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第160話 貴方へ

 


 ……あれから数年の月日が流れた。


 

「ぎゃははは!! やったぜこんちくしょう!!」


 馬に激しく鞭を打ち付け、ロムルスの森を突っ切る馬車には盗賊と思われる二人組が醜悪な顔で乗っている。


「ひゃははは!! 兄貴、やりやしたね!! こんだけ獣人や魔族のチビ共がいりゃあ、飼い慣らしても売ってもよしで、ますますあっしらの賊はでかくなりやすねぇ!!」


 弟分なのかは知らないが、同じような下衆に違いはないだろう。


「あの方の言う通りだったぜぇ!! 俺等の界隈じゃあヘルメスの警備はえげつねえってのはもう常識だ。が……まさか、あんなもんで引き付けれるなんてなぁ!? 腹がいてぇよ!! ぎゃはははは!!」


 盗賊達がでかい声で笑う度に、馬車の中から聞こえる泣き声は大きくなった。


「……って言われてるぞ??」


「ぷっひょ!! ぷっひょ!!」


「まぁそれは後にしよう。ロムルスいけるか??」


《ふふふ、了解した》



 バキバキッ!!



 突如、馬車の進行方向から巨大な樹木が生え、馬が驚き悲鳴を上げて転けると、乗っていた盗賊は地面に振り落とされた。


「ぐ……痛ってぇ!! て、てめぇ……何もんだ!!」


「あ、兄貴、こいつ例の魔物を連れてやすぜ!?」


 盗賊達は直ぐに腰に仕舞っていたナイフを抜き取り、眩しく光る得物をこちらへと向けた。


「俺の事か?? そうだな……俺に名はない。ただ知人が呼び辛いって言うから、今は『旅人』と名乗っている……まぁ、お前等が覚える必要はないが、な!!」


 俺は瞬時に距離を積め、二、三発腹に拳を叩き込むと盗賊達は気を失ってその場に倒れた。


「久しぶりに戻って見れば、いきなりうひょの尻拭いなんてな……目まぐるしい発展というのは弊害も多そうだ」


「ぷっひょ!! うひょぉおおおおおお!!」


《まぁそう言ってやるな。うひょは良くやっていると思うよ。それより、馬車に乗った子らを助けなくて良いのか??》


 ロムルスの助言で慌てて馬車をこじ開け、怪我をしている子がいれば治療し、動揺している子には特性の飴を与え、もうすぐ到着するであろう救助を待った。


 あれからヘルメスは救世主アリアを中心に想像以上の発展を繰り広げている。


 もともと多種族での共同生活を経験したノウハウや三商人という組織もあって、それを大いに活用し始めたアリアの見事な采配と、幅広い知識、合わせてこの世界を救ったという絶大な影響力によって、最早その勢いは留まる事を知らないようだ。


 ただ、そんなヘルメスにもやはり問題は出てくる。


 ある程度はヘルメス自身の体制で対応出来てはいるが、ヘルメスの外や今回のような内部での暗躍……なんかもな。


「うひょおおおおおおお!!」


 うひょが何かを察して叫び出すと、どうやら救援部隊が来たようだ。


「ぴっひょ!! ぴっひょ!!」


 無数のちびうひょ達と共に現れたのはーー


「帰ってたのね!? エンーー旅人さん??」


 ーー魔王樹ファミリアの兄弟だった。


 いや、ヒスイ姉さん……ほぼ言ってるよ!?


「それは言っちゃ駄目だろヒスイ姉。エントは死んだ事になってんだから、なぁ??」


 いやいや、アラ子姉さん何言っちゃってんの!?


 ゴクリと喉を鳴らし、それを聞いている子供達の方を振り向くとーー


「あーー!! もりのまもりびとさんたちだ!!」


 捕まっていた子供達は一斉に、遅れて来た兄さんや姉さん達に駆け寄ると、ジャック兄さんの格好良い脚を抱き締めてキャッキャと喜ぶ子もいれば、ヒスイ姉さんの優しい雰囲気に安心して泣き出す子もいたりと、心配するような事など微塵もなくホッと胸を撫で下ろすのだった。


「アラ子ちゃん凄い!! 私の服が直ったぁ!!」


「ほ、褒めても何もやらねぇからな!? ほれ、さっさと帰んよ!!」 


 子供達と兄弟を見守るように最後尾でヘルメスへ帰る。


 森の木漏れ日が無数に行き先を映し出し、全ての種族と魔物が笑って一つの道を歩んでいる。


 その景色を見れば、この世界に転生して俺が俺自身で決めた守りたかったもの、それは間違ってはいなかったのだと、そう強く思った。











 



「なぁ……いるんだろ??」








 エントは不意に振り向き、貴方(・・)を見詰めた。


 






「ずっと見られている気がしてた……貴方が誰で何者なのかは分からない。でも、一度も嫌な気持ちにはならなかったし、寧ろ何処か懐かしい気さえする……」


 青年となった彼は何処か逞しい瞳で、優しく微笑んだ。


「前世もこの世界に来たばかりの頃も、自分を犠牲にする事が良い事だって本当に思ってた。でも、自分が苦しいだけで全然上手く行かなかった。幸運にもアリアさんから学んだ『自由の刑』、それで俺の人生は変わった。俺や貴方は物じゃない。生まれた時から目的を持たず、意味はなくて、自分で自分の生きる意味を決めなければならない」


 前方からエントを呼ぶ声が聞こえ、彼は一つ返信を返すと、最後に力を込めてこう言った。


「俺はもう大丈夫。けど、もしも貴方が道を見失い、途方に暮れる日が来て、誰も貴方に手を差し伸べないのなら……俺が代わりに言ってやる……貴方をーー」















「自由の刑に処す」

最後までお読み頂き、本当に有り難うございます!!読者の貴方へ、何か一つでも伝えられたものがあれば、これ程嬉しい事はありません。最後に↓の☆マークにて、この作品を評価して貰えれば、この物語も喜んでくれると想います。宜しくお願い致します。そして、この物語に触れて頂いた全ての方へ感謝を!!

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いつも読んで下さりありがとう御座います!

劣等魔族の成り上がり〜病弱なこの子の為にダンジョンで稼ぎます〜


こちらの新作も是非お楽しみ下さい!
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