ。じゃが、あの時の木霊は見事なもんじゃった》
そう、あの時、俺は魔核にある魔力も合わせ木霊を使った。
今までも何度か試した事があったけれど、何と言えばいいか、魔核から引き出す魔力は……濃すぎる。
試すたんびに気分が悪くなり吐き気が来るので、たまにしかやらない程度だった。
《今回の件で偶然とはいえ、魔核の解放は済んだんじゃ。ヒスイ、エントには本格的な魔法を教えてやってくれんかの?? キラはアラ子も兼ねて、戦闘を教えてやってほしいの》
「爺、わかりました」
「シュシュシュ」
「ヒスイ姉さん、キラ兄さん宜しくお願いします!!」
さらに本格的な魔法と、戦う方法を学べる事に俺は素直に喜んだ。
だって、男なら強くなるってちょっと憧れるだろ??
それに出来る事を少しでも増やさないと、あの時のように何も出来ないまま終わってしまうかもしれない。
それ程ここは危険な森なのだと改めて実感したからな。
「ちょ、あたしゃ良いだろ!?」
《アラ子や……儂はまだお主が心配じゃ。長生きして幸せに生きて欲しいんじゃよ。故に今のままでもまだ不十分。強くなるんじゃアラ子、心も力も》
「ち、わかったよ…………」
今回の件で少し思うところがあるのか、予想外にも素直に受け入れた気がする。
《さて、もう夜になる。皆お疲れ様じゃったの。そうじゃそうじゃ、アラ子とエントには明日やって貰う事がある故、朝集まるように》
その後、心配かけた事を兄弟達にお詫びし、いつものようにじぃちゃんの葉っぱ布団に入る。
「はぁ〜〜」
相変わらずこの布団は気持ちが良い。
今日もまた死にかけたが、何とか生き延びれた。
時折思う事だけど、この世界は非常に命が軽い。
必死に抱え、必死に守らなきゃ直ぐに死んでしまう。
その為にももっともっと強くならなければ。
(銀髪のアラクネ……まじで怖かった。魔の森はあんなのが沢山いるのかよ……)
あの後どうなったのか、じぃちゃんから教えて貰ったけど、ヒスイ姉さんが圧倒して止めを刺そうとしたが、アラ子姉さんは以前死にそうな時に一度だけ見逃して貰った恩があると言い、今回だけ特別見逃して欲しいとお願いしたらしい。
甘いと思うし、優しいとも思う。
じぃちゃんが言ってたように、ファミリア近郊のエリアは安全だけど、少しでもそこから離れれば、極端に危険な場所へと変貌する事が身に染みてわかった。
その日はさすがにクタクタに疲れていたせいか、直ぐに意識を手放した。
次の日、朝にやる事を終えて、じぃちゃんの前に来た。
アラ子姉さんは予想通り、嫌そうな顔を着けてやって来る。
はぁ、俺との距離も相変わらずか。
《ほっほっほ、集まったの。実はヒスイから聞いたんじゃが、エントの服が昨日の一件でもう残り少ないようでの、アラ子作ってやりなさい》
「な、なんであたいがコイツの服を!?」
《もとはと言えば、昨日ちゃんとお主がエントを見とらんかったから事件は起きたんじゃ。そのぐらいしてやってもえぇじゃろ??》
「ぐ……」
「じぃちゃん、アラ子姉さん嫌がってるしいいよ。まだ後一枚あるから大丈夫。それに俺にも原因があるし……」
《ほっほっほ、なるほどのぉ。なれば、お互い様という事で、エントもアラ子に何か作ってやるとええ》
「え??」
(つまり、俺も何かプレゼントを作れって事か??)
「ち、なんであたいが……あぁ、もう!! 早く終わらせるからさっさと行くよ!!」
そう言って、アラ子姉さんはいつもの作業している森へとさっさと消えてった。
「ちょ!? 待ってよ!!」
《あぁ、エントよ。ここだけの話なんじゃが、儂らはあの娘が作る服を着てやれん。儂もほれ、これを作って貰ったんじゃが服は着てやれん。あの娘はいつも「服を作りたい」と言っておったからのぉ。ほっほっほ》
じぃちゃんが大事そうにゆっくりと、上の方から下ろしてきた枝には、黒いマフラーが巻かれていた。
《ほっほっほ、素敵じゃろ?? 儂の宝物なんじゃ。ほら、そろそろ急がんとまた怒りよる》
「それは不味い……行ってきます!!」
俺は急いで湖の奥の森へ向かった。
「ち、遅いんだよグズが!! さっさと服を脱げ!!」
(なんだろう……聞き方を変えれば、そっち系のあれに聞こえるが……いえ、冗談です)
殺されそうな目で睨まれるので、俺は言われるまま服を脱いだ。
「し、下着はいいんだよ!!」
あ、はい。
睨んだまま警戒しつつアラ子姉さんは近付き、俺を見下ろした。
(近くで見るとやっぱり色々大っきい……)
「ち、採寸するからじっとしてな!! 動いたらーー」
あ、はい。
アラ子姉さんは、俺の高さに合わせ脚を曲げてさらに近づく。
間近で見たアラ子姉さんは、やはり美人でドキドキした。
それになんだか良い匂いと……あ、胸が揺れた。
「姉さんは美人だね」
そんな思った事を言ってみた。
「な!?」
アラ子姉さんはピタッと岩のように固まり、顔がみるみる真っ赤に染まっていった。
(や、やはりそうなのか!? アラ子姉さん、貴方は……チョ)
バシッ!!
ぶっ飛ばされた。
「な、何言ってむぐ!?」
あ、舌噛んだ。
そんなこんなぎこちない雰囲気の中、ようやく糸を使った採寸が終わり、近くで座りこんで待っていた訳だが、やはり「気が散る!!」とまた怒られ、例の青い木の方に行く事にした。
前回と同じ様な事が無いようにと、アラ子姉さんは俺に糸を結び付け、「何かあったら引っ張れ」と言って作業に没頭していった。
周りを慎重に警戒しつつ、青い木の下で昨日作った糸巻き棒を拾い集め、ふと思った。
(このままじゃ味気無いな)
少し頭を捻り、はっと閃いて俺も作業に取り掛かった。
いつの間にか昼近くになり、何とか作り終える事が出来た。
タイミング良く姉さんと繋がっている糸が、グイグイ引っ張って来たので元の場所へ戻る事にした。
「ち、遅いんだよ!! ほら、出来たからさっさと着てみな!!」
そう言って投げ付けられた服は三着。
「この短時間で三着!? アラ子姉さん凄いね!!」
「だ、黙って、さっさと着な!!」
「はいはい」と返事をして、一着手にとって見る。
黒い糸で作られた服は、シルクのようにサラサラしていて肌触りと伸縮性も凄く良い。
慎重に頭と腕を通し、着心地を確かめる。
「ど、どうだい??」
「アラ子姉さん!! 凄い着心地良いよ!! 最高だ!!」
今まで着ていた服とは段違いで本心のまま伝えた。
「あ、当たり前だ。あたいが作ったんだからね!!」
アラ子姉さんはほっとしたような顔で、凄く満足そうなドヤ顔だ。
この服は本当に着心地が良く、生地の細かさもそうだが通気性も非常に高い。
元いた世界であったとしても、かなり高級な部類の服かもしれない。
それぐらいアラ子姉さんの服は凄かった。
だからこそ、俺のプレゼントは渡しづらい……
「あ、あの、アラ子姉さん?? 俺のプレゼント、下手くそなんだけど……」
そう言って蔓で梯子の様に結んだ糸巻き棒を、ぐるぐると巻いて束にした物を差し出した。
「へぇ、こりゃ運び安くて良いね!! あんがとよ!!」
「あ、いや、それだけじゃ無くて……」
「ち、言いたい事があるならはっきり言いな!!」
俺は指を一本立てて、もう少し良く見てと促した。
それに気付いたアラ子姉さんは、もう一度糸巻き棒をちらっと見る。
「!?」
やっと、気付いた。
俺は不器用ながらも糸巻き棒に細工とも言えないレベルの彫刻を施し、アラ子姉さんやファミリアみんなの絵を彫った。
一本一本にそれぞれのファミリアの笑ってる絵を彫った。
もちろん、俺もアラ子姉さんも笑ってる。
俺はいよいよ恥ずかしさから、その場の空気に耐えられず、「先に帰って、自慢してくるよ!!」と言い訳を残し、じぃちゃんの元に走って戻った。
「ぷ、なんだい、この下手くそな絵は……ふふふ」




