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第24話 紡ぐ糸、繋がる糸

 俺の姉であるアラ子姉さんは、アラクネと呼ばれる魔物だ。


 上半身が人間、下半身が蜘蛛の脚であり、恐らく本来は六本あったはずだけど一本足り無いのと、服を着て隠しているように見える首元から少し見える深い傷跡を見れば、過去に何かあったに違いない。


 脚は会った時に直ぐ気付いたが、首元から下の傷は最近知った事だった。


 出会った時のあの異様な怒りようは、もしかしてと頭に浮かぶ事も多々あるものの、触らぬ神に祟りなしと頭を振る。



 あれから一週間が経った。


 その間は本当に散々な目にあった。


 俺とアラ子姉さんはじぃちゃんの言い付け通りに、あの日から一緒に行動を伴にし、ヒスイ姉さんの畑仕事やキラ兄さんの狩り、それにクイン姉さんのキノコ作りやジャイ兄さんの配達用の荷作り、そうそうヒメ姉さんの巣作りに至るまで、以前のローテーション通りに手伝いを行った。


 そんな中、アラ子姉さんは一々何かする度に馬鹿にしてくるし、勇気をだして此方から近付こうにも「近付くな糞ガキ!!」と取り付く島もない。


 それだけではない。


 極稀に二人きりになった時など、隙を狙って殺気を臭わせる時が何度もあり、生きた心地がしなかった。


 幸いそんな危ない時は、何処からとも無くうひょが現れ、叫び声を上げてヒスイ姉さんを呼び出してくれたお蔭で事なきを得ていた。


 うひょ……まじで天使。


 毎日夜には約束通りに、それぞれじぃちゃんへその日の報告もちゃんとしているんだけどーー


(何時までやらされるんだ……)


 正直じぃちゃんが言っていた方法も、実は『時間が解決する』的な微妙な方法なのかもしれないとさえ思って来た。


(いかんいかん)


 頭を横に振って、これからの事を考えねばならない。


 何故なら、今日初めてアラ子姉さんの手伝いをする訳なんだが……



 何もさせて貰えない。



「近付くんじゃないよ!! 糞ガキは離れて見てな!!」


「……わかった」


(まぁ、本人が何もするなと言っているんだ。座って見学しとこ)

 

 今いる湖の奥にある森は、薄暗い場所が多いのと俺がいきなり襲われた場所という記憶も残り、あんまり好きになれない。


 アラ子姉さんの仕事って何だろうと様子を見ていると、口から糸を吐き出して、大きな脚の先を器用に動かして木の棒に巻き始めた。


(おおお、凄い!!)


 時折、吐く糸の色が白以外の物に変わるのは、正直なところ見ていて面白い。


(黙っていれば美人でナイスバディだし、裁縫も嗜む素敵なお姉さんって感じなんだけどなぁ……上半身だけは)


 

 何故か、ニラマレタ。

 


「おい糞ガキ、見られてると気が散る。この先にある青い木の枝で、糸を巻く棒を作って来い!!」


 太……大きい脚を縦にシッと動かし、邪魔だと言わんばかりだ。


「わかった。これ一本借りて行くね」


 ふ、こんな扱いにも慣れてきた。

 

「ち!! 好きにしな!!」


 まぁこちらとしても、何もしないで見てるのは居心地が悪かったので良かった。


 言われた方向に進むと、絵の具を塗ったかのような、青い葉っぱの木が群生していた。


「さすが異世界!!」と思わず口に出てしまう程のその異様な色の木にさっそく登り、ナイフを使って手頃な枝を落とすと木の下でちまちま削る作業を始めた。


 出来るだけ姉さんに文句を言われないように、借りた木の棒を真似て同じ様に作っていく。


 削ってみてわかったのは、この木は凄くしっとりしているのに、全然ベタつかないし、まるでニスを塗った後のような光沢がある。


(このツルツルが、糸を巻くには丁度良いのかな??)


 木を無心で削っていくと、時折色々な事が頭をよぎる。


 アラ子姉さんとの仲は中々縮まってはいない現状だが、正直なところ、俺の中身は三十代後半の立派なおっさんだ。


 その立派なおっさんとしては、此方こちらから歩み寄ろうと頑張ってみてはいるが現状上手く行っていない。


(はぁ、参ったな……)


 そんな風に思いを馳せつつも、駄目元でアラ子姉さんが喜びそうな工夫でもしてみるかと、僅かな工夫を凝らしてはまた作業に没頭して行くのだった。


 十本目が完成し、そろそろ戻ろうかと思い立上り、膝の汚れを払ったその時だった。


 不思議と自分の影が違和感がある程大きくなっているのに気付く。


(あれ?? なんか変だな……)

 

「うひょぉおお!! うひょぉおお!!」


 肩に乗っていたうひょが突然、普段とまるで違う声色で叫び出したので、思わず飛び上がりそうな程驚いた。


「グォオオオオオ!!」


 聞き慣れない声に反応して振り返ってみるや否や、それが何か確認する前に、ぶっ飛ばされた。


「ガハ!!」


 近くの木にぶつかり、吹き飛ばされた衝撃で肺の空気が全部出てしまい、上手く呼吸出来なくて滅茶苦茶苦しい。


 無意識に視線を上げたその先には、只々デカイ熊が立ち上がり、こちらを見下ろしていた。


「ゲホゲホ!!」


 直ぐに逃げなければとは思ったが、息苦さと(あばら)が想像以上に痛み、思う様に動けない。


「グォオオオオオ!!」


 デカイ熊は叫びだすと、四つ足を着き直して勢い良くこちらに襲いかかって来た。


(やられる!!)


 だが次の瞬間、目の前に影が現れ、それ(・・)は糸を吐き出した。


 デカイ熊は糸で足が絡まり、勢いそのまま滑り転けると、怒り混じりに叫び声を上げて藻掻き出した。


「アラ子姉さん!!」


「何やってんだいこの糞ガキは!! ここは任せてさっさと逃げな!!」


 襲ってきた熊を再び見れば、ブチブチと糸を引き千切っている。


 何も出来ない俺は、アラ子姉さんが言った通りに痛む身体を動かして逃げた。


(とにかくこの場から逃げないと邪魔になる!!)


 走れ!! 走れ!! 走れーー




 必死に逃げ、あれからどれ位経っただろう。


 いつの間にか、逃げ込んだ森の中で霧が出て来た。


 霧は想定外な程、あっという間に濃くなって、視界はほんの少し先までしか見え無くなっている。


「はぁはぁ!! うひょ、帰る方向分かる!?」


「うひょ、うひょひょ」

 

 うひょ語は分からないけど、力なく首を横に振っている所を見ると、うひょもこの場所が何処か分からないようだ。


「そうか……痛ッ!!」


 いよいよ走り疲れ、木の根元で腰をおろした俺は怪我の具合を確かめる。


 よく見れば、旅人さんに貰った折角の服が爪で引き裂かれて台無しになっていたけれど、幸いにして深い傷は無く、血が少し滲む程度だったのはラッキーだと言える。


(……だけど、骨はたぶん折れてる)


「こっちの世界に来てから、痛い思いばっかりだな……」




 パキッ




 枝を踏んだ音が近くから聞こえる。

 

「アラ子姉さん!?」


「……こんにちわぁ」


 何処かまったりした女性の声。


「誰!?」


 間をおいて霧の中から徐々に姿を現したのは、見た事の無いアラクネだった。


「アラ子……あの娘の知り合いかな?? あの娘は元気にしてるかな??」


 話の流れで、すぐにアラ子姉さんの知り合いだと分かった。


 このアラクネも上半身が人で、下半身が蜘蛛の六本脚だが、アラ子姉さんの髪が黒なのに対し、目の前にいるこのアラクネは銀髪だった。


 それに美人で胸がまる出しなのもーー


 まる出し!?


(服ぅううう!! えぇ!? 服着てないよこのアラクネ!! 堂々としていて逆に見辛いけど……見ます!! 眼福デス!!)


 脳内では天使と悪魔の壮絶な戦いを繰り広げつつも、何とか気にしない体で挨拶する事にした。


「アラ子姉さんのお知り合いですか?? 僕はエント。最近ファミリアに入ったばかりなんですが、途中デカイ熊に襲われて……」


「まぁ、それは大変だったわね。それにしても、君がアラ子と兄弟かぁ。良いと思うわぁ。クスクス」


 手を口に当て可愛らしく笑う銀髪のアラクネ。


「まだまだ、慣れない部分が多いですけど。っ痛!!」


「あら、怪我をしているのね。可哀想に……こっちにいらっしゃい」

 

 少しほっとして銀髪のアラクネに近付いた瞬間だ。


 身体がふわっと持ち上がる感覚に襲われた。


「うわ!?」


「うひょ!? うひょぉおお!!」


「ギャハハハハハハ……いけない、いけない……下品ね。思いの外簡単に捕まえちゃったんだけど、貴方、本当に魔王樹ファミリアなの?? 弱すぎと言うか油断し過ぎだし、ただの人族の子供みたいだし、それにとっても……ウマソウダ」


 今までの優し気な顔が一変、凶悪な捕食者の顔になった。


「どうして!?」

 

「どうしてってねぇ、貴方気付いていないの?? ここはもう貴方達のエリアじゃ無い……ここは魔の森よ」


(魔の森!?)


「スンスン……ちょっと臭いが変だけどぉ。人間の子供を久々に食べれるぅううううううう!!」


 そのアラクネはヨダレを垂らし、濁った目で俺を見る。


(い、嫌だ……やめろ。やめろぉおおお!!)


 逃げようと必死に手足を動かすが、ネバネバして全く取れる気配がない。


 ガジガジガジガジ!!


 うひょが持ち前の口で、糸を必死に噛み切ろうとするが……


「うふふ、無駄よ」


 だが俺とうひょは、さらに糸を吹きかけられてしまい、殆ど動けなくなってしまった。


「この変なマンドラゴラは要らないかな」


 バシッ!!


 そう言うと、銀髪のアラクネは腕を振るい、うひょを吹き飛ばしてしまった。


「ぶひょ!!」


「だ、大丈夫かうひょ!?」

 

 うひょは何処かに飛ばされ、ここからでは確認出来なかった。

 

「さて、さっさと巣に持って帰って食べよう!!」


 俺は器用にぐるぐるに巻かれミノ虫状にされると、腕に抱えられて運ばれ始めた。


「た、助けてぇええええ!! アラ子姉さん!! ヒスイ姉さん!!」

 

「ダマレ」


 等々、口周りも糸で封印された。


「ん゛んんんんんん!!」


「しっかし、君が本当に弟だとすれば、あの娘も相変わらず人族が好きなのねぇ。キモイからやっぱりちゃんとあの時殺しておけば良かったわ」

 

「ん゛!?」


「え?? あれ?? あれれ!? もしかして何も聞いていないの!?」

 

 面白くはないけれど、俺は頷く他なかった。


 俺はアラ子姉さんの事をほとんど知らないのだから。


「ギャハハハハハハ!! いけないいけない。ぷ……ギャハハハハハハやっぱ無理ぃいいいい!! ギャハハハハハハ!!」


 何がそんなに面白いか分からないが、腸が煮えくり返りつつも、このアラクネが話すのをじっと待った。




「実はあの娘……人族に飼われていたんだよ」

 

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いつも読んで下さりありがとう御座います!

劣等魔族の成り上がり〜病弱なこの子の為にダンジョンで稼ぎます〜


こちらの新作も是非お楽しみ下さい!
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